MSCVレトロウイルス non-coding RNA発現ベクター

概要

MSCV (Murine stem cell virus) レトロウイルスベクターシステムでは、Embryonic stem cell (ES細胞)、Embryonic carcinoma cell (EC細胞)、Hematopoietic stem cells (HS細胞)およびその他哺乳細胞株で効率よく、恒久的に遺伝子を発現させることができます。Non-coding RNAは多種のshort(30塩基以下)もしくはlong(200塩基以上)機能性RNAで、micro RNAs (miRNAs)、small interfering RNAs (siRNAs)、piwi-interacting RNAs (piRNAs)、small nuclear RNAs (snRNAs)、small nucleolar RNAs (snoRNAs)、large intergenic non-coding RNAs (lincRNAs)、intronic long non-coding RNAs (intronic lncRNAs)、natural antisense transcripts (NATs)、enhancer RNAs (eRNAs) 、 promoter-associated RNAs (PARs)などがあります。これらはタンパク質に翻訳されることはありませんが、DNA複製、エピジェネティック制御、転写および転写後制御そして翻訳制御など数多くの細胞内機構で重要な役割を担っています。

MSCVレトロウイルス non-coding RNA発現ベクターでは、 5’ LTR (long terminal repeat)内に存在するユビキタスなプロモーターから、RNA ポリメラーゼII依存的にnon-coding RNAが発現されます。RNA ポリメラーゼIIによる転写は、通常、プロモーターの3‘領域から開始し、ポリAシグナル配列内で終結します。このため、本ベクターから生成されたnon-coding RNAは、正確な配列ではなく、上流と下流に余分な配列が付加されることになります。

MSCVレトロウイルスベクターは、まず、2つのLTRの間にnon-coding RNAを挿入した大腸菌プラスミドとして構築されます。その後、複数のヘルパープラスミドと共にパッケージング細胞へトランスフェクトします。パッケージング細胞では、2つのLong terminal repeats (LTR)間に挟まれた領域がRNAへ転写され、ヘルパープラスミドから産生されたウイルスタンパク質にパッケージングされます。生きたウイルスは上清へ放出され、この上清液は直接あるいは濃縮後、ターゲット細胞の感染に使用されます。

ターゲット細胞内に運ばれたウイルスRNAはDNAに逆転写された後、宿主ゲノムへランダムに組み込まれます。ベクター構築時に、2つのLTR間に挿入された遺伝子は、残りのウイルスゲノムとともに宿主ゲノムへ恒久的に挿入されます。

MSCVレトロウイルスベクターはウイルスパッケージングと遺伝子導入に必要な遺伝子を欠損し、代わりにこれら遺伝子はウイルスパッケージングに使用されるヘルパープラスミド、あるいはパッケージング細胞に組み込まれています。このため、MSCVレトロウイルスベクターから生成されるウイルスは、細胞に導入されても複製はされず、安全に配慮されたシステムとなっています。

本ベクターシステムの詳細については、以下の文献をご参照下さい。

文献 トピック
Cell. 157:77 (2014) Review on non-coding RNAs
Front Genet. 6:2 (2015) Review on functionality of non-coding RNAs
PLoS One. 8:e77070 (2013) Retrovirus-mediated expression of long non-coding RNA
Exp Hematol. 31: 1007 (2003) Review on retrovirus-mediated gene expression
Gene Ther. 1: 136 (1994) Development of the MSCV vector series

特長

当社のMSCVプラスミドベクターは、大腸菌で高コピー数に複製されます。そのため、高力価ウイルスパッケージングが可能で、ES, ECおよびHS細胞を含む幅広い細胞種において、宿主ゲノムへのベクター組み込み効率にも優れ、トランスジーンを高レベルで発現させることができます。

メリット

ベクターDNAの恒久的な組み込み: 一般的なトランスフェクションでは、ベクタープラスミドは時間の経過と共に失われるため、DNAの導入は一過性で、分裂速度の早い細胞においては特に不安定となります。一方、レトロウイルスでは、宿主ゲノムへの組み込みにより、恒久的に遺伝子を導入することができます。

