pETベクター:原核生物 組換えタンパク質発現用

概要

pETベクターは、組み換えタンパク質を大腸菌内で一過的に大量発現させる優れたベクターで、研究や製薬に広く使用されています。pETベクターにクローニングされた組み換えタンパク質をコードする遺伝子の転写/翻訳は、バクテリオファージT7に由来するT7 RNAポリメラーゼによって活性化されます。組み換えタンパク質の転写/翻訳の誘導は、ラクトースアナログのIPTGの培養液への一過的添加でコントロールします。誘導がかかると、大腸菌細胞内リソースのほとんど全てが組み換え遺伝子の発現に動員され、数時間の誘導でも組み換えタンパク質の発現量は、大腸菌細胞の全タンパク質量のほぼ半分を占めるまでに増加します

pETベクターシステムの詳細については、以下の文献をご参照下さい。

考文献 内容
Methods Enzymol. 185:60-89 (1990) T7 RNAポリメラーゼによる遺伝子発現
J Mol Biol. 219:45 (1991) T7 lacプロモーターシステムの改良

ユーザーガイド

特長

目的遺伝子のpETベクターへのクローニングは、T7 RNAポリメラーゼ遺伝子を欠失した大腸菌(例えば、VB超安定コンピテントセル)を使います。宿主大腸菌の生存にリスクを及ぼし、プラスミドが不安定になるリスクを避けるためです。

 

T7 RNAポリメラーゼ欠損下では通常のベクター構築を行えます。ベクターが完成したのち、組み換えタンパク質を発現させる方法は2種類あります。1)クローニングに使った大腸菌にT7 RNAポリメラーゼ遺伝子を持つファージを感染させる、または 2)クローニングしたpETベクターをT7 RNAポリメラーゼ遺伝子を持つ大腸菌株(例えばBL21(DE3))に形質転換し、発現させる方法です。2)の方法が現在は一般的です。

 

目的タンパク質発現用の大腸菌はゲノム中に、LacUV5プロモーターに制御されたT7 RNAポリメラーゼ遺伝子をもっています。T7 RNAポリメラーゼの発現は、ラクトースアナログであるIPTGの大腸菌培養液への添加によって一過的に誘導することができます。

 

pETベクターはpBR322 oriが複製開始点としてデザインされています宿主大腸菌内で低コピープラスミドとして保持されることで、誘導前の組み換えタンパク質発現の “漏れ” を最低限に抑えます。

 

組み換えタンパク質遺伝子の転写誘導は、T7 lacプロモーターシステムにより強力かつ厳密に制御されています。

 

T7プロモーターはT7 RNAポリメラーゼによる組み換え遺伝子の高レベルな発現に、またT7プロモーター直下に配置されたlacオペレーター(LacO)は、lacリプレッサー(LacI)タンパク質による、T7プロモーターからの転写阻害にそれぞれ機能しています。LacIのプロモーターとタンパク質コード領域はpETベクター上に搭載されています。LacIタンパク質は宿主細胞のLacUV5プロモーターにおいてT7 RNAポリメラーゼの遺伝子発現を抑制し、またpETベクターのT7 lacプロモーターにおいて目的遺伝子の転写を抑制しています。IPTG添加により、LacI の抑制機能が解除され、T7 RNAポリメラーゼおよび組み換え遺伝子の発現が誘導されます。

 

pETベクターシステムは、組み換えタンパク質の大量発現用システムとしてデザインされていますが、その発現量はITPGの添加量の増減である程度の調整が可能です。例えば、大量発現させた組み換えタンパク質が、不溶性分画にいってしまった場合など、ITPG添加量を減少させタンパク質の発現量を減少させ、可溶的に回収します。同時に大腸菌培養温度を低く設定することも効果的です。

 

カスタムpETベクターは、VB超安定ホストのようなT7 RNAポリメラーゼ遺伝子を欠失した大腸菌株、またはプラスミドDNAで納品されます。組み換えタンパク質の発現を行う場合には、BL21(DE3) やHMS174(DE3)など、LacUV5プロモーターからT7 RNAポリメラーゼが発現する大腸菌株へプラスミドDNAの形質転換を行ってください。宿主大腸菌での組み換えタンパク質の発現が、大腸菌に対して毒性があると考えられる場合は、pLysSあるいはpLysEプラスミドの導入をお勧めします。これらプラスミドから産生されるT7 RNAポリメラーゼのインヒビターであるT7 lysozymeにより、目的遺伝子の発現を抑制することができます。

メリット

高発現量:  T7 転写・翻訳調節システムは、高レベルの組み換えタンパク質発現調節システムです。培養から得られた50%は組み換えタンパク質です。

発現の厳格な制御: 組み換え遺伝子の発現は、IPTGを添加しない状態で強力に転写の抑制がかかっています。この”オフ”の状態は、他のシステムに比べてはるかに高い制御力です。

デメリット

宿主大腸菌: 完成したpETベクターの保存は、T7 RNAポリメレースを持たない宿主大腸菌で保存する。組み換えタンパク質の発現誘導はpETベクターを、T7 RNA ポリメレースを持つ宿主大腸菌に形質転換を行って実施する必要がある。

宿主大腸菌によっては、組み換えタンパク質のリークもある: IPTGを添加しない状態でも低レベルの T7 RNA ポリメレースの発現が LacUV5プロモーターから起こる宿主大腸菌がある。 組み換えタンパク質が宿主大腸菌に対して毒性を表すことがありうる。

構成要素

T7 プロモーター: T7 RNAポリメラーゼ存在下で、目的遺伝子を高レベルで発現します。直下にLacOを配置した配列はT7 lacプロモーターと呼ばれます。

LacO: LacIの結合部位。LacIがT7プロモーター活性を阻害することにより、目的遺伝子発現の “漏れ”(Leaky expression またはBackground expression)を防止します。

RBS: リボソームバインディングシークエンス。T7バクテリオファージ由来のリボソーム結合および翻訳開始部位。目的タンパク質を効率よく産生させます。

ORF: 目的遺伝子のopen reading frameをここに配置します

T7 terminator: T7 promoter下流の転写を終結させるシグナル配列です。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。アンピシリンの大腸菌培地への添加によってプラスミドが形質転換された大腸菌を選択します。

pBR322 ori: pBR322の複製起点。Rop遺伝子と同様、pBR322 oriを持つプラスミドは、ホスト大腸菌内で低コピー数で維持されます

Rop: Repressor of primer。プラスミドのコピー数を制御する小さなタンパク質をコードしています。pBR322の複製起点をもつプラスミドにRopタンパク質が存在すると、プラスミドはホスト大腸菌内で低コピー数で維持されます。

LacI: 自然界で大腸菌が有するlacリプレッサーのプロモーターとコード配列です。誘導システム非存在下(i.e. IPTGを添加しない)では、T7 lacプロモーターからの目的遺伝子の転写、およびLavUV5プロモーターからのT7 RNAポリメラーゼの転写を阻害します。

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