アデノウイルスshRNAノックダウンベクター

概要

アデノウイルスshRNAノックダウンベクターシステムはほとんどの哺乳類細胞タイプに対して安定した標的遺伝子のノックダウンを実現できます。当ベクターはエピソームDNAとして細胞内で維持され、宿主ゲノムへ挿入されることはありませんので、in vivo実験用途に適しています。

アデノウイルスベクターは一般的な風邪の原因となる、線状二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスを改良して作成されています。

アデノウイルスベクターはE.coliプラスミドとして作製され、パッケージング細胞に導入されるとITR(inverted terminal repeats)のあいだのDNA領域がウイルスにパッケージングされます。

ウイルスゲノムが標的細胞内に侵入すると、核内でエピソームDNAとして維持されます。shRNAはヒトU6プロモーターから発現され、標的遺伝子mRNAを分解します。

アデノウイルスベクター上のアデノウイルス5型ゲノム(Ad5)はE1A、E1B、E3遺伝子を欠損しています(E1AとE1Bはウイルスの複製に必要)。その代わりにE1AとE1B遺伝子はパッケージング細胞に組み込まれています。そのため、当社のアデノウイルスベクターから作られるウイルスは複製不能(宿主細胞へ遺伝子の導入はできるが複製できない)であり、安全性が保障されています。

 

当ベクターシステムに関する詳細な情報ついては下記の論文を参照してください

References Topic
Proc Natl Acad Sci U S A. 91:8802 (1994) The 2nd generation adenovirus vectors
J Gen Virol. 36:59 (1977) A packaging cell line for adenovirus vectors
J Virol. 79:5437 (2005) Replication-competent adenovirus (RCA) formation in 293 Cells
Gene Ther. 3:75 (1996) A cell line for testing RCA

特長

当社のアデノウイルスベクターはアデノウイルス5型(Ad5)を基に開発されています。E.coliでの高コピー数複製、高タイターのウイルス作製、広範囲な細胞タイプへの高効率な導入を可能にします。ヒトU6プロモーターは哺乳類細胞でshRNAを恒久的に高いレベルで発現し、当社が最適化したステムループ構造は効果的な標的遺伝子のshRNAノックダウンを実現します。

メリット

宿主ゲノムの損傷リスクが低い:宿主細胞に感染したアデノウイルスベクターは細胞核内でエピソームDNAとして維持されます。ゲノムへの挿入が起こらないために、ゲノムの損傷よる癌化の可能性が低く、ヒト生体に使用する用途に適しています。

非常に高いウイルスタイター: アデノウイルスベクターをパッケージング細胞に導入して作製したウイルスをパッケージング細胞に再感染させることでウイルスを増幅して非常に高いタイターを得られます。このような増幅はレンチウイルス、MMLVレトロウイルス、AAVなどではできません。当社のアデノウイルス作製サービスを利用していただければ、1010 PFU/ml(plaque-forming unit per ml)以上のタイターを得ることができます。

幅広い親和性:ヒト、マウス、ラットなどの哺乳類動物由来の細胞に遺伝子を導入できます。ただし、いくつかの細胞タイプへの遺伝子導入は困難であることが知られています。

In vitroとin vivoで有効:培養細胞と生体内の細胞に対しても使用できます。

安全性:当ベクターからはウイルス作製に必須の遺伝子が取り除かれているため(それらの遺伝子はパッケージング細胞のゲノムに組み込まれています)、当ベクターから作られるウイルスは複製不能であり安全です。

デメリット

ベクターDNAがゲノムに挿入されない:アデノウイルスゲノムは宿主のゲノムに挿入されずにエピソームDNAとして維持されます。そのため、エピソームDNAは時間経過とともに失われます。特に増殖細胞では顕著になります。

特定の細胞タイプへの遺伝子導入が困難:アデノウイルスベクターは非増殖細胞を含む数多くの細胞タイプへの遺伝子導入が可能ですが、特定の細胞タイプ(内皮細胞、平滑筋、気道上皮細胞、末梢血細胞、神経細胞、造血細胞など)に対する導入効率は低くなります。

強い免疫原性: アデノウイルスベクターから作成されたウイルスは動物生体内で強い免疫反応を引き起こすことがあるので、特定のin vivo用途には制限があります。

技術的な複雑さ:アデノウイルスベクターはパッケージング細胞によるウイルス作製とタイターの正確な計測などの操作が必要になります。従来のプラスミドを使った遺伝子導入と比べてこれらは高い技術の習熟が必要となり、時間もかかります。

基本コンポーネント

5' ITR: 5' inverted terminal repeat. 野生株の5' ITR と3' ITRは基本的に同じ配列を持つ。ウイルスゲノムの両端に逆向きに配置され、ウイルスゲノムの複製起点として機能する。

Ψ: アデノウイルスゲノムDNAのパッケージングシグナル。

U6 promoter: ヒトU6 snRNAのプロモーター。RNAポリメラーゼIIIによってshRNAを高レベルで発現する。

Sense, Antisense: 標的配列から設計され、shRNAのヘアピン構造のステム部分を形成する。

Loop: shRNAのヘアピン構造のループ部分を形成するために最適化された配列。

Terminator: shRNAの転写を停止する。

hPGK promoter: ヒトphosphoglycerate kinase 1 遺伝子プロモーター。下流のマーカー遺伝子を遍在的に発現する。

Kozak: Kozak配列。真核生物での翻訳開始を促進すると考えられているためORFの開始コドンの前に配置される。

Marker: 薬剤選択用遺伝子(ネオマイシン耐性など)や視覚化用遺伝子(EGFPなど)、もしくはデュアルレポーター遺伝子(EGFP/Neoなど)。ベクターが導入された細胞の薬剤選択もしくは可視化を可能にする。

SV40 late pA: SV40(Simian virus 40)のlateポリアデニレーションシグナル。上流マーカー遺伝子の転写を停止する。

ΔAd5: アデノウイルス5型(Ad5)ゲノム。E1A、E1B、E3領域が欠損している。

3' ITR: 3' inverted terminal repeat。

pBR322 ori: pBR322複製起点。E.coliでプラスミドを中コピー数で維持する。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。 E.coliへのアンピシリン耐性によるプラスミドの維持を可能にする。

PacI: PacI制限酵素認識サイト(TTAATTAA)。2ヵ所のPacIサイトで切断することによってベクターを線状化し、ベクターバックボーンを取り除いて効率的なパッケージングを実現する。

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