大腸菌タンパク質発現システム

大腸菌は組換えタンパク質生産に最も広く使用されている宿主として、生産時間の短さ、技術的シンプルさ、スケーラビリティ、コストの低さなど、いくつかの利点を持ちます。ベクタービルダーは、細胞質およびペリプラズム、ならびに可溶性および不溶性タンパク質の発現のために高度に最適化されたワークフローを用いて、大腸菌における組換えタンパク質の生産に特化したシステムを提供します。

特長

  • 低コスト、高収率、スケールアップが容易
  • 可溶性タンパク質と封入体の両方に最適化したストラテジー
  • 高度な最適化を可能にする、様々なベクターバックボーンと大腸菌株が利用可能

サービスの詳細

 Bacterial Protein expression service workflow

価格と作業日数 プライスマッチ
サービス 説明 納品物 価格(JPY) 作業日数
ベクター設計とクローニング ベクター設計には、発現遺伝子の選択、精製タグの選択、コドンの最適化が含まれる。続いて、遺伝子合成とpETなどの組換えタンパク質発現ベクターへのクローニングの実行。 大腸菌グリセロールストック 46,500円 5-10日
発現評価と発現条件の最適化 発現ベクターをBL21(DE3)などの適切な宿主細胞に形質転換する。様々な条件でスモールバッチ評価を行い、目的タンパク質の発現と溶解性を評価する*。 タンパク質発現評価報告書 93,000円 1-2週
パイロットスケールの発現および精製 前段階の評価に基づき、可能であれば0.5-1mgの目的タンパク質**を製造し、品質管理(QC)を実施する。
  • 0.5-1 mg精製タンパク質(可能であれば)
  • COA
186,000円 2-4週
大規模製造条件での発現と精製 100mgを超えるタンパク質製造へのスケールアップ。
  • Up to 100+ mg 精製タンパク質
  • COA
お問い合わせください。

* タンパク質が封入体を形成する場合、可溶化とリフォールディング、そして精製を行う。適切なリフォールディング戦略は、タンパク質の配列と構造特性に基づいて決定されます。価格はそれに応じて調整されます。
** 精製方法は、発現ベクターのデザインとタンパク質の特性に基づいて決定されます。

納品と保存方法

ベクター作製サービスのデフォルトの納品物は 1‐2ugのプラスミドDNAです。ご要望があれば、大腸菌グリセロールストックをご提供することも可能です。当社の組換えタンパク質のほとんどは凍結状態のドライアイス便で納品されます。納品後は、無菌状態で-20℃~-80℃で保存してください。組換えタンパク質は、適切に保存されれば、通常1年間は安定した状態を保ちます。組換えタンパク質が納品されたら、分注を行い、凍結融解サイクルを避けることをお勧めします。

品質管理(QC)

ベクタービルダーによってクローニングされたベクターはすべて100%の配列保証がなされます ベクタービルダーの組換えタンパク質は、厳格な品質管理を受けながら生産されます。ほとんどの発現システムの標準QCには、1) 制限酵素切断解析とサンガーシークエンスによるタンパク質発現ベクターの検証、2) A260/280測定とSDS-PAGEによるタンパク質濃度と純度の決定が含まれます。以下の表に示されている一般的な追加QCサービスは、ご要望に応じて提供可能です。

追加QCサービス 方法
エンドトキシン試験 LAL
エンドトキシン試験 ウェスタンブロット
インタクト質量分析 (還元条件)
SEC-HPLC
SEC-MALs
タンパク質N末端シーケンシング
宿主細胞タンパク質試験
タグ除去 プロテアーゼ分解
カイネティクスとアフィニティー分析/td> Octet
Biacore
げっ歯類用病原体検査パネル

技術情報

ベクターシステム

大腸菌組換えタンパク質発現用の一般的なベクターシステムには、pET、pBAD、pCSなどがあります。その中でもpETベクターは強力なシステムとして広く使われています。pETベクターにクローニングされた目的遺伝子は、バクテリオファージT7転写・翻訳制御システムの強力な制御を受けます。遺伝子発現は細胞内に提供されたT7 RNAポリメラーゼによって活性化されます。完全な誘導条件では、細胞のほぼ全てのリソースが目的の遺伝子の発現に費やされます。以下のベクターマップには、pET組換えタンパク質発現ベクターの主要な構成要素が搭載されています。

