Vector Systems
Sleeping Beauty 遺伝子発現ベクター
Sleeping Beauty遺伝子発現ベクターの概要
ベクタービルダーがカスタム構築するSleeping Beautyベクターシステムは、哺乳類細胞のゲノムに、デザインした外来DNAを効率的に組み込むことができます。このシステムはウイルスを使った遺伝子導入に比べて技術的に簡単で、プラスミドDNAのトランスフェクション方法で目的細胞のゲノムDNAに、発現させたい目的遺伝子を恒久的に組み込むことができます。
このベクターシステムは魚類ゲノムで見つかった Tc1/mariner トランスポゾンスーパーファミリーに由来します。魚類ゲノム中ではすでに変異が蓄積しトランスポゾンとしての転移活性を失っていました。そのため、サケのTc1/marinerトランスポゾンシークエンスから変異を戻すことでSleeping Beautyトランスポゾンとして再構築しました。 この人工デザインのトランスポゾンの開発によって、Sleeping Beautyシステムは、脊椎動物においての遺伝子導入と挿入型遺伝子変異の作成に非常に効率的な技術となっています。
Sleeping Beautyシステムは2種類のプラスミドベクターから成り、ともに大腸菌で遺伝子改変が可能になっています。一方のプラスミドベクターは、トランスポゼースをコードする遺伝子をもつヘルパープラスミドです。他方のプラスミドベクターは、トランスポゾンベクターで、宿主細胞のゲノムDNAに転移させる目的遺伝子を含むフラグメントを、逆向き反復配列/直列反復配列 IR/DR(R)で挟んだデザインになっています。
ヘルパープラスミドと独自にデザインしたトランスポゾンプラスミドを標的細胞にコトランスフェクトすると、ヘルパープラスミドから産生されたトランスポゼースがトランスポゾンプラスミド上の両末端の IR/DR(R)を認識し、宿主ゲノム中のTAジヌクレオチド配列に目的遺伝子を含む領域を組み込みます。
Sleeping Beautyはカット&ペースト型のクラスIIトランスポゾンに分類され、自己コピーを残さずに転移します(クラスIトランスポゾンは、コピー&ペースト型で、自己コピーを残して転移します)。ヘルパープラスミドは宿主細胞に一過的に導入されるだけなので、時間の経過とともに消失します。ヘルパープラスミドの消失により、宿主ゲノムへのトランスポゾンの組み込みが恒久的になります。ヘルパープラスミドを再び導入することにより、ゲノムに痕跡を残すことなくpiggyBacトランスポゾンを取り除くことができます。
本ベクターシステムの詳細については、以下の文献をご参照下さい。
文献 | トピックス |
---|---|
Cell. 91:501 (1997) | Sleeping Beautyトランスポゾンの再構築 |
Mol Ther. 8:108 (2003) | Sleeping Beautyトランスポゾンを使ったヒト細胞ゲノムへの遺伝子挿入 |
Mol Ther. 9:147 (2004) | Sleeping Beautyトランスポゾンの生物学とアプリケーションのレビュー |
Sleeping Beauty遺伝子発現ベクターの特長
ベクタービルダーのSleeping Beautyトランスポゾンプラスミドとヘルパープラスミドは、共に高コピー数プラスミドDNAとしてデザインされ、大腸菌での大量増幅が可能です。また、幅広い細胞種にトランスフェクションが可能で、遺伝子発現ベクター内にデザインされた遺伝子の高い発現レベルを維持します。
Sleeping Beauty遺伝子発現ベクターのメリット
ベクターDNAの恒久的な組み込み: 一般的なトランスフェクションでは、細胞への一過的なDNAの導入のため、ベクターDNAは時間とともに消失します。特に分裂速度の速い細胞では弱点となります。反対にSleeping Beautyトランスポゾンプラスミドとヘルパープラスミドを細胞に共トランスフェクションすると、Sleeping BeautyトランスポゾンベクターのIR/DR間にデザインされた遺伝子は宿主細胞のゲノムに組み込まれます。そのため宿主細胞に恒久的な遺伝子導入を行うことが可能です。
技術的に簡単: トランスフェクション法によるプラスミドベクターの導入は、ウイルス生体へのパッケージングを必要とするウイルスベクターよりも、はるかに簡単な技術で行うことができます。
Sleeping Beauty遺伝子発現ベクターのデメリット
細胞タイプの制限: Sleeping Beautyトランスポゾンベクターの細胞への導入はトランスフェクションに依存しますが、トランスフェクション効率は細胞タイプによって大きく異なります。非分裂細胞は分裂細胞よりも、また初代培養細胞はライン化された細胞よりも導入が困難です。さらに、神経細胞や膵臓β細胞などある種の細胞では、トランスフェクション法でのベクター導入は難しいことが知られています。 そのためSleeping Beautyシステムの使用に限界があります。
トランスポゾンベクターの搭載限界: トランスポゾンが1.9 から7.2 Kbの場合、トランスポゾンが長くなるにつれて転移効率が低下します。
ベクタービルダーのSleeping Beauty遺伝子発現ベクターの基本コンポーネント
IR/DR(L): 逆向き反復配列/直列反復配列(左側)。Sleeping Beautyトランスポゼースによって認識されます。IR/DR(L)とIR/DR(R)の間にデザインされたフラグメントは、Sleeping Beautyトランスポゼースによって、TAジヌクレオチド塩基対に転移挿入されます。
Promoter: 目的遺伝子を発現させるためのプロモーターをここに配置します。
Kozak: Kozakコンセンサス配列。真核細胞において翻訳開始を促進させるため、目的遺伝子ORFの開始コドン直前に配置します。
ORF: 目的遺伝子のOpen reading frameをここに配置します。
BGH pA: ウシ成長ホルモンポリA付加シグナル。上流ORFの転写を終結させます。
IR/DR(R): 逆向き反復配列/直列反復配列(右側) 。Sleeping Beautyトランスポゼースによって認識されます。IR/DR(L)とIR/DR(R)の間にデザインされたフラグメントは、Sleeping Beautyトランスポゼースによって、TAジヌクレオチド塩基対に転移挿入されます。
TATA: TAジヌクレオチド塩基対。 Sleeping Beautyの転移効率を上げます。
Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。アンピシリンによってプラスミド導入大腸菌を選択します。
pUC ori: pUCの複製起点であるpUC oriをコードするプラスミドは、大腸菌において高コピー数で保持されます。