レンチウイルスshRNAノックダウンベクター

概要

レンチウイルスshRNAノックダウンベクターシステムは広範な細胞タイプでシンプルかつ効率的に標的遺伝子の発現を一過的にノックダウンすることができます。ウイルスゲノムが逆転写されて宿主ゲノムへ挿入されると、shRNAはU6プロモーターから発現して標的遺伝子mRNAを分解します。レンチウイルスによる恒久的なノックダウン効果は合成siRNAを利用した一過的なノックダウンよりも明らかに優れています。

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当社のレンチウイルスベクターはウイルスのパッケージングや感染に必要になる遺伝子群が取り除かれています。これらの遺伝子は代わりにヘルパープラスミドから提供されます。レンチウイルスベクターによって生産されるウイルスは複製不能(細胞に感染はできるが複製はできない)の為に安全性が保障されています。

当社のレンチウイルスの概要ついては「ベクターシステムの解説」のレンチウイルス発現ベクターの項を参照してください。レンチウイルスshRNAノックダウンベクターについての詳細な情報については下記の論文を参照してください。

References Topic
RNA. 9:493-501 (2003) Development of lentiviral shRNA vectors
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特徴

当社のレンチウイルスshRNAノックダウンベクターは第三世代レンチウイルスベクターを基にしています。E.coliでの高コピー数複製、高タイターのウイルス作製、広範囲な細胞タイプへの高効率な遺伝子導入および宿主ゲノムへの挿入を実現できます。ヒトU6プロモーターは哺乳類細胞内でshRNAの高レベルかつ恒久的な転写を可能にし、当社のshRNAステムループ配列は効果的なshRNA形成と標的遺伝子のノックダウンを可能にします。

実験による検証

当社のレンチウイルスU6型shRNAノックダウンベクターは図1にあるように、高効率な遺伝子ノックダウンが可能です。ここではU6型とmiR30型shRNAシステムの比較もしています。

図1 U6型とmiR30型shRNAレンチウイルスシステムを使用した、EGFPノックダウン効率の比較。

(A) U6プロモーターから発現するshRNA、CMVプロモーターから発現するmiR30 shRNA、もしくはCMVプロモーターから発現するmiR30 クアッドshRNAが組み込まれたレンチウイルスベクターをウイルスにパッケージングした。EGFPを発現するHEK293T細胞にレンチウイルスに感染させたのち、薬剤選択の前と後におけるEGFP発現量をフローサイトメトリーによって測定した。(B) 薬剤選択の前のEGFP発現量は、U6型shRNAでは~46%の減少(P<0.001)、CMVプロモーターから発現するmiR30型shRNAで13%の減少(P<0.001)、CMVプロモーターから発現するmiR30型クアッドshRNAで44%の減少(P<0.001)がみられた。(C) 薬剤選択後のEGFP発現量は、U6型shRNAでは~72%の減少(P<0.001)、CMVプロモーターから発現するmiR30型shRNAで60%の減少(P<0.001)、CMVプロモーターから発現するmiR30型クアッドshRNAで67%の減少(P<0.001)がみられた。相対EGFP発現量は感染細胞の蛍光強度の中央値(MFI:median fluorescence intensities)を非感染細胞の中央値で割ることによって計算された。実験は3回繰り返され、標準偏差は図内で記載している。p値はTukey検定から算出した。

メリット

恒久的なノックダウン:レンチウイルスの宿主ゲノムへの挿入は不可逆であり、U6プロモーターは恒久的にshRNA発現します。これらの理由から標的遺伝子のノックダウンは安定かつ恒久的なものになり、特定の実験用途にとって重要な利点となります。例えば、shRNAノックダウンによるin vivo, in vitro表現型の長期間にわたる観察が可能になります。ノックダウンベクターに蛍光マーカーが組み込まれているならば、レンチウイルスゲノムの挿入コピー数が異なる(異なるノックダウンのレベルを持つと想定される)細胞をFACS使って蛍光強度に応じて選別することによって様々なノックダウンレベル、様々な表現型をもつクローンを単離することもできます。

高ウイルスタイター:当社のベクターは非常に高いタイターのウイルスを作製できます(当社のウイルス作製サービスを利用すれば>108 TU/mlが可能)。このレベルのタイターならば適量のウイルス上清を使うことで100%近い遺伝子導入効率が得られます。

非常に幅広い親和性:当社のウイルスパッケージングシステムはVSV-Gエンベロープタンパク質をウイルス表面に追加してあるので幅広い親和性を実現しています。その結果、すべての一般的な哺乳類細胞といくつかの非哺乳類細胞への遺伝子導入が可能です。さらに、ほとんどの哺乳類細胞タイプ(増殖・非増殖細胞、プライマリ細胞、接着・非接着細胞)に遺伝子を導入することも可能です。レンチウイルスベクターはアデノウイルスベクター(いくつかの細胞タイプへの形質転換効率が低い)やMMLVレトロウイルスベクター(非増殖細胞の形質転換が困難)よりも広範な親和性を持つので、従来通りの遺伝子導入法では難しかった神経細胞もレンチウイルスベクターならば確実に遺伝子導入できます。

