BAC編集(リコンビニアリング)受託サービス

バクテリア人工染色体(Bacterial artificial chromosomes、BACs)は大腸菌細胞内で300kb以上の長大DNA配列をクローニング、安定維持することができるDNAベクターです。BACは、相同性組み換えを利用したBACリコンビニアリングと呼ばれる遺伝子編集技術によって、比較的簡単かつ迅速に希望する改変を導入できます。

ベクタービルダー社は発現制御配列の下流にレポーター遺伝子を配置する、目的遺伝子に点変異を導入する、BACの転移領域をプラスミドに移し替える、薬剤選択マーカーもしくは可視化マーカーとBACバックボーンに追加する、などの様々なBAC編集サービスを提供しています。実験目的を記述したデザインリクエストを送っていただければ、あとは当社がBAC編集方法の設計、BAC作製注文、作製された最終BACクローンの検証までのすべてを請け負います。

サービス詳細

価格と作業日数 プライスマッチ

BAC編集の価格と作業日数は必要工数が多くなるためにやや高額になります。しかし、独力でBAC編集をするよりも当社に委託するほうがずっと経済的であることに変わりありません。BAC編集は複雑でエラーが起こりやすいために、独力で行う場合は試薬の準備、プロトコールの検証、トラブルシューティングに1年は費やすことになります。そのような煩雑な事柄は当社にお任せいただければ、その時間を仮説の設定、実験の計画立案に使うことができます。当社のBAC編集サービスの概要を表1に、価格と作業日数については表2にまとめました。

図1. BAC編集サービスの概要

サービス内容 価格(税別、送料別) 作業日数 備考
ノックイン
EGFP, mCherry, LacZ, GCaMP6s, ルシフェラーゼ, DTR 480,000円 42-63日 1ステップBAC編集で使用する薬剤選択カセットは除去される。
656,000円 63-84日 1ステップBAC編集で使用する薬剤選択カセットは除去される。 BACバックボーンにpiggyBac ITRが付与される。
Cre, CreERT2 1,149,000円 98-119日 1ステップBAC編集で使用する薬剤選択カセットは除去される。BACバックボーンのLoxPサイトは除去される。BACバックボーンにpiggyBac ITRが付与される。
カスタムDNA配列 お問い合わせください。
点変異
カスタム点変異 896,000円 49-77日 2ステップBAC編集
1,072,000円 70-98日 2ステップBAC編集; BACバックボーンにpiggyBac ITRが付与される。
BACバックボーン上のloxPサイトの除去
pBACe3.6 717,000円 63-84日 Place3.6バックボーンのloxPとloxP551がCreに作用してゲノム内で不要な組み換えの発生する可能性がある。BACバックボーンにpiggyBac ITRが付与される。
他のBACクローニングベクター お問い合わせください
BACからプラスミドへのDNA配列の移し替え
pStart-K 480,000円 35-49日 記載されている価格はDNAのサイズが30kb以下の場合になります。30kb以上のDNAの移し替えをご希望の場合、追加料金が発生することがあります。pStart-Kプラスミドバックボーンは60kb(より大きなサイズも可)のDNAを挿入できます。pStart-K-ITRバックボーンは挿入サイトの両端にpiggyBac ITRが配置され、piggyBacトランスポゼースによるDNA挿入が可能です。
pStart-K-ITR
他のプラスミド お問い合わせください
BACバックボーンへの可視化マーカーもしくは他エレメントの追加*
Neo, Puro, piggyBac ITRs 224,000円 35-42日 これらのエレメントはBACバックボーンのloxPのあいだに配置される。
他のエレメント お問い合わせください

*当該サービスはloxPサイトを持つBACバックボーンのみに利用可能です。BACPACリソースセンター由来のBACのほとんどはloxPサイトを持っています。

価格は予告なく変更される場合があります。

図2. BAC編集サービスの価格と必要日数の内訳

サービス内容 価格(税別、送料別) 作業日数
BAC編集方法の設計 無料 1-4日
BACをベンダーから入手 48,000円 2週
1ステップBAC編集(薬剤選択カセットを除去しない) 334,500円から* 2-4週
オプション:1ステップBAC編集による薬剤選択カセットの除去 56,000円 1-2週
2ステップBAC編集 816,000円から* 4-8週
BACバックボーンに薬剤選択マーカーまたは可視化マーカーを追加** 176,000円から 1-2週
BACの一部領域をプラスミドに移し替える 432,000円 2-4週
BAC編集の検証 無料 1週

*導入DNA配列の複雑性に応じて価格が変動する可能性があります。

当該サービスはloxPサイトを持つBACバックボーンのみに利用可能です。BACPACリソースセンター由来のBACのほとんどはloxPサイトを持っています。

価格は予告なく変更される場合があります。

BAC編集方法の設計

ベクタービルダー社の経験豊富なチームが、ご要望のBAC編集を実現するために詳細かつ効率的な方法を立案します。費用はかかりません!

