pBAD 大腸菌用組み換えタンパク質発現ベクター

概要

pBADベクターは大腸菌で組み換えタンパク質を発現制御できる信頼性の高いシステムです。当システムは大腸菌のL-アラビノース代謝を制御するaraBADオペロンを基に開発されました。pBADベクターのaraBADプロモーターの下流に目的遺伝子を配置することでL-アラビノースの添加による発現誘導、そしてグルコースよる発現阻害が可能になりました。発現レベルを精密に制御できるので、毒性もしくは不溶性をもつなど問題があるタンパク質の生産に適しています。

当ベクターシステムに関する詳細な情報ついては下記の論文を参照ください

References Topic
J Bacteriol. 177:4121-30 (1995) Development of pBAD vectors

特徴

目的遺伝子がクローニングされたpBADベクターを持つ宿主大腸菌はL-アラビノース非含有増殖培地(非誘導条件)で維持してください。発現した遺伝子産物が宿主に対して毒性がある場合にプラスミドが不安定化する可能性を減らすことができます。遺伝子の発現誘導が必要になったらL-アラビノースを培地に添加してください。

当社のpBADベクターは双方向性のaraBADプロモーターをもち、目的遺伝子と発現制御タンパク質AraCを同時に発現します。L-アラビノース非存在下でAraCは2量体化しプロモーター領域でループを形成することで転写を阻害します。L-アラビノース存在下ではAraCの立体構造は変化し、プロモーター領域の別サイトに結合して転写を活性化します。

培地へのグルコース添加は細胞内cAMPレベルを減少させて発現の“漏れ”をさらに抑制します。グルコース非含有培地ではcAMPレベルは高く、cAMP-CRP (catabolite activator protein)複合体がaraBADプロモーターに結合します。この結合はプロモーター活性に必要です。グルコースの添加によるcAMPレベル低下、続いてcAMP-CRP複合体形成の阻害によってaraBADプロモーターの活性は強力に抑制されます。このシステムは目的の遺伝子に大腸菌への毒性もしくは増殖阻害作用がある場合に特に役に立ちます。

すべてのpBADベクターはプラスミドの維持効率を最大化するよう設計された大腸菌株(Stbl3など)に導入された状態で供給されます。目的遺伝子を発現させるためにプラスミドをL-アラビノース代謝経路の遺伝子を欠損した株(TOP10など)に移しかえることができます。これによってL-アラビノースが時間経過によって分解されることなく、安定した遺伝子発現を得られます。もし遺伝子の発現の“漏れ”をグルコースによって強力に抑制したい場合は、LMG194株が利用できます。LMG194株は最小培地(RM培地)での増殖が可能でグルコースによるaraBADプロモーターのさらなる抑制制御を可能にします。

メリット

非常に精密な発現制御:pBADベクターはpETベクターよりも精密な遺伝子発現制御が可能です。目的遺伝子の発現量はL-アラビノース非存在下では非常に低く、グルコース添加によってさらに減少させることができます。

強力な発現誘導:araBADオペロンシステムは強力な発現誘導を可能にします。グルコース除去とL-アラビノース添加によってと1000倍以上の誘導も可能です。

経済的:L-アラビノースは安価な化合物ですので、大規模なタンパク質生産を経済的に行えます。

宿主株の選択:pETベクターと違ってpBADは同じ株(TOP10など)を使用して維持と発現誘導ができます。

デメリット

最大発現量が低い: pETベクターで可能な最大発現レベルとくらべるとpBADベクターの最大発現量は一般的に低くなります。

誘導化合物の代謝:大腸菌野生株はL-アラビノースを代謝、分解できます。目的タンパク質を発現誘導しているときにL-アラビノース代謝経路欠損株(TOP10、LMG194など)を使うと時間経過によってL-アラビノースが分解されることがなくなるので発現に高い再現性が得られます。

基本コンポーネント

araBAD promoter: L-アラビノース存在下かつグルコース非存在下で目的遺伝子の発現を誘導する。AraCの発現も誘導する。

RBS: T7バクテリオファージ由来のリボソーム結合サイトおよび転写開始エレメント。目的タンパク質の効率的な生産に必要。

ORF: 生産したい目的遺伝子をここに配置する。

rrnB terminator: 目的遺伝子の転写停止シグナル。Run-on転写を阻害する。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。 E.coliへのアンピシリン耐性によるプラスミドの維持を可能にする。

pBR322 ori: pBR322複製起点。E.coliでプラスミドを中コピー数で維持する。

araC: araBADオペロンの制御タンパク質。AraCはL-アラビノース非存在下かつグルコース存在下araBADプロモーターのからの発現を阻害、またL-アラビノース存在下かつグルコース非存在下で発現を活性化する。