ベクタービルダーの大腸菌タンパク質発現ベクターシステムに関する詳細ついては、ベクターガイドをご覧ください。

図1. pET大腸菌組換えタンパク質発現ベクターマップ。

pET大腸菌組換えタンパク質発現ベクターマップ。
Bacterial protein expression QC

図2. 大腸菌システムで生産された組換えタンパク質の特性評価 (A) SDS-PAGE分析により、組換えタンパク質の分子量と95%以上の純度を確認した。(B)SEC-HPLCにより95%以上の純度が再確認された。(C)組換えタンパク質の生物学的活性を細胞増殖アッセイによって測定した。ED50は0.5〜8ng/ml。

ご注文方法

ユーザー提供のプラスミドDNAを使用したタンパク質生産

ユーザー提供のプラスミドDNAを使用する場合は、マテリアルサブミッションガイドライン. に従ってマテリアルを準備し、弊社に発送してください。ユーザーからご提供されるマテリアルは、ベクタービルダーで受け取り後、品質検査(QCチェック)に合格することを必須条件としています。QCチェックは、マテリアルごとに16,000円からの追加料金が発生する場合があります。QCチェックに合格するまで、ご依頼のサービスが開始することができないことをご了承ください。

Q&A

どの組み換えタンパク質合成システムを選ぶべき?

すべての組換えタンパク質発現システムには長所と短所があります。それらを考慮してプロジェクトに最適なシステムを選択してください。以下の表に各システムの長所と短所をまとめました。

組み換えタンパク質発現システム 長所 短所
大腸菌
  • 費用対効果がたかい
  • 生産に必要な時間が短い
  • 技術的にシンプル
  • スケールアップが容易
  • 高いタンパク質収率
  • タンパク質の翻訳後修飾がない
  • コドン使用法が真核生物と異なる
  • 封入体への蓄積のため、特定のタンパク質の発現が難しい
  • 一部の毒性を持つタンパク質による細菌の増殖阻害の可能性
哺乳類細胞
  • 必要なすべての翻訳後修飾と適切なフォールディングがなされた、最も自然な状態のタンパク質を生成できる
  • 分泌タンパク質や膜タンパク質生産に適している
  • 治療用タンパク質の生産に最適
  • 生産に必要な時間が長い
  • 培養条件が複雑
  • スケールアップが困難
  • 収率が低いため、細胞内タンパク質生産には適さない
昆虫細胞
  • 複雑な翻訳後修飾の大部分とタンパク質のフォールディングが可能
  • 分泌タンパク質、細胞内タンパク質、膜タンパク質生産に適している
  • 大きなタンパク質複合体の生産にも使用可能
  • 他の真核生物発現系と比較して高いタンパク質発現量が可能
  • 高密度の懸濁細胞培養による高いスケーラビリティ
  • 生産に必要な時間が長い
  • 培養条件が複雑
  • 高い技術が必要
無細胞系
  • 3時間で完了する時間効率の良い合成効率
  • 生細胞を使わない有毒タンパク質、複雑なタンパク質、不安定なタンパク質の生産
  • ハイスループットなタンパク質発現とスクリーニングに最適
  • 自動化プロセスに適合する簡単な手順
  • 条件の最適化が容易
  • 条件設定の幅が限定的
どのタンパク質タグを使うべき?

