VSV 遺伝子発現ベクター

VSV遺伝子発現ベクターの概要

組換え水疱性口内炎ウイルス(VSV)ベクターは、宿主細胞へのウイルス侵入のメカニズムの研究、細胞侵入のためにウイルスが利用する細胞受容体の同定、ウイルス侵入阻害剤のスクリーニング、ワクチン開発研究など、さまざまな用途に広く使用されています。 VSVベクターは、高レベルの封じ込めを必要とするウイルスのエンベロープタンパク質など、異種ウイルスに由来するエンベロープ糖タンパク質で効率的にシュードタイプ化が可能です。シュードタイプ化したウイルスは1回以上の自己複製ができないため、バイオセーフティーレベル2(BSL2)施設で目的ウイルスのエンベロープタンパク質を持ったVSVウイルスを安全に取り扱うことができます。1回のレプリケーション。これによりVSVベクターは、高レベルの封じ込めを必要とせずに、高リスクウイルスの細胞侵入メカニズムの研究に非常に適しています。

野生型VSVはラブドウイルス科に属し、複製がウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)に依存するネガティブセンスRNAゲノムを持っています。一本鎖RNAゲノムは、ヌクレオカプシド(N)、リンタンパク質(P)、マトリックス(M)、糖タンパク質(G)、およびウイルスRdRpの大サブユニット(L)の5つのウイルスタンパク質をコードします。 RNAゲノムはNタンパク質によってキャプシド形成され、VSVビリオン内にリボ核タンパク質複合体(RNP)を形成します。 PおよびLタンパク質は、RNPとの関連を維持するウイルスRdRpを構成します。 感染中、VSVはエンドサイトーシスによって宿主細胞に入り、ウイルスエンベロープとGタンパク質によって媒介されるエンドソーム膜との融合を経て、ウイルスRdRpとともにRNPを細胞質に放出します。ウイルスのRdRpは、RNPをテンプレートとしてすぐに一次転写を開始し、転写されたセンスRNAは、ウイルスゲノム複製、二次転写、ウイルスアセンブリ、発芽など、感染後期に必要なウイルスタンパク質が翻訳されます。

VectorBuilderがご提供する組換えVSVは、糖タンパク質G遺伝子が欠損した、自己複製能のないウイルスです。通常、糖タンパク質G欠損部領域には、レポーター遺伝子の蛍光タンパク質遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、または分泌型アルカリホスファターゼ遺伝子などがクローニングされ、ウイルス感染性の分析に用いされています。VSVシュードタイプの生成は、次の3つの主要なステップで構成されます。1)プラスミドを細胞にトランスフェクションしてVSVの一次回収。 2)Gタンパク質を補完したVSV生成。 3)異種ウイルスのエンベロープタンパク質をもつシュードタイプVSV生成。 VSV-delta Gベクターは、E. coliを使ってベクター構築されます。このベクターは、糖タンパク質G遺伝子以外のVSVアンチゲノミックセンスRNAを発現するようにデザインされ、組み換えVSVの一次回収時にウイルスRdRpによるゲノムRNA合成用テンプレートとなります。VSVの産生には、VSV-delta Gプラスミドとともに、VSV N、P、G、Lタンパク質を発現する4種類のヘルパープラスミドをウイルス産生細胞に共トランスフェクションします。ウイルス産生細胞は、組み換えワクシニアウイルスを使って、バクテリオファージT7RNAポリメラーゼを発現しているため、VSV-deltaGプラスミドから転写が起こります。 ウイルス粒子としてパッケージングされた組み換えVSVは、ウイルス産生細胞よりリリースされます。この培養上清を採取し、Gタンパク質を一過性発現するウイルス産生細胞に添加します。GコンプリメントVSVのストックの生成と増幅を行います。次に、VSVシュードタイプを生成するために、異種ウイルスエンベロープタンパク質を一過性発現する細胞にGコンプリメントVSVを感染させ、異種ウイルスエンベロープを持ったシュードタイプVSVが完成します。

このベクターシステムの詳細については、以下の論文を参照してください。

文献 トピックス
Hum Vaccin Immunothera. 15:2269 (2019) 組み換え水泡性口炎ウイルスワクチン
Vaccine. 34:6597 (2016) VSV生ウイルスワクチンのリスク/ベネフィットの評価
Front Microbiol. 2:272 (2012) VSVベクターの開発と応用
J Virol Methods. 169:365 (2010) 組み換えVSV-delta Gを使ったシュードタイプVSVの作製方法
J Gen Virol. 86:2269 (2005) コロナウイルススパイクタンパク質を使ったシュードタイプVSVの作製方法
Virology. 286:263 (2001) HCVエンベロープタンパク質を使ったシュードタイプVSVの解析

VSV遺伝子発現ベクターの特徴

VectorBuilderのVSVベクターはVSVエンベロープ糖タンパク質G遺伝子を欠いており、目的のエンベロープタンパク質をトランス供給することで、異種ウイルスに由来するエンベロープタンパク質を使ったシュードタイプVSVを作製します。当社の組換えVSVの細胞指向性は、シュードタイピングに使用される異種ウイルスエンベロープタンパク質に基づきます。プラスミドDNAベクターは大腸菌で高コピーで複製され、標的細胞へのシュードタイプVSVの感染評価には、カスタムで複数のレポーター遺伝子を選択できるようにデザインされています。

