線虫用ttTi5605ローカス発現ベクター

概要

特定の遺伝子座に外来遺伝子を1コピーのみ導入する方法は非常に有用で、モデル生物C. elegans(線虫)において、広く行われてきました。ttTi5605ローカス発現ベクターはC. elegansにローカス特異的にシングルコピーを導入する方法として、その性質は非常によく検証されており、効果の高いシステムです。本システムは導入遺伝子をMos1トランスポゾンまたはCRISPR技術を利用してゲノムにインテグレーションさせて安定的な発現を誘導できます。

Mos1トランスポゾンはDrosophila mauritiana で最初に同定されました。非常に長い間かけてC. elegansの系統改良を経て、特定の位置にMos1トランスポゾンが挿入された系統が開発されました。その一例がC. elegansのttTi5605ゲノム領域で、Mos1領域を持っていました (https://wormbase.org/species/c_elegans/variation/WBVar00254893#02-456-10)。ttTi5605ローカスが挿入サイトに選ばれたのは、周辺の遺伝子の機能に影響がないことも大きな要因でした。さらに、Mos1トランスポゾン切断技術により、目的遺伝子をシングルコピーとして挿入することができ、線虫のRNAiシステムで発現抑制されません。Mos1によるttTi5605ローカス特異的な組み換えを起こすには、熱ショックによって制御されるトランスポゼースをコードするヘルパープラスミドをttTi5605ローカス発現ベクターと共にトランスフェクションします。熱ショックを加えるとトランスポゼースの転写が活性化され、結果的に線虫のゲノムからMos1トランスポゾンが切除されます。そして、二重鎖切断された部位は外から加えた配列によって修復され、恒久的な遺伝子組み換えとして残ります。Mos1を介したシングルコピー挿入(Mos1-mediated Single Copy Insertion:MosSCI) によって、目的遺伝子はC. elegansの第二染色体、ttTi5605ローカスに挿入されます。

ttTi5605ローカス発現ベクターには目的遺伝子を発現させるために、いくつもの重要なコンポーネントが含まれています。まず、弊社のプロモーターデータベースには用途によって最適のものが選択できるようにユビキタスプロモーター、組織特異的プロモーター、熱ショック誘導型プロモーターを取り揃えております。C. elegansにおいて組織特異的に発現を駆動できることが示されているspec-1、myo-2、そして myo-3もご提供しています。第二の特徴はポリAシグナルと共に3’ UTRがベクターに含まれていることで、転写後のタンパク質発現を制御していることです。最後に、野生型C. Briggsae unc-119遺伝子をフランキングDNAの間に配置することで、ポジティブ選択マーカーにしています。Unc-119 (ed3)変異体は小さく、ほとんど麻痺しており、一腹子数も少なくなり、飢餓状態になってもダウアー(耐久型)幼虫を形成することができません。よって、遺伝子導入を行った後にレスキューされたものは染色体外遺伝子を持つものになります。

Mos1トランスポゾンによる切断が引き起こす二重鎖切断の修復はゲノム中のMos1挿入サイトが非常に少ないことで制限があります。それに比べて、CRISPRを用いた技術は大幅にゲノム修飾の可能性の幅を広げます。弊社のttTi5605ローカス発現ベクターはCas9によって引き起こされる相同組み換えにも応用できます。そのためには、ttTi5605近傍を標的とするsgRNAとCas9を線虫にトランスフェクションする必要があります。

ベクターシステムの詳細については、下記の文献をご参照ください。

参考論文 トピックス
Nature. 413:70 (2001); Nat Genet. 40: 1375 (2008) Strong and heat-shock inducible promoter in somatic cells and germline
Nat Genet. 40:1375 (2008) Single-copy insertion of transgenes in Caenorhabditis elegans
Nat Genet. 40:1375 (2008); Worm. 4:e1046031 (2015) Unc-119 mutant rescue selection
Curr Biol. 1476:82 (2008) Post-transcriptional regulation of 3' UTR containing polyA signal

特長

当社のttTi5605遺伝子発現ベクターは、C. elegans線虫)のゲノムに効率的に目的遺伝子配列を挿入することができます。トランスポゼースやsgRNA/Cas9を発現するプラスミドとともに、ttTi5605 Mos1部位ターゲティングプラスミドを使用することで、部位特異的に目的遺伝子のシングルコピー挿入を誘導することができます。

メリット

ベクターDNAの恒久的な組み込み: 標準プラスミドベクターによる線虫へのトランスフェクションは時間とともにDNAが失われ、一時的な発現になってしまうのに対し、ttTi5605ローカス発現ベクターによるトランスフェクションは恒久的に宿主ゲノムに遺伝子を組み込むことができるため、安定した発現が得られます。従って、正確に遺伝子配列の編集を行い、遺伝子改変線虫を作製することができます。

技術的な容易さ:  プラスミドベクターを線虫に導入することは技術的に容易であり、ウイルスのパッケージングを必要とするウイルスベクターよりもはるかに簡単です。プラスミドをエレクトロポレーション法で導入する、生殖細胞にマイクロインジェクションする、または線虫に形質転換したバクテリアを食べさせるだけで導入遺伝子の発現が得られます。

デメリット

MosSCI を利用した場合、複数遺伝子による遺伝子編集は行えません。さらに、本技術で遺伝子改変体を得るには通常15日以上かかります。

基本コンポーネント

ttTi5605-LA:  C. elegans ttTi5605ローカスを標的とする左ホモロジーアーム (1,336 bp) 。

プロモーター: 目的遺伝子を発現させるためのプロモーターをここに設定して下さい。

Kozak: 真核生物における翻訳開始に重要なKozak配列をORF内開始コドンの前に配置します。

ORF: Open Reading Frame. 目的遺伝子のタンパク質コード領域をここに設定して下さい。

3' UTR+polyA: 転写を終結し、RNAポリメラーゼIIによって生成されたmRNAにポリAを付加します。体細胞と生殖細胞の両方で機能します。

Unc-119(+): C. elegans unc-119変異体に用いるとセレクションマーカーとして使用できる野生型遺伝子。

ttTi5605_RA: C. elegans ttTi5605ローカスを標的とする右ホモロジーアーム (1,428 bp)。

pUC ori: pUCの複製起点であるpUC oriが挿入されたプラスミドは、大腸菌において高コピー数で保持されます。

Ampicillin:  アンピシリン耐性遺伝子。アンピシリンによってプラスミド導入大腸菌の選択を可能にします。

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