Vector Systems
植物遺伝子発現アグロバクテリウムバイナリーベクター
概要
アグロバクテリウムを利用した遺伝子導入法はとても効率的にトランスジェニックプラントを作製できます。当システムは多くの植物種のゲノムに外来性DNAを挿入できるアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)とバイナリーベクターを利用したシステムです。
アグロバクテリウムバイナリーベクターは腫瘍誘導(Ti)プラスミドを基に開発されました。アグロバクテリウムはT-DNA(transfer DNA)として知られているTiプラスミド上の領域を多様な植物種のゲノムに挿入します。T-DNAは両端で互いに向き合った形で配置された25bpのT-DNA境界反復配列で区切られています。当社のバイナリーベクターシステムでは、目的配列の宿主ゲノムへの挿入に必要なT-DNA境界反復配列以外のすべてのがん化に関連した配列をT-DNAから取り除いてあります。
バイナリーベクターベクターシステムは2つのプラスミドから構成されます。ひとつめはT-DNAバイナリーベクター(もしくは単純に‘バイナリーベクター’)と呼ばれ、宿主植物へと挿入されるDNA配列の両脇に配置された2つのT-DNA境界反復配列を持ちます。目的遺伝子はバイナリーベクターのT-DNA境界反復配列のあいだにクローニングされます。ふたつめのプラスミドはvirヘルパープラスミドと呼ばれ、T-DNA境界反復配列に挟まれた配列を植物細胞ゲノムに挿入するために必要なコンポーネントを持っています。植物細胞の形質転換の前にこれら二つのプラスミドを共形質転換や接合によってアグロバクテリウムに導入しておきます。
バイナリーベクターとvirヘルパープラスミドがアグロバクテリウム細胞に同時に存在すると、virヘルパープラスミドから発現したタンパク質がバイナリーベクターにはたらきかけてふたつのT-DNA境界配列間の配列の切り出し、分泌して宿主ゲノムへの挿入を媒介します。遺伝子配列の挿入される配列に明確なバイアスはありません。
当ベクターシステムに関する詳細な情報ついては下記の論文を参照ください
References | Topic |
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Plant Physiology. 146:325-32 (2008) | Review of T-DNA binary vector systems. |
Trends in Plant Sci. 5:446-51 (2000) | Review of T-DNA binary vector systems. |
特長
当社のアグロバクテリウムバイナリーベクターシステムは宿主植物細胞ゲノムへの効率的なDNA配列の挿入を可能にします。バイナリーベクタープラスミドは大腸菌とアグロバクテリウム内での複製、任意のDNA配列の宿主植物細胞への挿入、そして導入した遺伝子の高レベル発現に最適化されています。
メリット
恒久的なベクターDNAの挿入: これまでの遺伝子導入法では宿主細胞へのDNAの導入はエピソーマルDNAの減少のために一過的なものとなっていました。この問題は増殖の速い細胞では特に顕著になります。一方で、アグロバクテリウムベクターを使った植物細胞の形質転換はT-DNA領域を宿主ゲノムへと挿入するため遺伝子を恒久的に導入することができます。
簡便さ: バイナリーベクターを使ったアグロバクテリウムの遺伝子導入およびバイナリーベクターとアグロバクテリウムを使った植物細胞への遺伝子導入は容易に実行できます。
大きなサイズDNAが許容可能: 当社のアグロバクテリウムバイナリーベクターシステムは非常に大きなサイズのDNA配列を扱うことができます。一般的に20kb以上のDNA配列を容易にクローニング、標的細胞に導入できます。
デメリット
3’ 末端領域の欠損: 植物細胞内で左側(3‘末端)のT-DNA境界反復配列のDNAが分解されることは頻繁に起こります。しかしながら、左側T-DNA境界反復配列にはマーカー遺伝子が配置されており、研究の目的遺伝子は右側T-DNA境界反復配列の近くに配置されるので大きな問題になりません。
適切なアグロバクテリウム株と選択マーカーの選択が必要: アグロバクテリウム株とバイナリーベクターの選択マーカーの組み合わせに気を付けてください。例えば、特定のアグロバクテリウム株はすでに薬剤耐性をもつので、その薬剤に対する耐性遺伝子を選択マーカーとして持つバイナリーベクターはこの株には使えません。
ベクターバックボーンの挿入: T-DNA境界反復配列に挟まれた配列以外の、ベクターのバックボーン部分の挿入が起こることがあります。当社のバイナリーベクターシステムは低コピー数アグロバクテリウムベクターを使用しており、バックボーン挿入の発生する頻度がより低くなっています。
基本コンポーネント
Promoter: 目的の遺伝子を発現させるプロモーター。
Kozak: Kozak配列。真核生物での翻訳開始を促進すると考えられているためORFの開始コドンの前に配置される。
ORF: 目的遺伝子のORFをここに配置する。
Nos pA: Agrobacterium tumefaciens由来のノパリンシンターゼポリアデニレーションシグナル。上流ORFの転写停止を促進する。
RB T-DNA repeat: 右T-DNA境界反復配列。アグロバクテリウム細胞内でTiプラスミドに認識されるとT-DNA境界反復配列のあいだの領域は植物細胞へと導入される。
pVS1 StaA: アグロバクテリウムでのpVS1プラスミドの安定性した分配に必要なタンパク質。
pVS1 RepA: アグロバクテリウムでのpVS1プラスミドの低コピー数複製に必要なタンパク質。
pVS1 oriV: アグロバクテリウムでのpVS1プラスミドの低コピー数複製起点。
pBR322 ori: pBR322複製起点。E.coliのプラスミド複製に必要。pBR322複製起点をもつプラスミドはRopタンパク質があると低コピー数(細胞あたり15-20コピー)で維持される。Ropタンパク質がない場合は中コピー数(細胞あたり100-300コピー)で維持される。
Kanamycin: カナマイシン耐性遺伝子。 カナマイシンへ耐性の有無によって宿主バクテリア内でのプラスミドの維持が可能になる。
LB T-DNA repeat: 左T-DNA境界反復配列。アグロバクテリウム細胞内でTiプラスミドに認識されるとT-DNA境界反復配列のあいだの領域は植物細胞へと導入される。
CaMV 35S_enhanced: マーカー遺伝子を発現する強力なプロモーター。
CaMV 35S pA: カリフラワーモザイクウイルス35Sポリアデニレーションシグナル。マーカー遺伝子の転写停止とポリA付与を促進する。
Marker: 遺伝子導入後の植物細胞の選別を可能にする薬剤耐性遺伝子。