BACをベンダーから入手

必要なBACのID番号がわかっているならば、ID番号をもとに当社がそのBACを取得します。BACのID番号がわからなくても、研究目的の遺伝子にとって最適なBACを選択します。ほとんどのBACはCHORIのBACPACリソースセンターにて取得できますが、その他のサプライヤーから取得しなくてはいけないBACもあります。お客様のBACを大腸菌のストックの形状で当社に郵送していただけるならば、このサービスは必要ありません。

BAC編集後の検証

シークエンスによってBAC編集された領域の確認がなされます。BAC内の反復配列において欠失が生じることがあります。この可能性を最小限に抑えるために当社では編集後のBACを細胞へ再導入して、単一クローンを単離、BACのすべてをカバーするように複数の領域をPCRで増幅して明らかな欠失が生じていないことを確認しています。

納品形態

最終的なBAC編集サービスの納品物は検証済みのBACを持つ大腸菌ストックの形になります。高品質BAC DNAをお求めの場合は、複数のスケールを選択できます:ミニプレップ (>10 ug)、ミディプレップ(>100 ug)、マキシプレップ(>300 ug)、メガプレップ(>1 mg)、ギガプレップ(>10 mg)。

お客様から提供されたマテリアル

お客様がBACを提供する必要がある場合は、“サポート・キャンペーン”>“マテリアルサブミッションフォーム“にてマテリアル情報を提出してください。遅延やマテリアルのダメージを避けるために、当社のガイドラインに忠実に従って梱包してください。お客様から提供されたマテリアルはベクタービルダー社による品質検査を受ける必要があり、項目あたり19,200円の品質検査費用がかかります。お客様から提供されたマテリアルが品質検査を通過するまでBAC編集が開始されないことを留意してください。

技術情報

BACの利点と用途

培養細胞や生体で目的遺伝子を導入/発現する用途には標準的なプラスミドベクターが最もポピュラーですが、運搬できるDNAサイズが30kbまでに制限されます。一方でBACは300kbまでのDNAをクローニングし、大腸菌内で安定維持できます。BACは大腸菌のF因子ファクタープラスミドを由来としており、細胞内で1コピーで維持されるためにリアランジメントの可能性が低く、高コピープラスミドと比べて安定しています。ほとんどのBACは様々なバイオリソースセンター(BACPACリソースセンター、シロイヌナズナリソースセンター、サンガー研究所、INRA BAC-YACリソースセンターまたは商用リソースなど)から安価で確実に入手できます。BACはBAC編集による遺伝子操作によって簡単で素早く改変できます。

大きなサイズのDNAを安定して運搬でき、比較的簡単に操作ができることからBACは複数のモデル生物(ヒト、マウス、イロイヌナズナなど)のゲノムシークエンス計画に利用されています。他のBAC利用法としては、1)BACライブラリースクリーニング、2)疾患関連遺伝子の領域クローニング、3)様々な疾患やシグナル経路の研究用途に、野生型、変異型、レポータータグ付き遺伝子、もしくは転写制御因子が導入されたトランスジェニック細胞株やトランスジェニックマウスの作製、4)ウイルス起因の感染症研究のためにヘルペスウイルスなどのDNAまたはRNAウイルスゲノムが組み込まれたBACの作製、などがあります。

1ステップBAC編集

1ステップBAC編集はプロモーターの下流にレポーターを配置して遺伝子発現を追跡するなどの大規模な配列編集(図1)や、点変異のなどの小規模な配列編集(図2)を導入するために使われます。

大規模な編集の場合は(図1)相同性組み換えによって、BAC上の標的領域がLacZやGFPなどの目的遺伝子(GOI)とFRTサイトに挟まれた薬剤選択用カセットに置き換わります。薬剤選択用カセットは正しくBAC編集が行われたクローンの同定に役立ちます。当カセットはFlpリコンビナーゼによって取り除かれ、FRTサイトが残されます。

1ステップBAC編集で目的遺伝子GOIを挿入する

図1. LacZやGFPレポーターを目的遺伝子(GOI)プロモーター下流に連結する1ステップBAC編集の概要図

点変異の場合(図2)、相同性組み換えによって、BAC上の対応する標的領域が変異を含むDNA断片とFRTサイトに挟まれた薬剤選択用カセットに置き換わります。のちに薬剤選択用カセットはFlpリコンビナーゼによって取り除かれ、FRTサイトが残されます。FRTサイトは導入された点変異とともに、BAC編集された後の“傷跡”として残ります。“傷跡”FRTサイトが遺伝子機能に影響を与えないように、イントロンやUTRのような機能性のない領域に配置されるように設計してください。