導入コピー数にばらつきが少ない:従来のプラスミドベクターによる遺伝子導入法は導入ベクターコピー数が細胞ごとに大きなばらつきが生じますが、一般的にウイルスによる遺伝子導入は導入ベクターコピー数が比較的に均一になります。

In vitroとin vivoで有効:レンチウイルスベクターは培養細胞と生体の両方に対して効果的です。

安全性:当ベクターの安全性はふたつの点から保証されます。ひとつめはウイルスのパッケージングと感染に必要な遺伝子群がヘルパープラスミドに移されていること、ふたつめは5' LTR-ΔU3はプロモーター活性をもたないので感染時にウイルスRNAが転写されません。そのために、複製可能なウイルスが発生する可能性はなく、当社のベクターを使用することによる健康へのリスクは最小限になります。

デメリット

技術的な複雑さ:レンチウイルスベクターはパッケージング細胞によるウイルス作製とタイターの正確な計測などの操作が必要になります。従来のプラスミドを使った遺伝子導入と比べてこれらは高い技術の習熟が必要となり、時間もかかります。

恒久的なノックダウン:レンチウイルスの宿主ゲノムへの挿入は不可逆的であり、U6プロモーターは恒久的にshRNAを発現します。これは実験目的に応じてメリットにもデメリットにもなり、例えば標的遺伝子がノックダウンされると再活性化することは非常に困難になります。

基本コンポーネント

RSV promoter: ラウス肉腫ウイルスプロモーター。ウイルスRNAを転写する。その後ウイルスRNAはウイルスにパッケージングされる。

5’LTR-ΔU3 : HIV-1の5‘LTR(long terminal repeat)に欠損を起こしたもの。レンチウイルス野生株の5‘LTRと3' LTRは相同配列をもつ。5‘LTRと3‘LTRはウイルスゲノムの両端に同じ向きで配置される。ウイルスゲノムの挿入過程に3‘LTRの配列は5‘LTRに上書きされる。LTRはプロモーターとポリアデニレーションシグナルの両方の機能があり、野生株では5‘LTRはウイルスゲノムを転写するプロモーターとして、3‘LTRは転写終了させるためのポリアデニレーションシグナルとして機能する。当社のベクターでは、5' LTR-ΔU3はウイルスの転写因子TatがLTRのプロモーターを活性化するために必要な配列が欠損している。しかしながら、5' LTR-ΔU3 上流のRSVプロモーターが代わりにプロモーターとして機能するため、この欠損はパッケージング時のウイルスRNAの生産に影響しない。

Ψ: ウイルスRNAのパッケージングに必要なHIV-1パッケージングシグナル。

RRE: HIV-1 Rev response element。ウイルスRNAのパッケージング時のRevタンパク質によるウイルスRNAの核外輸送に必要。

cPPT: HIV-1 Central polypurine tract。細胞感染中にウイルスゲノムの核内輸送を促進させるためのDNAフラップを形成する。ベクターの宿主ゲノムへの挿入効率を上昇させ、形質転換効率を高める。

U6 promoter: ヒトU6 snRNAのプロモーター。RNAポリメラーゼIIIによってshRNAを高レベルで発現する。

Sense, Antisense: 標的配列から設計され、shRNAのヘアピン構造のステム部分を形成する。

Loop: shRNAのヘアピン構造のループ部分を形成するために最適化された配列。

Terminator: shRNAの転写を停止する。

hPGK promoter: ヒトphosphoglycerate kinase 1 遺伝子プロモーター。下流のマーカー遺伝子を遍在的に発現する。

Marker: 薬剤選択用遺伝子(ネオマイシン耐性など)や視覚化用遺伝子(EGFPなど)、もしくはデュアルレポーター遺伝子(EGFP/Neoなど)。ベクターが導入された細胞の薬剤選択もしくは可視化を可能にする。

WPRE: ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子。ウイルスRNAの3' LTRでの転写停止を促進してパッケージング細胞でのウイルスRNAを増加させ、高ウイルスタイターを実現する。さらに、Cas9遺伝子の転写停止も促進することで高い発現レベルを可能にする。

3’LTR-ΔU3 : HIV-1の3‘LTRのU3領域に欠損を起こしたもの。ウイルスベクター挿入過程で3' LTRが5' LTRを上書きするために、プロモーター不活性型の5' LTR-ΔU3が宿主ゲノムへ挿入される。3’LTR-ΔU3のポリアデニレーションシグナルはウイルスパッケージング中と宿主ゲノムに挿入後のすべての転写反応を停止させる。

SV40 early pA: SV40(Simian virus 40)のearlyポリアデニレーションシグナル。ウイルスパッケージング時の3' LTRによるウイルスRNA転写停止を補助する。パッケージング細胞でのウイルスRNAを増加させ高ウイルスタイターを実現する。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。 E.coliへのアンピシリン耐性によるプラスミドの維持を可能にする。

pUC ori: pUC複製起点。E.coliでプラスミドを高コピーで維持する。