VSV遺伝子発現ベクターのメリット

高いウイルスタイター: VSV VectorBuilderのVSVプラスミドDNAベクターは、効率よくウイルスにパッケージングされ高いタイターのウイルス粒子です。タイターは >108 plaque forming units per ml (PFU/ml)です。このタイターのウイルスを適正量使うことで、哺乳類培養細胞への100%の形質導入を実現します。

ウイルス増幅の簡単さ: 組み換えVSVウイルスベクターは、ほぼ全ての哺乳類培養細胞で簡単に増幅できます。 

細胞指向性変更の自由度: VSVエンベロープG遺伝子を欠失させているため、この領域に任意のレポーター遺伝子を入れるようにプラスミドDNAベクターがデザインされています。さらに異種ウイルスに由来するエンベロープ糖タンパク質を使って、VSVをシュードタイプすることで、シュードタイプされたVSVの細胞指向性をカスタム選択できます。

宿主ゲノムを破壊しない: 宿主細胞に形質導入されると、VSVゲノムは細胞質で複製され、細胞ゲノムに組み込まれることはありません。宿主ゲノムへ組み込まれないことは、ヒトへの応用には望ましく、ゲノム破壊によって引き起こされる発がんリスクを抑えることができます。

安全への配慮: トランスで供給されるエンベロープタンパク質でシュードタイプされた組換えVSVの感染力は、感染した宿主細胞での1回の複製に限定されます。その結果、高リスクグループのウイルス(エボラ、ジカ、ニパ、コロナウイルスなど)のエンベロープ糖タンパク質でシュードタイプしたVSVウイルスは、BSL-2封じ込めで安全に取り扱うことができます。

ワクチン開発用ウイルス: 生体内で体液性免疫反応と細胞性免疫反応の両方を誘発するVSVの特徴、ヒト集団でのVSV血清陽性率の低さ、およびヒトに対する病原性がわずかであるため、組換えVSVベクターはヒトのワクチンの開発に理想的です。

VSV遺伝子発現ベクターのデメリット

搭載ゲノムサイズが中程度: VSVのゲノムサイズは11kbです。長いORFや複数のORFを導入したい場合ゲノムこのサイズを超えると、ウイルスタイターが低下します。

感染モデルとしての弱点: 組換えVSVは、宿主細胞に1回の感染しか受けられないため、ウイルス感染プロセスの根底にあるメカニズムの研究モデルとしては不十分です。

技術的な難しさ: VSVシュードタイプの作製には、プラスミドからのVSVの回収、GコンプリメントVSVの生成、異種ウイルスエンベロープタンパク質によるVSVのシュードタイピングなどの複数のステップが含まれます。これらの手順は、従来のプラスミドトランスフェクションに比べて技術的に要求が高く、作製までに時間がかかります。

ベクタービルダーのVSV遺伝子発現ベクターの基本コンポーネント

CMV プロモーター: ヒトサイトメガロウイルス全初期遺伝子プロモーター。パッケージング細胞で高レベルの下流のウイルスアンチゲノミックRNAの転写を担います。

T7 プロモーター: T7バクテリオファージのプロモーター。ファージ由来のT7RNAポリメラーゼがこのプロモーターを認識し、下流のウイルスアンチゲノムRNAの高レベルの転写を促進します。

VSV-N: 水疱性口内炎ウイルスの核タンパク質遺伝子。 N / RNAポリマーとしてRNase耐性ヌクレオカプシドにアセンブルされます。ウイルスゲノム合成の開始に必要です。 

VSV-P: 水疱性口内炎ウイルスのリンタンパク質遺伝子。ラージ(L)タンパク質をN / RNAテンプレートに配置し、開始ステップと伸長ステップの両方でLタンパク質を使用してウイルスRNA合成を開始します。VSVポリメラーゼ複合体の重要なコンポーネントです。

VSV-M: 水疱性口内炎ウイルスのマトリックスタンパク質遺伝子。 N / RNAヌクレオカプシドと結合し、リボヌクレオカプシドの凝縮を促進することによりウイルスのアッセンブリーを促進します。

Kozak: コザック翻訳開始シークエンス下流のATGスタートコドンからの翻訳開始を担います。

ORF: Open Reading Frame. 目的遺伝子のタンパク質コード領域をここに設定して下さい。

Marker: 薬剤選択遺伝子(ネオマイシン耐性など)、蛍光マーカー遺伝子(EGFPなど)、あるいはデュアルレポーター遺伝子(EGFP/Neoなど)の挿入によって、導入細胞の選択、あるいは視覚化が可能になります。

VSV-L: 水疱性口内炎ウイルスのラージポリメラーゼタンパク質遺伝子。 VSVリンタンパク質とRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)複合体を形成し、N、P、M、G、LのmRNAの合成を順次触媒します。

HDV: デルタ肝炎ウイルス(HDV)アンチゲノム自己切断リボザイム。このリボザイムが転写物に存在する場合、シスでの転写物の自己切断を触媒します。 

T7 terminator:  T7ファージの転写終結シグナル。バクテリオファージT7ファージのRNAポリメレースによって転写開始されたRNAの転写を終結させます。

BGH pA: Bovine growth hormone polyadenylation. 上流ORFの転写終結に重要です。

pUC ori: pUC origin of replication. pUCの複製起点であるpUC oriが挿入されたプラスミドは、大腸菌において高コピー数で保持されます。

アンピシリン: アンピシリン耐性遺伝子は、アンピシリンによってプラスミド導入大腸菌を選択します。