タグは組換えタンパク質生産に頻繁に利用されます。タグによって精製工程を合理化でき、ある種のタグはタンパク質の溶解度、収量、純度の向上に寄与します。タグがプロテアーゼ切断部位のとなりに配置されていれば、精製後に除去することができます。切断効率は標的タンパク質によって異なります。タンパク質発現と精製にとって、適切なタグを注意深く選択することは極めて重要です。以下の表に、一般的に使用されるタグの概要、その利点と限界をまとめました。

タグ よく使用されるシステム 利点 限界
GST 大腸菌、昆虫細胞
  • タンパク質のネイティブな構造をほぼ保持できる
  • マイルドな条件下でタンパク質の精製が可能
  • 切断が容易
  • タンパク質の溶解性と発現量を高める
  • タグの分子量が大きい
  • 二量体化により標的タンパク質に影響を与える可能性
  • 変性条件下でのタンパク質精製には適さない
His すべて
  • タグのサイズが小さいため、タンパク質の構造への影響が少ない
  • コストが低い金属アフィニティークロマトグラフィーが使用できる
  • 免疫原性が低い
  • 変性条件下でのタンパク質精製に適している
  • 細胞に内在する他の金属結合タンパク質が共精製される可能性があるため、通常は最適化が必要
  • タンパク質のフォールディングと溶解性を高めることはない
SUMO 大腸菌、昆虫細胞
  • タンパク質のフォールディングを促進
  • タンパク質の溶解性と発現量を高める
  • 他の大腸菌タンパク質による非特異的切断を受ける可能性
  • 変性条件下でのタンパク質精製に不適
Flag 哺乳類細胞、昆虫細胞
  • タグのサイズが小さいため、タンパク質構造への影響が少ない
  • 検出が容易
  • 非特異的結合が少ない
  • 高純度の精製が難しい
MBP 大腸菌、昆虫細胞
  • タンパク質の溶解性と発現量を高める
  • タグの分子量が大きい
  • 変性条件下でのタンパク質の精製に不適
Fc 哺乳類細胞、昆虫細胞
  • タンパク質の溶解性と発現量を高める
  • 分泌タンパク質に最適
  • タグの分子量が大きい
大腸菌タンパク質発現ベクターが組換えタンパク質を発現しない理由は?

以下に、大腸菌での組換えタンパク質の発現に問題があるケースにおける、一般的な理由を示します。

プラスミドが不適切な宿主株に導入されている

適切な宿主細胞株を使用しないと、タンパク質が発現しない場合があります。ほとんどのベクタービルダーが作製したベクターは、クローニング宿主株VB UltraStable™. VB UltraStable™ の大腸菌ストックとして出荷されます。VB UltraStable™株はプラスミドを安定して維持できるため、クローニング用途には適した宿主ですが、組換えタンパク質の生産には適さない場合があります。組換えタンパク質生産には、LacUV5プロモーターから発現されるT7 RNAポリメラーゼ遺伝子を持つBL21(DE3)またはHMS174(DE3)宿主細菌株を使用することをお勧めします。目的遺伝子の毒性が問題となる場合には、pLysSプラスミドまたはpLysEプラスミドを有する宿主の使用が有益となります。これらのプラスミドは、T7 RNAポリメラーゼ阻害剤であるT7リゾチームを産生することにより、目的遺伝子のリーク発現を抑制できます。

ベクターから発現するタンパク質に問題がある

タンパク質が発現しても、不溶性、ミスフォールディング、不適切な切断、あるいは宿主細菌に有毒である場合は、組換えタンパク質の発現量が不十分になります。このような場合は、発現誘導系を最適化する(下記参照)、より適した宿主株をつかう、あるいは別のタンパク質発現システムに切り替えて目的遺伝子を発現させる必要があります。

発現誘導システムが最適ではない

発現させる遺伝子、発現ベクター、宿主株によっては、発現誘導系における様々な因子(OD600(通常0.6~0.8)、誘導試薬の濃度(IPTGやL-アラビノースなど)、誘導時間、誘導温度など)の最適化が必要かもしれません。“問題のある”タンパク質を扱う場合には、誘導温度の最適化が特に重要です。16℃、25℃、30℃、37℃などの異なる温度を検討してください。まれに未知の理由で、同じ発現ベクターの異なるクローンが異なる誘導挙動を示すことがあります。いくつかの独立したクローンを選んで個別にテストし、優良な誘導性能を示すものを選択してください。

組換えタンパク質発現をベクタービルダーに委託していただければ、これらの問題を回避し、研究に必要な貴重な時間を節約することができます。