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pUAST Cas9発現ベクター (UAS-Hsp70 プロモーター)

pUAST Cas9発現ベクター(UAS-Hsp70プロモーター)の概要

当社の pUAST Cas9発現ベクターは、非常に効率よくトランスジェニックハエが作製する上で有用で、Cas9タンパク質を発現します。本ベクターは、CRISPR遺伝子編集のためのCas9発現とP因子ベースシステム(pUAST)、そしてP因子によるGAL-4による遺伝子発現制御を組み合わせたものです。

CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)/Cas9システムは、様々な生物において、in vitroおよびin vivoでの遺伝子の不活性化を大幅に促進してきました。このゲノム編集システムでは、Cas9酵素はガイドRNA(gRNA)と複合体を形成し、ゲノム中の18-22ntの相同な標的配列と直接相互作用することで標的特異性をもたらします。gRNAの標的部位へのハイブリダイゼーションによってCas9が特定の位置に誘導され、ゲノム中の標的部位を切断します。Cas9はゲノムをスクリーニングし、gRNAに相補的な配列(プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM) NGGが直後に続く場合)を切断します。二重鎖切断はその後、相同組換えまたは非相同末端結合によって修復され、その結果、様々な長さのインデル(ゲノム中への塩基の挿入または欠失)が生じます。オールインワン・ベクター(Cas9とgRNAの両方を発現する単一ベクター)、またはCas9とgRNAの発現をそれぞれ駆動するためのベクターをそれぞれ導入するだけで、ショウジョウバエでCRISPR/Cas9システムを利用することができ、ノックアウト系統を短時間で作製することができます。

このpUAST システムは二つの主要なエレメント:(1)ゲノムインテグレーションに必要なP因子末端リピートと(2)ユーザーが選択するGOI (Cas9)を駆動するプロモーターから構成されています。ゲノムインテグレーションには通常2つのベクターが必要です:一つはpUASTプラスミドと呼ばれるベクターで、トランスポーズ(転移挿入)される領域/遺伝子を括る2つのP因子末端リピートを含んでいます;もう一つはヘルパープラスミドまたはトランスポゼースプラスミドと呼ばれるベクターで、Pトランスポゼースをコードしています。pUASTとトランスポゼースプラスミドを標的細胞に共注入すると、ヘルパープラスミドから産生されたトランスポゼースがpUASTプラスミド上の2つのP因子末端リピートを認識し、末端リピートを含むフランク領域を宿主ゲノムに挿入します。Pトランスポゼースは短時間しか発現せず、ヘルパープラスミドがなくなると、トランスポゾンの宿主ゲノムへの組み込みは恒久的になります。また、pUASTプラスミドをショウジョウバエのPトランスポゼース発現系統の細胞に注入することもできます。挿入は挿入部位の配列に影響されず、大きな偏りなく起こります。P-因子はクラスIIトランスポゾンであり、コピーを残すことなく場所をホッピングしながらカットアンドペーストで移動します(対照的にクラスIトランスポゾンはコピーアンドペーストで移動します)。この転位はゲノムの挿入部位に8bpの直接反復を付加します。

GAL4/UASシステムはGal4に依存した発現誘導ができるように設計されています。Gal4タンパク質はCas9の上流にあるUASに結合して転写を活性化します。したがって、Gal4非存在下では下流の遺伝子は転写されませんが、Gal4を発現しているショウジョウバエ株との交配よって転写は活性化されます。組織特異的プロモーターの制御下にあるGAL4を持つショウジョウバエ系統の使用は、選択的なCas9発現を可能にします。

このpUAST Cas9発現ベクターでは、Cas9遺伝子は目的の遺伝子はGal4結合サイトが5つ直列に並んだ5xUASとhsp70 TATAボックスプロモーターをつなげた誘導型プロモーター(5×UAS/ Hsp70)の下流にクローニングされます。37℃で培養することでCas9の発現が誘導されます。また、pUASTベクター上のミニホワイト遺伝子は目の色をコードし、導入遺伝子の組換えに成功したトランスジェニックハエを同定するためのマーカーとして使われます。PCRやその他の分子生物学的手法も、トランスジェニック細胞や動物の同定に用いることができます。

