バキュロウイルス 組み換えタンパク質発現ベクター

(シングルプロモーター)

概要

バキュロウイルスベクターシステムは真核生物である昆虫培養細胞を使用して組み換えタンパク質を生産するために幅広く利用されており、汎用性が高く強力なシステムです。特に真核生物細胞での発現が必要なタンパク質の大量生産に強みを持ちます。数多くの真核生物のタンパク質は特有の翻訳後修飾(糖鎖修飾など)を受け、細胞内環境に依存した立体構造(膜タンパク質など)をとります。このような場合では原核生物の発現システムは利用に適さないことがおおく、バキュロウイルス発現システムがより良い選択肢となります。

バキュロウイルスは一般的に昆虫(特に蛾や蝶などのチョウ目)に感染する二本鎖DNAウイルスです。当社のバキュロウイルス発現ベクターであるpBVはバキュロウイルス株AcMNPV (Autographa californica multicapsid nucleopolyhedrovirus、野生株は134kbのゲノムを持つ)由来のバキュロウイルスシャトルベクター(bacmid)と共に使用するように最適化されています。

はじめに、目的遺伝子はpBVが持つ強力なプロモーターの下流にクローニングされます。目的遺伝子の発現カセットとゲンタマイシン耐性遺伝子はTn7トランスポゾン末端因子、Tn7LとTn7Rに挟まれた配置になります。次に、このベクターはあらかじめbacmidシャトルベクターとヘルパープラスミドをもつ大腸菌株に導入されます。bacmidはlacZ遺伝子が組み込まれたバキュロウイルスゲノムをもつ巨大なプラスミドで、lacZ遺伝子配列内にはAttTn7ドッキングサイトが挿入されています。ヘルパープラスミドはTn7トランスポザーセを発現し、pBVのTn7RとTn7Lに挟まれた配列(目的遺伝子の発現カセットとゲンタマイシン耐性遺伝子)をbacmid上のAttTn7ドッキングサイトに組み換えます。組み換えbacmidを持つコロニーはゲンタマイシン耐性とブルー・ホワイトセレクションによって同定できます。組み換えの起こっていないコロニーはlacZによって青色を示し、トランスポザーセによる組み換えによってlacZが破壊されたコロニーは白色を示します。組み換えbacmidは昆虫細胞へ導入されてバキュロウイルスの作成および目的の組み換えタンパク質の生産に使用されます。

バキュロウイルスベクターを使った組み換えタンパク質生産用にはSf9株が最も頻繁に使用されます。Sf9株はツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)の卵巣由来の細胞で、様々な培養条件(振とう培養、単層培養、無血清培地など)に適応できます。バキュロウイルスベクターは幼虫や他のチョウ目の細胞株にたいしても幅広く使用されています。また、バキュロウイルスベクターは哺乳類動物の細胞株にたいしても有用であることが報告されています。

 

当ベクターシステムに関する詳細な情報ついては下記の論文を参照ください

References Topic
J Virol. 67:4566-79 (1993) Generation of recombinant baculovirus by site-specific transposon-mediated insertion
Meth. Mol Med. 13:213-35 (1998) Generation of recombinant baculovirus DNA in E.coli using a baculovirus shuttle vector
Nat Biotech. 23: 567–575 (2005) Baculovirus as versatile vectors for protein expression in insect and mammalian cells

特徴

当社のバキュロウイルス組み換えタンパク質発現ベクターは昆虫細胞による効率的な組み換えタンパク質生産が可能です。真核生物で特有のタンパク質の翻訳後修飾が可能であるうえに大量生産への応用も可能です。

メリット

真核生物を利用したシステム: 昆虫細胞のタンパク質翻訳後修飾パターンは哺乳類細胞のものと類似しています。化学修飾や膜輸送など原核生物にはない翻訳後修飾が必要となる、哺乳類もしくは他の真核生物由来のタンパク質の生産に適しています。

高レベル発現と高い水溶性:ほとんどの場合、生産されるタンパク質は水溶性を示し、かつ大量に発現されるので細胞からの抽出が容易です。

大量生産が容易: 当社のシステムでは昆虫細胞への最初のトランスフェクションから得られるバキュロウイルスをそのまま次のトランスフェクションに使用し、ウイルスタイターにさらに増幅できます。それゆえ再現性の高いタンパク質の大量生産が可能になります。

懸濁培養: Sf9や他のチョウ目由来細胞株は懸濁培養条件で増殖可能なのでバイオリアクターを利用した組み換えタンパク質の大量生産が可能です。

安全性: バキュロウイルスは昆虫細胞以外では増殖できず、哺乳類や植物に対して病原性を持ちません。それゆえ当システムは最低限のバイオセーフティ環境で使用できます。

デメリット

技術的な複雑さ: バキュロウイルス発現システムを使ったタンパク質生産は、遺伝子のpBVベクターへのクローニング、組み換えbacmidの作成そして昆虫細胞へのトランスフェクションなど複数の手順が必要になります。これらの手順はバクテリアを使用した組み換えタンパク質生産よりも高い技術が必要となり、そして時間がかかります。当社のbacmid組み換えサービスおよびバキュロウイルス作製サービスを利用していただければこれらの負担を軽減できます。

基本コンポーネント

PH promoter: AcMNPVのポリヘドリン(PH)プロモーター。目的遺伝子を高レベルで発現する。

ORF:  目的遺伝子のORFをここに配置する。

SV40 early pA: SV40(Simian virus 40)のポリアデニレーションシグナル。上流ORFの転写停止を助ける。

Tn7L: Tn7トランスポゾン末端因子(左)。Tn7トランスポサーゼ認識配列。Tn7RとTn7Lに挟まれたDNA配列はTn7トランスポサーゼによってAttTn7ドッキングサイトへと移される。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。 E.coliへのアンピシリン耐性によるプラスミドの維持を可能にする。

pUC ori: pUC複製起点。E.coliでプラスミドを高コピーで維持する。

Tn7R: Tn7トランスポゾン末端因子(右)。Tn7トランスポサーゼ認識配列。Tn7RとTn7Lに挟まれたDNA配列はTn7トランスポサーゼによってAttTn7ドッキングサイトへと移される。

ゲンタマイシン: ゲンタマイシン耐性遺伝子。 E.coliへのゲンタマイシン耐性によって組み換えbacmidをもつE.coliの選別に利用する。