PiggyBac 条件的遺伝子発現ベクター (LoxP-Stop-LoxP)

概要

標準プラスミド遺伝子発現ベクターシステムはLSL(LoxP-Stop-LoxP)カセットを利用して、哺乳類細胞と哺乳類生体内でCreを利用した条件的な遺伝子発現の活性化を可能にします。LSLカセットはふたつのLoxP配列が3×SV40ポリアデニレーションシグナル配列を挟み込む構造(floxed)をしています。任意のプロモーターをLSLカセットの上流に配置、発現させたい遺伝子をLSLカセットの下流に配置します。Creレコンビナーゼが存在していないとLSLカセットは遺伝子発現を完全に阻害します。細胞内へCreが導入されることによってLSLカセットは取り除かれ、プロモーターが遺伝子を転写できるようになります。

当ベクターシステムはトランスジェニック動物の作製に特に適していますが、培養組織細胞にも利用することも可能です。当ベクターが導入されたトランスジェニック動物個体と組織特異的にCreを発現する個体を交配することで、Creとベクターの両方を持つ子孫が生まれ、Creが発現している組織細胞において遺伝子が特異的に発現します。

当ベクターシステムを培養細胞に使用する際には、抗生物質または蛍光マーカー遺伝子を組み込むことで恒久的にベクターがゲノムに挿入されている細胞の選別が可能になります。

当システムはE.coliプラスミドとして設計された2つのベクターから構成されます。ひとつめはヘルパープラスミドと呼ばれ、トランスポゼースを持ちます。もうひとつはトランスポゾンプラスミドと呼ばれ、2つのITR(inverted terminal repeats)のあいだに挿入予定DNA配列が組み込まれます。プロモーターとLSLカセット、目的遺伝子はITRのあいだにクローニングされます。ヘルパープラスミドとトランスポゾンプラスミドの両方が標的細胞に存在すると、ヘルパープラスミドから発現したトランスポゼースはトランスポゾンプラスミド上の2つのITRを認識してITRと条件的遺伝子発現カセットを宿主細胞ゲノムに挿入します。piggyBacトランスポゾンは通常、ゲノムのTTAA配列に挿入されます。挿入の過程でTTAA配列は複製されて挿入場所の両端に配置されます。

PiggyBacはクラスIIトランスポゾンであり、カット&ペースト様式(転移後に自身のコピーを残さない)で転移します。クラスIトランスポゾンは転移のあとに自身のコピーを残す、コピー&ペースト様式をとります。ヘルパープラスミドは一過的に細胞内に導入され、時間経過とともに失われます。ヘルパープラスミドの宿主細胞からの消失によってゲノムへ挿入されたトランスポゾンは恒久的に固定化されます。ヘルパープラスミドが再導入された場合、トランスポゾンはゲノムの挿入位置から再び転移することがあります。

 

当ベクターシステムに関する詳細な情報とCreによる組み換えについては下記の論文を参照してください

References Topic
Mol Cell Biochem. 354:301 (2011) Review of piggyBac
Cell. 122:473 (2005) Efficient transposition of the piggyBac (PB) transposon in mammalian cells and mice
EMBO J. 12:2539 (1993) Transcription blocker prevent transcriptional interference
J Biol Chem. 259:1509-14 (1984) Purification and properties of the Cre recombinase protein
Genesis. 26:99-109. (2000) Review of the Cre/LoxP recombination system

特徴

当社のpiggyBacトランスポゾンベクターシステムは哺乳類細胞と生体で条件的遺伝子発現を可能にします。初期状態では目的遺伝子が発現することはありません。しかしCreレコンビナーゼの共発現によって上流にある3×SV40ポリアデニレーションシグナルが除去されて目的遺伝子が恒久的に発現するようになります。Creによる反応後、目的遺伝子は使用するプロモーターの活性制御にしたがって発現されます。

メリット

安定した発現活性化:Creレコンビナーゼは下流の遺伝子発現を阻害している3×SV40ポリアデニレーション配列を取り除きます。これによって目的遺伝子は任意のプロモーターによって発現されます。

恒久的なゲノムへの挿入:従来の方法で宿主細胞へ導入された遺伝子は時間経過とともに失われてしまいます。この問題は増殖速度の速い細胞では特に顕著になります。一方でPiggyBacトランスポゾンプラスミドとヘルパープラスミドを使った遺伝子導入法はトランスポゾンを恒久的に宿主細胞ゲノムに挿入します。

簡便さ:プラスミドベクターは従来の方法によって細胞に導入されます。パッケージング操作が必要なウイルスと比べると非常に簡便です。

大きなサイズDNAが許容可能: 当社のトランスポゾンベクターは全体で~30kbのDNA配列を扱うことができます。当ベクターのバックボーン部分は3kbほどですので、残りを任意の目的で使用することができます。

デメリット

細胞タイプが限定される:PiggyBacベクターの細胞への導入効率は細胞タイプに依存し、しばしば条件の最適化が必要です。プライマリ細胞は不死化細胞株よりも効率が悪くなります。いくつかの細胞タイプへの遺伝子導入は非常に困難になります。

基本コンポーネント

5' ITR: 5' inverted terminal repeat。piggyBacトランスポゼースは2つのITR(5' ITR と3' ITR )を認識してITRとそのあいだのDNA配列を宿主ゲノムへ挿入する。

Promoter: Creレコンビナーゼ反応後に目的遺伝子を発現するプロモーター。

LoxP: Creレコンビナーゼの組み換え配列。Cre存在下で2つのLoxP配列間のDNA配列が切り取られる。

3x SV40 pA: SV40(Simian virus 40)のlateポリアデニレーションシグナルが3つ連続している。上流プロモーターからの転写反応を停止させ、下流の遺伝子の転写を阻害する。

Kozak: Kozak配列。真核生物での翻訳開始を促進すると考えられているためORFの開始コドンの前に配置される。

ORF: 発現させたい目的遺伝子。

rBG pA: ラビットβ-グロブリンポリアデニレーションシグナル。上流遺伝子の転写を停止する。

CMV promoter: ヒトCMV immediate earlyプロモーター。マーカー遺伝子を普遍的に発現する。

Marker: 薬剤選択用遺伝子(ネオマイシン耐性など)や視覚化用遺伝子(EGFPなど)、もしくはデュアルレポーター遺伝子(EGFP/Neoなど)。ベクターが導入された細胞の薬剤選択もしくは可視化を可能にする。

BGH pA: ウシ成長因子ポリアデニレーションシグナル。マーカー遺伝子の転写を停止する。

3' ITR: 3' inverted terminal repeat.