出芽酵母遺伝子発現ベクター

概要

当社の出芽酵母用遺伝子発現ベクターは広く利用されているpYES2ベクターを応用したもので、過剰発現によって組み換えタンパク質の発現、もしくは遺伝子機能の研究を行うことができる非常に有用なシステムです。当社では標準的なプロモーターを用意しており、使用するプロモーターを選んで目的遺伝子をプロモーター配列下流にクローニングします。選択できるプロモーターのひとつとして酵母のGAL1(galactokinase)遺伝子の強力な発現誘導型プロモーターがあり、酵母での組み換えタンパク質の発現用として最も頻繁に利用されています。

典型的な酵母の研究室株(INVSc1)などでは、GAL1プロモーターの転写活性は培地中の炭素源に依存しています。グルコースはGAL1プロモーターの転写活性を抑制し、反対にガラクトースは活性化させます。それゆえ、目的遺伝子の発現誘導は細胞の培養培地をグルコース含有培地からガラクトース含有培地に交換することによって行われます。

別の方法として、ラフィノースを炭素源として利用できます。ラフィノースはGAL1プロモーターの発現誘導と発現抑制どちらにも影響を与えません。そのため、培地を交換することなくガラクトースの添加だけでGAL1プロモーターの活性化が可能になります。グルコース含有培地よりもラフィノース含有培地で培養されている細胞のほうがガラクトースに応答して短い時間でGAL1プロモーターを活性させます。しかし、ラフィノースはGAL1プロモーターを抑制しないので発現“漏れ”レベルが高くなってしまうことがあります。

組み換えタンパク質の発現はガラクトースによる誘導開始後、グルコース含有培地で培養された細胞ではおよそ4時間、ラフィノース含有培地で培養された細胞ではおよそ2時間で検出できます。組み換えタンパク質の発現を最適化するために時間経過による発現量変化を調べることを推奨しています。

 

当ベクターシステムに関する詳細な情報ついては下記の論文を参照ください

References Topic
Science. 127:28-9 (1958)
Mol. Cell. Biol. 4:1985-98 (1984)
Mol. Cell. Biol. 4:2467-78 (1984)
The GAL1 promoter
Cell 40:767-774 (1985) Induction of gene expression using the GAL1 promoter
Methods Enzymol. 194:1-863. (1991) Extensive information about gene expression in yeast

特長

当ベクターシステムは出芽酵母での恒常的もしくは誘導型遺伝子発現用に設計されています。発現誘導が必要な場合は、GAL1プロモーター下流に目的遺伝子をクローニングし、ガラクトースを添加することで目的遺伝子の発現誘導が可能になります。グルコースが培地に含まれていると遺伝子発現が抑制されます。GAL1プロモーターの活性に対して活性化にも抑制にも関わらないラフィノースも炭素源をして利用できます。

実験による検証

図 1. エピソームベクターを使用した酵母におけるEGFP発現の例。 (A) ウラシル栄養要求性S. cerevisiae株で、コドン最適化EGFP遺伝子をGPDプロモーター下で発現させた。 (B) 形質転換体のEGFP発現を蛍光顕微鏡下で観察した

メリット

高い発現量: 誘導型GAL1プロモーターは目的遺伝子を非常に高いレベルで発現できます。

厳密な発現制御: GAL1プロモーターは目的遺伝子の発現をグルコースによって強力に抑制、ガラクトースによって強力に活性化します。

短時間での発現: GAL1プロモーターから発現される組み換えタンパク質はラフィノース含有培地で培養された細胞ではおよそ2時間で検出可能になります。

デメリット

発現“漏れ”の可能性: GAL1プロモーターによるタンパク質発現にグルコースやガラクトースの代わりの炭素源としてラフィノースを利用できます。しかし、ラフィノースはGAL1プロモーターの活性を阻害しないので目的遺伝子の発現“漏れ”が生じる可能性があります。GAL1プロモーターの活性阻害が必要な場合はグルコースを培地に添加してください。

基本コンポーネント

Promoter: 遺伝子発現用プロモーター。誘導型GAL1プロモーターが使われる場合、ガラクトースは高レベル転写を誘導し、グルコースは強力に発現抑制する

Kozak: Kozak配列。真核生物での翻訳開始を促進すると考えられているためORFの開始コドンの前に配置される。

ORF: 目的遺伝子のORFをここに配置する。

CYC1 terminator: mRNAの転写の終了とポリA付与を促進する。

pUC ori: pUC複製起点。E.coliでプラスミドを高コピー数で維持する。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。 E.coliへのアンピシリン耐性によるプラスミドの維持を可能にする。

Marker: 酵母用の選択マーカー遺伝子。URA3(orotidine-5'-phosphate decarboxylase)遺伝子は広く利用され、形質転換された酵母をウラシルもしくはウリジン非含有培地で選別できる。加えて、5‐FOAが培地に添加されると、URA3タンパク質は5‐FOAを5-fluorouracilに変換する。5-fluorouracilは毒性があり、細胞を殺すのでURA3欠損する酵母を選別することもできる。

2µ ori: 出芽酵母でのプラスミド複製起点であり、高コピー数での維持を可能にする。

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