ベクターシステムの詳細については、下記の文献をご参照ください。

文献 トピック
Development. 118:401 (1993) The use of P element transposons to generate transgenic flies
Methods Mol Biol. 420:61 (2008) Generation of φC31-based transgenic Drosophila
Science. 339:819-23 (2013) Description of genome editing using the CRISPR/Cas9 system
Methods Mol Biol. 2540:135-156 (2022) CRISPR-mediated genome editing in Drosophila

pUAST Cas9発現ベクター(UAS-Hsp70プロモーター)の特長

当社のpUAST Cas9発現ベクター(UAS-Hsp70プロモーター)は、Pトランスポゼース媒介のCas9 遺伝子挿入を効率的に実現し、GAL-4依存性に選択的にCas9タンパク質を発現できるように設計されています。本ベクターは、大腸菌での高コピー数複製とショウジョウバエ系統の高効率トランスジェネシスに最適化されています。

pUAST Cas9発現ベクター(UAS-Hsp70プロモーター)のメリット

高い発現量: 5×UAS/mini_Hsp70プロモーターは誘導された状況で、非常に強く目的遺伝子の発現を駆動します。

発現誘導が可能: 導入された遺伝子はGal4非存在下ではほとんど発現しませんが、Gal4が存在下では高レベルで発現します。

pUAST Cas9発現ベクター(UAS-Hsp70プロモーター)のデメリット

ゲノムにランダムに挿入される: P-因子のランダムな挿入は、挿入部位のマッピングを困難にし、ゲノム上の位置が導入遺伝子の発現に影響を与える可能性があります。さらに、導入遺伝子がゲノム内の遺伝子や調節エレメントに挿入されると、内在性遺伝子に影響を与える可能性があります。

効率は中程度: P因子ベクターを用いた生殖細胞系列への導入は、pUASTattBのようなφC31インテグラーゼを介したシステムよりも一般的に効率が低いです。

発現“漏れ“の可能性: Gal4非存在下でも目的の遺伝子が低いレベルで発現することがあります。

技術的な煩雑さ: トランスジェニックハエの作製は胚へのインジェクションやハエの飼育・交配など、高い技術が要求されます。

pUAST Cas9発現ベクター(UAS-Hsp70プロモーター)の基本コンポーネント

P-element 3’ end: P因子の右側TR(terminal repeat)もしくは3’TR。DNA配列がP因子5‘TRと3‘TRで挟まれている場合、Pトランスポゼースは両TRに挟まれている領域を宿主ゲノムに挿入する。

5×UAS/mini_Hsp70: ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の熱ショックタンパク質Hsp70の最小プロモーターを5×UASに連結したプロモーター。Gal4によって強力に活性化される。

Kozak: Kozak配列。真核生物での翻訳開始を促進すると考えられているためORFの開始コドンの前に配置される。

Cas9: Cas9ヌクレアーゼ(CRISPR-associated endonuclease)、gRNAによって局在した個所でDNAを切断する。

SV40 terminator: SV40(Simian virus 40)のポリアデニレーションシグナル。上流ORFの転写停止を助ける。

mini-white: ショウジョウバエのwhite遺伝子の派生型。ミニホワイト遺伝子は成体ショウジョウバエの目の色に関する優性マーカーであり、white遺伝子変異体をバックグラウンドとした遺伝子導入の成否の判断に使用する。

P-element 5’ end:  P因子の左側TR(terminal repeat)もしくは5’TR。DNA配列がP因子5‘TRと3‘TRで挟まれている場合、Pトランスポゼースは両TRに挟まれている領域を宿主ゲノムに挿入する。

pUC ori: pUC複製起点。E.coliでプラスミドを高コピーで維持する。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。E.coliへのアンピシリン耐性によるプラスミドの維持を可能にする。

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