Vector Systems
pUASTattB ショウジョウバエ遺伝子発現ベクター
(プロモーター選択可)
概要
当社のpUASTattBベクターシステムはバクテリオファージφC31インテグラーゼによるトランスジェニックハエの高効率な作製が可能です。加えて、任意のプロモーターを選択することで目的遺伝子の遍在的もしくは組織特異的な発現、さらに発現の制御が可能になります。pUASTattBベクターシステムはpUASTと共通する点がありますが、遺伝子の導入にP因子トランスポゾンをつかうのではなくφC31インテグラーゼを利用する点が異なります。
バクテリオファージφC31はattP(phage attachment sites)とattB(bacterial attachment sites)サイトの配列特異的な組み換えを媒介するインテグラーゼです。pUASTattBのattPへの挿入はφC31インテグラーゼに認識されないattL、attRサイトを作り出すために、P因子トランスポゾンによる組み換えとは違ってφC31インテグラーゼによる組み換えは不可逆的になります。加えて、φC31インテグラーゼによる組み換えはattPサイト特異的なので、その他の配列への挿入は起こりません。pUASTattBベクターシステムはゲノムのattP“着地点”サイトをもつ特定のショウジョウバエ株にのみ使用できます。
pUASTattBベクターシステムはE.coliプラスミドとして設計された2つのベクターから構成されています。ひとつめはpUASTattBベクター(またはφC31ドナーベクター)とよばれ、attBサイトと目的遺伝子が組み込まれています。ふたつめはφC31ヘルパープラスミドと呼ばれ、φC31インテグラーゼが組み込まれています。pUASTattBとφC31ヘルパープラスミドがattPサイトをもつ宿主細胞に同時に注入されると、φC31インテグラーゼによるattPとattBの組み換えが起こりpUASTattBが宿主ゲノムへ挿入されます。pUASTattBベクターのmini white遺伝子は目の色を決定し、遺伝子導入が成功したトランスジェニックハエの同定に使われます。
φC31インテグラーゼを宿主ショウジョウバエの細胞へ導入する方法はいくつかあります。ひとつめは標的とする細胞にin vitro転写反応によって生産されたmRNAを注入する方法です。ふたつめはφC31ヘルパープラスミドをpUASTattBと共に標的細胞に注入する方法です。みっつめは生殖細胞でφC31インテグラーゼを発現するショウジョウバエ株を利用する方法があり、高効率な遺伝子挿入ができます。
pUASTattBベクターシステム(プロモーター選択可)は実験目的に応じて当社のショウジョウバエプロモーターデータベースから任意の遺伝子発現用プロモーターを選択できます。当社のデータベースから次のようなプロモーターを選択できます。遍在的プロモーターとしてアクチン5C、ポリユビキチン、アルファ1チューブリン;組織特異的プロモーターとしてRh2(単眼特異的)、そして誘導型プロモーターとしてCu2+存在下で活性化するMtnプロモーターなどが選択できます。
当ベクターシステムに関する詳細な情報ついては下記の論文を参照してください
References | Topic |
---|---|
Proc Natl Acad Sci U S A. 97:5995 (2000) Proc Natl Acad Sci U S A. 95:5505 (1998) |
Description of the φC31 integrase system |
Proc Natl Acad Sci U S A. 104:3312 (2007) | Use of pUASTattB and germ-line-specific φC31 integrase to construct transgenic Drosophila |
Mol Cell Biol. 10:6172 (1990) | Characterization of the Actin 5C promoter |
Mol Cell Biol. 8:4727 (1988) | Characterization of the Drosophila Polyubiquitin promoter |
Nucleic Acids Res. 19:5037 (1991) | Comparison of alpha 1-tubulin promoter with other Drosophila promoters |
Genetics. 120:173 (1988) | Analysis of the Rh2 promoter |
Genetics. 112:493 (1986) | Characterization of the Mtn promoter |
特長
当社のpUASTattBショウジョウバエ用遺伝子発現システムはφC31インテグラーゼによる目的遺伝子の高効率なゲノム挿入とGal4による発現誘導を可能にします。当社のベクターはE.coliでの高コピー数複製と高効率なトランスジェニックハエの作製が可能です。研究目的に応じて任意のプロモーター(遍在的、組織特異的、もしくは誘導型プロモーター)を選択できます。
メリット
配列特異的な挿入: φC31インテグラーゼはattPサイトで配列特異的な挿入を引き起こしますが、その他のゲノム配列への挿入は起こりません。そのため宿主の遺伝子を破壊したり、挿入部位の位置効果によって遺伝子の発現が影響を受ける危険を減らすことができます。
高い柔軟性: 研究目的に応じて任意のプロモーター(遍在的、組織特異的、もしくは誘導型プロモーター)を選択できます。
高効率:φC31インテグラーゼはP因子トランスポゾンを利用したpUASTシステムよりも高効率な生殖細胞への遺伝子導入を実現します。
デメリット
技術的な煩雑さ: トランスジェニックハエの作製は胚へのインジェクションやハエの飼育・交配など、高い技術が要求されます。
attPサイトが必要:pUASTattBベクターシステムをもちいたトランスジェニックハエの作製には、あらかじめattPサイトがゲノムに導入された特別な宿主株が必要です。
基本コンポーネント
Promoter: 下流の遺伝子の発現させるためのプロモーターが配置される。
Kozak: Kozak配列。真核生物での翻訳開始を促進すると考えられているためORFの開始コドンの前に配置される。
ORF: 目的遺伝子のORFをここに配置する。
SV40 terminator: SV40(Simian virus 40)のポリアデニレーションシグナル。上流ORFの転写停止を助ける。
attB site: バクテリオファージφC31インテグラーゼによって認識されるattBサイト。φC31インテグラーゼは宿主ゲノムにあらかじめ導入されているattPサイト特異的にpUASTattBプラスミドを挿入する。pUC ori: pUC複製起点。E.coliでプラスミドを高コピーで維持する。
Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。 E.coliへのアンピシリン耐性によるプラスミドの維持を可能にする。
mini-white: ショウジョウバエのwhite遺伝子の派生型。ミニホワイト遺伝子は成体ショウジョウバエの目の色に関する優性マーカーであり、white遺伝子変異体をバックグラウンドとした遺伝子導入の成否の判断に使用する。