Tol2遺伝子発現ベクター

Tol2遺伝子発現ベクターの概要

Tol2ベクターシステムは、哺乳類細胞のゲノムに外来DNAを効率的に組み込むことができます。このシステムはウイルスを使った遺伝子導入に比べて技術的に簡単で、プラスミドDNAのトランスフェクション方法で目的細胞のゲノムDNAに発現させたい目的遺伝子を恒久的に組み込むことができます。

本システムは、真骨魚類のメダカ(Oryzias latipes)から単離されたTol2トランスポゾンに由来しています。シークエンスの相同解析より、Tol2トランスポゾンは脊椎動物ゲノム全般に見られる非自立性エレメントのhATファミリー近縁であることが明らかになっています。

Tol2システムは2種類のプラスミドベクター(トランスポゾンプラスミドとトランスポゼース発現ヘルパープラスミドから構成されます。トランスポゾンプラスミドには、転移領域の両脇に2つの(ITR:Inverted Terminal Repeat)が含まれています。トランスポゾンプラスミドとトランスポゼースが同時に細胞へ導入されると、トランスポゼースは転移領域両端にあるITRを認識して宿主細胞ゲノムに挿入します。配列挿入の際にTol2トランスポゼースは配列挿入サイトの両端に相同な8塩基長の反復配列を生み出します。その他のトランスポゾンシステムとは異なり、配列挿入箇所に特段のバイアスはありません。piggyBacトランスポゾンを例にすると、TTAA配列を含む部位が挿入の標的となります。

Tol2システムは2種類のプラスミドベクター(トランスポゾンプラスミドとトランスポゼース発現ヘルパープラスミドから構成されます。プラスミドベクターは、トランスポゼースをコードする遺伝子をもつヘルパープラスミドです。他方のプラスミドベクターは、トランスポゾンベクターで、宿主細胞のゲノムDNAに転移させる目的遺伝子を含むフラグメントを、Tol2の terminal repeats (TRs) で挟んだデザインになっています。トランスポゼースは、1)一過的なヘルパープラスミドのトランスフェクションもしくは、2)IVT (in vitro transcribed) トランスポゼースmRNAを目的細胞へマイクロインジェクションする、2通りの方法でトランスポゾンを目的細胞にデリバリーできます。どちらの方法でも、トランスポゼースは短い間のみ発現します。ヘルパープラスミドの消失もしくはトランスポゼースmRNAの分解によってゲノムに挿入されたトランスポゾンは安定化します。

Tol2は、カット&ペースト型のクラスIIトランスポゾンに分類され、自己コピーを残さずに転移します(クラスIトランスポゾンは、コピー&ペースト型で、自己コピーを残して転移します)。Tol2ヘルパープラスミドを再び導入することにより、ゲノムに痕跡を残すことなくTol2トランスポゾンを取り除くことができます。その際には痕跡を残さない場合と、欠失が生じる場合があります。

本ベクターシステムの詳細については、以下の文献をご参照下さい。

文献 トピックス
Genome Biol. 8(Suppl 1): S7 (2007) Tol2ベクターのレビュー
Genetics 174: 639–649 (2006) Tol2トランスポゾンエレメント最小配列の同定
PLoS Genetics 2: e169 (2006) 最小Tol2トランスポゾンの転移
Nucleic Acids Res. 41: e36-e36 (2013) Identification of the Genomic deletion induced by Tol2 transposon excision in zebrafish

Tol2遺伝子発現ベクターの特長

ベクタービルダーのTol2 トランスポゾンベクターシステムでは、11kbまでの配列を標的細胞のゲノムに挿入することができます。トランスポゾンプラスミドとヘルパープラスミドは、共に高コピー数プラスミドDNAとしてデザインされ、大腸菌での大量増幅が可能です。また、幅広い細胞種にトランスフェクションが可能で、遺伝子発現ベクター内にデザインされた遺伝子の高い発現レベルを維持します。

Tol2遺伝子発現ベクターのメリット

ベクターDNAの恒久的な組み込み: 一般的なトランスフェクションでは、細胞への一過的なDNAの導入のため、ベクターDNAは時間とともに消失します。特に分裂速度の速い細胞では弱点となります。反対にTol2トランスポゾンプラスミドとヘルパープラスミド(あるいはTol2 mRNAの導入)を細胞に共トランスフェクションすると、Tol2トランスポゾンベクターのITR間にデザインされた遺伝子は宿主細胞のゲノムに組み込まれます。そのため宿主細胞に恒久的な遺伝子導入を行うことが可能です。

技術的に簡単: トランスフェクション法によるプラスミドベクターの導入は、ウイルス生体へのパッケージングを必要とするウイルスベクターよりも、はるかに簡単な技術で行うことができます。

カーゴサイズが非常に大きい: ベクタービルダーのTol2トランスポゾンベクターは~11kbのDNAを搭載することができます。ベクターバックボーン領域とトランスポゾン関連配列の3kbを差し引いても、目的遺伝子の挿入には十分なスペースが用意されています。

Tol2遺伝子発現ベクターのデメリット

細胞タイプの制限: Tol2ベクターの細胞への導入はトランスフェクションに依存しますが、トランスフェクション効率は細胞タイプによって大きく異なります。非分裂細胞は分裂細胞よりも、また初代培養細胞はライン化された細胞よりも導入が困難です。さらに、神経細胞や膵臓β細胞などある種の細胞では、トランスフェクション法でのベクター導入は難しいことが知られています。

ベクタービルダーのTol2遺伝子発現ベクターの基本コンポーネント

5' ITR: 5’末端逆向き反復配列。Tol2トランスポザーゼが両末端のITRを認識し、ITRとITR間にデザインされたDNA領域を宿主ゲノムに挿入します。

Promoter: 目的遺伝子を発現させるためのプロモーターをここに配置します。

Kozak: Kozakコンセンサス配列。真核細胞において翻訳開始を促進させるため、目的遺伝子ORFの開始コドン直前に配置します。

ORF: 目的遺伝子のOpen reading frameをここに配置します。

SV40 late pA: Simian virus 40後期ポリA付加シグナル。上流ORFの転写を終結させます。

3' ITR: Tol2の 3' 末端逆向き反復配列

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。アンピシリンによってプラスミド導入大腸菌を選択します。

pUC ori: pUCの複製起点であるpUC oriをコードするプラスミドは、大腸菌において高コピー数で保持されます。

Representative vector design

VB ID Vector name Descriptions
VB010000-9312gvc pTol2[Exp]-CMV>EGFP/Puro A Tol2 transposon gene expression vector encoding an EGFP: puromycin resistance fusion protein driven by a CMV promoter.
VB231214-1676xns pTol2[Exp]-CAG>hSOD1[NM_000454.5] A Tol2 transposon vector expressing CAG-driven human superoxide dismutase, which is responsible for breaking down toxic superoxide radicals.
VB010000-9367csj pRP[Exp]-CAG>Tol2 transposase A mammalian gene expression vector encoding Tol2 transposase.
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