1ステップBAC編集で点変異を導入する

図2. 点変異を第1エクソンに、FRT“傷跡”サイトを下流のイントロンに導入する1ステップBAC編集の概要図

2ステップBAC編集

2ステップBAC編集はFRT“傷跡”サイトを残さずに点変異などの小規模な編集を実行できます(図3)。この方法は標的変異配列の周辺にFRT“傷跡”サイトを残すことができない場合に適しています。例えば、標的とする遺伝子が非常に大きな単一エクソンから構成されており、変異を導入したい配列が遺伝子の中央にあるためにFRT“傷跡”サイトを残すことができない場合などは2ステップBAC編集が有用です。2ステップBAC編集はポジティブ/ネガティブ選択が可能な薬剤選択用カセットを利用します(図3)。はじめに、相同性組み換えによって標的配列をポジティブ/ネガティブ選択用カセットで置き換えます。この段階ではポジティブ選択を利用します。つぎに、相同性組み換えによってポジティブ/ネガティブ選択用カセットを希望する変異が導入されている配列で置き換えます。この段階ではネガティブ選択を利用します。この2ステップの操作によって、FRT“傷跡”サイトをもたないBAC編集が可能になります。

2ステップBAC編集で点変異を導入する

図3. FRT“傷跡”サイトを残さずに巨大なエクソンを持つ遺伝子の中央に点変異を導入する2ステップBAC編集の概要図

薬剤選択マーカー、可視化マーカーをBACバックボーンに追加する

ネオマイシン耐性遺伝子などの薬剤選択マーカーやEGFPなどの可視化マーカーをBACバックボーンに追加することで、BAC導入が成功した細胞の選別が容易になります。薬剤選択は安定的にBAC導入されている細胞を同定したい場合に役立ちます。ほとんどのBACのバックボーンにはloxPサイトが組み込まれているので任意マーカーの発現カセットを挿入することができます。

BACの一部配列をプラスミドに移し替える

BAC上の特定配列をプラスミドに移し替えることで、BACのその他の配列の影響を取り除いたうえで、その特定配列の解析を行うことができます。たとえば、複数遺伝子を含むBACを使ってトランスジェニックマウスを作製して特定の遺伝子の機能解析をおこなう場合、その他の遺伝子の影響を無視してトランスジェニックマウスの表現型を解釈することはできません。特定の遺伝子を移し替えたプラスミドを使用してトランスジェニックマウスを作製すれば、このような問題を回避できます。BACよりもプラスミドのほうが扱いが容易なことも利点となります。当社は60kbまでならば、どのようなDNA配列でもBACからプラスミドに移し替える事ができます。

FAQ

YACと比べてBACを使うことの利点は何?

BACとYACは双方とも長大なDNA配列のクローニングに向いており、YACは3000kbまで、BACは300kbまでのサイズのDNAを組み込むことができます。通常、以下の理由でBACのほうがYACよりも好まれます。1)BACはYACよりも安定しているため、サイズの大きなゲノムDNAの配列維持しやすい。YACをゲノムDNAのクローニングに使用すると、複製中にしばしば欠失やリアランジメントが発生して非連続的な間違ったゲノム配列をもつYACが生じることがあります。2)宿主酵母細胞内で複数YAC間の組み換えが起こり、キメラが発生する可能性が非常に高い(40-60 %)。そのようなYACキメラは多くの研究用途(コンティグアセンブリ、クロモソームウォーキング、遺伝子の機能解析)、には向いていない。3)BACは大腸菌内で簡単で迅速に増幅でき、プラスミドのように標準的なDNA抽出法によって精製可能です。一方でYACは酵母細胞内で増幅する必要があり、抽出は技術的な難易度が高く、時間がかかります。さらにYAC DNAの収量はかなり低くなります。

トランスジェニックマウスを作製するために、標準的な発現用プラスミドよりもBACが推奨される理由は?

BACは大きなDNA配列を組み込む事が可能なため、遠位の転写制御エレメントを含んだゲノムDNA配列をクローニングすることができます。標準的な発現用プラスミドは、組み込み可能サイズに限界があるために、導入したい遺伝子のcDNAをクローニングすることになります。BAC内に遺伝子のすべての転写制御エレメントを組み込むことができると、トランスジェニック動物の生体内で導入遺伝子の正確な空間的及び時期的発現パターンを得ることができます。発現用プラスミドではそのような発現パターンを実現することはほぼ不可能です。

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