広範な組織指向性: ベクタービルダーのパッケージングシステムではウイルス表面にVSV-Gエンベロープタンパク質を発現しています。VSV-Gエンベロープタンパク質は幅広い指向性を持つため、一般的によく用いられるヒト、マウスおよびラットなどの生物種由来の細胞に効率よく導入することができます。また、MSCVベクターでは、PCMVの5’LTRを使用することにより、ES, ECおよびHS細胞において、ターゲット遺伝子を高レベルで発現させることができます。これは、ターゲット遺伝子の発現がES細胞とEC細胞に制限されるMMLVレトロウイルスベクターとは異なる特徴です。しかしながら、非分裂細胞への導入は困難です。

大きなカーゴスペース: MSCVレトロウイルスベクターのDNAサイズ制限は~8.3kbで、ウイルスパッケージングと導入に必要なコンポーネント分の~2-2.5kbを差し引くと、搭載スペースは~5.8-6.3kbになります。ベクタービルダーのMSCVベクターは、non-coding RNAのみを挿入するようにデザインされているため、この搭載スペースはほとんどの使用目的において十分な大きさです。

高レベル発現: 5’LTRのユビキタスかつ強力なプロモーターで、目的遺伝子を高レベルで発現させることができます。

遺伝子導入の均一性が高い: 一般的に、ウイルスによる導入は比較的バラツキが少なく、細胞間で均一にベクターを導入することができます。反対に、一般的なトランスフェクション法では、ある細胞では高コピー数、またある細胞では低コピー数あるいは全く導入されなかったりと、プラスミドベクターの導入は非常に不均一になります。

In vitroとin vivoでの使用: W主にin vitroで培養細胞の導入に使用されますが、生きた動物の細胞へ導入する場合にも使用することができます。

安全への配慮: ウイルスパッケージングと導入に必須な遺伝子を複数のヘルパープラスミドに分散、あるいはパッケージング細胞に組み込むことにより、安全性を高めています。ベクタビルダーのベクターから産生されたウイルスは、複製能を欠失させています。

デメリット

5’ LTRプロモーターへの依存: non-coding RNAは5’ITRのプロモーター機能によって、ユビキタスに発現されます。レンチウイルスベクターと異なり、自由にプロモーターを選択することはできません。

中程度のウイルス力価: パッケージング細胞上清から得られるウイルス力価は、濃縮をしない場合~10^7/mlで、レンチウイルスよりも1桁程度低くなります。

非分裂細胞への導入が困難:  非分裂細胞への導入は困難です。

技術的な難しさ: MSCVウイルスベクターを形質導入に使う前に、 ウイルス産生細胞に複数のプラスミドDNAをトランスフェクトして、生きたウイルス粒子を作成させ、精製し、ウイルスのタイターを測定するなど、形質導入までにこなさなければならない様々な作業があります。これらの作業は、一般的なプラスミドのトランスフェクション法に比べ、技術的に習熟するまでの期間や、さらに実際のウイルス作製日数も長くかかります。

基本コンポーネント

MSCV 5’ LTR: マウスPCC4細胞で継代された、Myeloproliferative sarcoma virus (PCMV)の5‘ long terminal repeat。5' LTRはウイルスゲノムの転写を駆動するプロモーター、3' LTRは転写を終結させるためのポリA付加シグナルとして機能します。PCMVの5' LTRは、MMLVレトロウイルスベクターと異なり、ES細胞やEC細胞などの多能性細胞株において、ターゲット遺伝子の転写を活性化するよう、計画的な修正が加えられています。

MSCV Ψ+:ウイルスRNAをウイルスにパッケージングするために必要なマウスES細胞のウイルスパッケージングシグナルです。

Non-coding RNA: Non-coding RNAをここに配置します。Non-coding RNAは、5’LTRのユビキタスなプロモーター機能によって発現します。

MSCV 3’ LTR: マウスPCC4細胞で継代された、Myeloproliferative sarcoma virus (PCMV)の3’ long terminal repeat。ウイルスRNAのパッケージング、また、ESおよびその他の細胞における転写の終結とmRNAのポリA付加に必要です。

pUC ori: pUCの複製起点であるpUC oriをコードするプラスミドは、大腸菌において高コピー数で保持されます。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。アンピシリンによってプラスミド導入大腸菌を選択します。

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