pUAST ショウジョウバエ遺伝子発現ベクター

概要

当社のpUASTベクターシステムはショウジョウバエP因子トランスポゾンを基にして開発され、トランスジェニックハエの高効率な作製とGal4誘導型プロモーターによる遺伝子の発現制御を実現しています。

pUASTベクターシステムはE.coliプラスミドとして設計された2つのベクターから構成されます。ひとつめは、転移されるDNA配列を挟み込むかたちで配置されたふたつのP因子末端反復配列(terminal repeat; TR)を含んでいるpUASTプラスミドです。もうひとつは、P因子トランスポゼースを持つヘルパープラスミドです。

pUASTとヘルパープラスミドが標的細胞に同時に注入されるとヘルパープラスミドからトランスポゼースが発現しpUASTのふたつのP因子TRとそのあいだのDNA配列を標的細胞のゲノムに挿入します。遺伝子配列の挿入される場所に明確なバイアスはありません。

P因子はクラスIIトランスポゾンであり、カット&ペースト様式(自身のコピーを残さない)で転移します。クラスIトランスポゾンは転移のあとに自身のコピーを残す、コピー&ペースト様式をとります。転移がおこると、挿入サイトで8bpの反復配列が生じます。

トランスジェニックハエの作製は通常、ショウジョウバエの初期胚にpUASTとヘルパープラスミドを注入することで行われます。生殖細胞でP因子トランスポゼースによってふたつのP因子TRで挟まれた配列の転移がおこると、その子孫はトランスジェニックハエとなります。ヘルパープラスミドの消失までの短い間だけP因子トランスポゼースは発現し、宿主ゲノムへの恒久的なトランスポゾンの挿入を引き起こします。pUASTベクターのmini white遺伝子は目の色を決定し、遺伝子導入が成功したトランスジェニックハエの同定に使われます。PCRやその他の分子遺伝学的方法も同定に利用できます。

pUASTベクターシステムでは、目的遺伝子はGal4結合サイトが5つ直列に並んだ5xUASとhsp70 TATAボックスプロモーターをつなげた誘導型プロモーター(5×UAS/mini_Hsp 70)の下流にクローニングされます。GAL4/UASシステムはGal4に依存した発現誘導ができるように設計されています。Gal4タンパク質はUASに結合して転写を制御するため、Gal4非存在下では下流の遺伝子は転写されませんが、Gal4を発現しているショウジョウバエ株との交配よって転写は活性化されます。

 

当ベクターシステムに関する詳細な情報ついては下記の論文を参照してください

References Topic
Development. 118:401 (1993) Development and use of the pUAST inducible promoter system
Methods Mol Biol. 420:61 (2008) The use of P-element transposons to generate transgenic flies

特長

当社のpUASTショウジョウバエ遺伝子発現ベクターはP因子トランスポゼースによる効率的なゲノム挿入とGal4による遺伝子の発現誘導を実現します。当社のベクターはE.coliでの高コピー数複製とトランスジェニックハエの高効率な作製を可能にします。

メリット

高レベル発現: 5×UAS/mini_Hsp70プロモーターは活性化状態で高い発現量を示します。

発現誘導が可能:導入した遺伝子はGal4非存在下でほとんど発現しませんが、Gal4が存在すると高レベルで発現します。

デメリット

ゲノムへのランダムな挿入: P因子の宿主ゲノムへの挿入はランダムな為に挿入場所の特定が難しく、挿入場所によっては導入された遺伝子の発現に影響を与えることがあります。宿主遺伝子や転写制御因子配列に遺伝子が挿入されると、それらの機能を破壊する可能性もあります

中程度の効率: P因子ベクターによる生殖細胞への遺伝子導入の効率はpUASTattBのようなφC31インテグラーゼを使用したシステムと比べると低くなります。

発現“漏れ”の可能性: Gal4非存在下でも目的の遺伝子が低いレベルで発現することがあります。

技術的な複雑さ: トランスジェニックハエの作製は胚へのインジェクションやハエの飼育・交配など、高い技術が要求されます。

基本コンポーネント

P-element 3’ end: P因子の右TR(terminal repeat)もしくは3’TR。DNA配列がP因子5‘TRと3‘TRで挟まれている場合、Pトランスポゼースは両TRに挟まれている領域を宿主ゲノムに挿入する。

5×UAS/mini_Hsp70: ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の熱ショックタンパク質Hsp70の最小プロモーターと5×UASを連結したプロモーター。Gal4によって強力に活性化されるプロモーター。

Kozak: Kozak配列。真核生物での翻訳開始を促進すると考えられているためORFの開始コドンの前に配置される。

ORF: 目的遺伝子のORFをここに配置する。

SV40 terminator: SV40(Simian virus 40)のポリアデニレーションシグナル。上流ORFの転写停止を助ける。

mini-white: ショウジョウバエのwhite遺伝子の派生型。ミニホワイト遺伝子は成体ショウジョウバエの目の色に関する優性マーカーであり、white遺伝子変異体をバックグラウンドとした遺伝子導入の成否の判断に使用する。

P-element 5’ end: P因子の左TR(terminal repeat)もしくは5’TR。DNA配列が5'と3‘P因子TRで挟まれている場合、Pトランスポゼースは両TRを認識して挟まれた領域を宿主ゲノムに挿入する。

pUC ori: pUC複製起点。E.coliでプラスミドを高コピーで維持する。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。 E.coliへのアンピシリン耐性によるプラスミドの維持を可能にする。

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