標準プラスミド条件的遺伝子発現ベクター (LoxP-Stop-LoxP)

概要

標準プラスミド遺伝子発現ベクターシステムはLSL(LoxP-Stop-LoxP)カセットを利用して、哺乳類細胞と哺乳類生体内でCreを利用した条件的な遺伝子発現の活性化を可能にします。LSLカセットはふたつのLoxP配列が3×SV40ポリアデニレーションシグナル配列を挟み込む構造(floxed)をしています。任意のプロモーターをLSLカセットの上流に配置、発現させたい遺伝子をLSLカセットの下流に配置します。Creレコンビナーゼが存在していないとLSLカセットは遺伝子発現を完全に阻害します。細胞内へCreが導入されることによってLSLカセットは取り除かれ、プロモーターが遺伝子を転写できるようになります。

当ベクターシステムはトランスジェニック動物の作製に特に適していますが、培養組織細胞にも利用することも可能です。当ベクターが導入されたトランスジェニック動物個体と組織特異的にCreを発現する個体を交配することで、Creとベクターの両方を持つ子孫が生まれ、Creが発現している組織細胞において遺伝子が特異的に発現します。

当ベクターシステムを培養細胞に使用する際には、抗生物質または蛍光マーカー遺伝子を組み込むことで恒久的にベクターがゲノムに挿入されている細胞の選別が可能になります。

 

当ベクターシステムに関する詳細な情報とCreによる組み換えについては下記の論文を参照してください

References Topic
Mol Biotechnol. 16:151 (2000) Overview of vector design for mammalian gene expression
EMBO J. 12:2539 (1993) Transcription blocker prevent transcriptional interference
J Biol Chem. 259:1509-14 (1984) Purification and properties of the Cre recombinase protein
Genesis. 26:99-109. (2000) Review of the Cre/LoxP recombination system

特長

当ベクターは哺乳類細胞と生体でのCreを利用した条件的遺伝子発現を可能にします。初期状態では目的遺伝子が発現することはありません。しかしCreレコンビナーゼの共発現によって上流にある3×SV40ポリアデニレーションシグナルが除去されて目的遺伝子が発現します。Creによる反応後、目的遺伝子は使用するプロモーターの活性制御にしたがって発現されます。

メリット

安定した発現活性化:Creレコンビナーゼは下流の遺伝子発現を阻害している3×SV40ポリアデニレーション配列を取り除きます。これによって目的遺伝子は任意のプロモーターによって発現されます。

簡便さ:プラスミドベクターは従来の方法によって細胞に導入します。パッケージング操作が必要なウイルスと比べると非常に簡便です。

大きなサイズDNAが許容可能: 当社のベクターは全体で~30kbのDNA配列を扱うことができます。当ベクターのバックボーン部分は3kbほどですので、残りを任意の目的で使用することができます。

高レベル発現:従来のプラスミドベクターによる遺伝子導入法はしばしば非常に高いコピー数(数千コピー)を細胞に導入できます。これらの細胞は非常に高い発現量を持ちます。

in vivo用途に適している: 当ベクターは培養組織細胞への利用もできますが、Creを介した条件的遺伝子発現を目的としたトランスジェニック動物の作製に適しています。 

デメリット

ベクターDNAがゲノムへ挿入されない:プラスミドベクターは非常に低い頻度(細胞タイプによって102-106細胞あたり1回)で宿主ゲノムへ挿入されます。薬剤耐性や蛍光マーカーがプラスミドベクターに組み込まれているならば、薬剤選択やセルソーターによって挿入が起こった細胞を選別できます。

細胞タイプが限定される:プラスミドベクターの細胞への導入効率は細胞タイプに依存し、しばしば条件の最適化が必要です。プライマリ細胞は不死化細胞株よりも効率が悪くなります。いくつかの細胞タイプへの遺伝子導入は非常に困難になります。

導入コピー数にばらつきが大きい:細胞あたりに導入されるベクターの平均コピー数は非常に高くなりますが、ばらつきが大きくなります(ある細胞は非常に高コピー数だが、別の細胞は数コピーしかない、等)。一方でウイルスによる遺伝子導入法はこのようなばらつきは小さくなる傾向があります。

基本コンポーネント

Promoter: Creレコンビナーゼ反応後に目的遺伝子を発現するプロモーター。

LoxP: Creレコンビナーゼの組み換え配列。Cre存在下で2つのLoxP配列間のDNA配列が取り除かれる。

3x SV40 pA: SV40(Simian virus 40)のlateポリアデニレーションシグナルが3つ連続している。上流プロモーターからの転写反応を停止させ、下流の遺伝子の転写を阻害する。

Kozak: Kozak配列。真核生物での翻訳開始を促進すると考えられているためORFの開始コドンの前に配置される。

ORF: 発現させたい目的遺伝子。

SV40 late pA: SV40(Simian virus 40)のlateポリアデニレーションシグナル。上流遺伝子の転写を停止する。

CMV promoter: ヒトCMV immediate earlyプロモーター。マーカー遺伝子を普遍的に発現する。

Marker: 薬剤選択用遺伝子(ネオマイシン耐性など)や視覚化用遺伝子(EGFPなど)、もしくはデュアルレポーター遺伝子(EGFP/Neoなど)。ベクターが導入された細胞の薬剤選択もしくは可視化を可能にする。

BGH pA: ウシ成長因子ポリアデニレーションシグナル。マーカー遺伝子の転写を停止する。

pUC ori: pUC複製起点。E.coliでプラスミドを高コピーで維持する。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。 E.coliへのアンピシリン耐性によるプラスミドの維持を可能にする。

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