Vector Systems
抗体遺伝子(重鎖+軽鎖)共発現ベクター(哺乳類)
抗体遺伝子(重鎖+軽鎖)共発現ベクターの概要
組換え抗体は診断薬や治療薬の分野で幅広く応用されています。現在、PD-L1、HER2、IL-17R、VEGFといった特定のタンパク質を標的とするモノクローナル抗体製品が、世界中で約180種類承認されています。遺伝子工学の発展により、理想的な腫瘍浸透作用、短い保持時間、免疫原性の低減を可能にし、これらの治療用抗体の生産を成功に導きました。これらの治療用組換え抗体は、主にin vitroの哺乳類細胞(例えばCHO細胞)で生産されます。この発現系における転写後修飾が、ヒトにおけるin vivoのプロセスに最も近いからです。
VectorBuilderの哺乳類用抗体遺伝子(重鎖+軽鎖)共発現ベクターはモノクローナル抗体の重鎖と軽鎖を高い収量で生産するためにデザインされたベクターです。全ての抗体は重鎖と軽鎖を有し、両鎖は可変領域(V)と定常領域(C)から構成されています。抗原結合部位は VH+VL 二量体からなり、VH と VL はそれぞれ重鎖と軽鎖の可変フラグメントを表します。これらのフラグメントの中で、塩基配列の多様性(バリエーション)の大部分は相補性決定領域(CDR)に存在し、抗原結合特異性に影響を与えます。 哺乳類では、抗体は重鎖C領域の配列に基づいて5つのアイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)に分けられます。5つの免疫グロブリン(抗体)アイソタイプのうち、IgGが最も多く血液中に存在しています。さらに、承認された治療用抗体のバックボーンはほとんどすべてIgGです。特定のアイソタイプの抗体は、軽鎖C領域によってコードされるλまたはκの軽鎖をもっています。一般的に重鎖は標的特異性に関連しているが、軽鎖は自己反応性の防止とレセプター活性化の増強に関連しています。2種類の軽鎖の比率は生物種によって異なります。
本ベクターシステムでは、重鎖と軽鎖が1つのプラスミドベクターにポリアデニル化シグナルで隔てられて搭載されています。重鎖と軽鎖の転写はそれぞれ別々のプロモーターによって駆動されます。ベクターデザインをする際に、重鎖および軽鎖の可変領域をコードする配列をカスタマイズすることにより、個別のニーズを満たす抗原結合特異性を有するベクターを作製することができます。重鎖および軽鎖の定常領域は、当社の定常領域データベース(ヒトおよびマウスIgG1およびマウスIgG2aおよび2b重鎖を含み、ヒトおよびマウスκおよびヒトおよびマウスλ2およびマウスλ1軽鎖を含む)から選択するか、またはお客様独自の配列を入力して使用することができます。さらに、組換え抗体の分泌を増加させるために、シグナルペプチド(例: IL-2 sig)をベクターに添加することができます。
ベクターシステムの詳細については、下記の文献をご参照ください。
文献 | トピック |
---|---|
MAbs. 14:2014926 (2022) | Overview of antibody therapeutics |
Nat Protoc. 13:99 (2018) | Overview of design for antibody expression vectors |
Protein Expr Purif.118:105-12 (2016) | Description of signals which can increase the secretory protein production |
抗体遺伝子(重鎖+軽鎖)共発現ベクターの特長
当社の抗体遺伝子発現ベクターは、モノクローナル抗体重鎖と軽鎖を高効率にトランスフェクションでき、高収量で得られるように最適化されています。重鎖および軽鎖の可変領域をカスタマイズすることにより、抗原結合の高い抗体を作製することも可能です。
抗体遺伝子(重鎖+軽鎖)共発現ベクターのメリット
技術的に簡単: トランスフェクション法によるプラスミドベクターの導入は、ウイルス生体へのパッケージングを必要とするウイルスベクターよりも、はるかに簡単な技術で行うことができます。
再現性と大量生産: 組換えタンパク質は、トランスフェクトされた宿主細胞から直接採取されます。したがって、異なるバッチの再現性は容易に達成できます。さらに、宿主細胞の増幅により、大規模な抗体生産が可能になります。
抗体遺伝子(重鎖+軽鎖)共発現ベクターのデメリット
不安定な導入(インテグレーションされない): トランスフェクション法で導入されたプラスミドベクターのほとんどは、ゲノムDNAに組み込まれることなく、細胞内でエピソーマルに存在しており、その導入は一過性です。しかしながら、非常に低い頻度 (102 から106 細胞あたり1か所)でゲノムDNAに組み込まれ、恒久的に導入される場合もあります。その場合、薬剤耐性や蛍光マーカーがプラスミドに挿入されていれば、プラスミドがゲノムDNAに組み込まれた細胞を薬剤耐性やセルソーティングによって選別することができます。
重鎖と軽鎖の最適な発現比率の設定が難しい: すべての抗体は重鎖と軽鎖から構成されています。抗体産生を成功させるには、重鎖と軽鎖の正確な発現比が必要です。重鎖と軽鎖のコード領域は同一ベクター上に搭載されていますが、プロモーターオクルージョンなどのメカニズムにより、重鎖と軽鎖の最適な発現が保証することはできません。具体的には、下流プロモーター近傍に配置されたコード領域は、上流プロモーター近傍に配置されたコード領域よりも低いレベルで転写される可能性があります。
抗体遺伝子(重鎖+軽鎖)共発現ベクターの基本コンポーネント
Promoter: 目的遺伝子を発現させるためのプロモーターをここに配置します。
Kozak: Kozakコンセンサス配列。真核細胞において翻訳開始を促進させるため、目的遺伝子ORFの開始コドン直前に配置します。
IL2-sig: ヒトインターロイキン2のシグナルペプチド。タンパク質の分泌を促進します。
Heavy Chain Variable Region (VH): 抗原認識を司る重鎖可変領域。
Heavy Chain Constant Region (CH): アイソタイプを決定する重鎖定常領域。
BGH pA: ウシ成長ホルモンポリA付加シグナル。上流ORFの転写を終結させ、Pol II RNAポリメラーゼによって転写されたmRNAにポリAを付加します。
Light Chain Variable Region (VL): 抗原認識を司る軽鎖可変領域。
Light Chain Constant Region (CL): 軽鎖定常領域。
SV40 late PA: ORFの転写終結に重要なシアミンウイルス40後期ポリA付加シグナルをORF下流に配置します。
Marker: 薬剤耐性遺伝子 (例:ネオマイシン耐性遺伝子)、可視化遺伝子(例:EGFP)、またはデュアルレポーター遺伝子(例:EGFP/Neoの共発現)などのマーカー遺伝子。マーカーによってベクター内の遺伝子導入の有無を薬剤選択または可視化にて選抜できます。
pUC ori: pUCの複製起点であるpUC oriをコードするプラスミドは、大腸菌において高コピー数で保持されます。
Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。アンピシリンによってプラスミド導入大腸菌を選択します。