pCS 大腸菌用低温ショック誘導性ベクター

概要

pCSベクターシステムは、15℃程度の低温条件で大腸菌内の組み換えタンパク質を発現誘導できます。当システムは大腸菌の低温ショックタンパク質CspAとlacオペロン制御システムを利用しています。37℃で組み換えタンパク質を発現誘導をするpETやpBadシステムに対して補完的な役割を持ちます。

組み換えタンパク質のフォールディングには温度条件が非常に重要であり、タンパク質の水溶性および安定性に影響を与えます。37℃で低い水溶性と安定性を示す多くのタンパク質が低温条件で水溶性と安定性が改善されます。もしpETやpBadシステムを37℃で使用していて目的の組み換えタンパク質の生産に問題を抱えているならば、pCSシステムを試す価値があります。

目的遺伝子はpCSベクターのcspAプロモーター/lacオペレーター(LacO)/cspA 5’UTRの下流にクローニングされます。pCSベクターにはCspAタンパク質のN末端にある翻訳増幅配列(translation enhancing element (TEE))も含まれています。

cspAプロモーターからの転写活性は37℃では5'UTRの不安定性により非常に低いですが、大腸菌が15℃に移されると5'UTRは安定した2次構造をとります。さらにTEEによるリボソームトラッピングが目的遺伝子の翻訳開始を促進します。

pCSベクターはLacI遺伝子を発現します。LacIタンパク質はcspAプロモーターに隣接するLacO配列に作用して目的遺伝子の発現を阻害します。IPTG非存在下ではこの阻害作用によって目的遺伝子の発現の“漏れ”を抑制します。IPTGの添加はこの阻害作用を取り除きます。培養温度条件の37℃から15℃へのシフトと同時にIPTGの添加を行うことで、効果的な遺伝子発現誘導を可能にします。

 

当ベクターシステムに関する詳細な情報ついては下記の論文を参照ください

References Topic
Nat Biotechnol. 22:877 (2004) Cold-shock induced high-yield protein production in E. coli
J. Biol. Chem. 274:10079-85 TEE sequence translation enhancement

特徴

pCSベクターを持つ大腸菌はIPTG未添加、37℃の増殖培地で維持してください。目的遺伝子の発現誘導はLacIによる発現抑制を取り除くIPTG添加とcspAプロモーターの活性化とcspA 5’-UTRを安定化させる15℃への温度シフトによって行います。当システムはpETやpBADシステムを使っても組み換えタンパク質が生産できなかった場合の代替案として使うことができます。また、37℃で不安定なタンパク質や低温条件で安定するタンパク質の発現用に推奨されています。

メリット

厳密な発現制御:pCSベクターからの発現はIPTG未添加、37℃条件で強く抑制され、IPTG添加と15℃への温度シフトによって誘導されます。

低温条件での発現: pCSベクターシステムは低温条件下での組み換えタンパク質の発現誘導を可能にします。ほかの大腸菌用発現システムでの生産が難しいタンパク質にとって有用である可能性があります。

宿主株の選択: 組み換えタンパク質の発現に特定のE.coliホスト株が必要なpETやpBADと違い、pCSはクローニングに使われるE.coli株(Stbl3など)を使用して組み換えタンパク質を生産できます。ただ、タンパク質の分解を減らすように設計されているBL21株がタンパク質発現用のホスト株として推奨されています。

デメリット

最大発現量が低い:pETベクターで可能な最大発現レベルとくらべるとpCSベクターの最大発現量は一般的に低くなります。

基本コンポーネント

cspA promoter: 低温ショック遺伝子cspAのプロモーター。15℃条件下で目的遺伝子の発現を誘導する。

LacO: LacI結合サイト。ここにLacIタンパク質が結合することでcspAプロモーターの活性を阻害し、目的遺伝子の発現“漏れ”を抑制する。

cspA 5’ UTR: cspA遺伝子の5’非翻訳領域。37℃でmRNAを不安定化させ、15℃で安定化させる。

TEE: 翻訳増幅配列。リボソームと親和性が高く、翻訳を促進する。リボソームはTEEに優先的に結合するので、他のmRNAの翻訳が低下する

ORF: 生産したい遺伝子をここに配置する。

cspA 3’ UTR: cspA遺伝子の3’非翻訳領域。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。 E.coliへのアンピシリン耐性によるプラスミドの維持を可能にする。

pUC ori: pUC複製起点。E.coliでプラスミドを高コピー数で維持する。

LacI: E.coliのLacIプロモーター配列とLacI遺伝子配列。IPTG非存在下でLacIタンパク質はcspAプロモーターに隣接したLacOオペロンに結合してcspAプロモーターの活性を阻害、目的遺伝子の転写を抑制する。