薬剤耐性マーカーの導入された細胞が薬剤耐性を獲得しない
通常、薬剤耐性マーカーは低∼中レベルの発現量で十分な効果を得られますが、細胞の薬剤耐性の獲得に不十分な場合があります。そのような場合の原因となる主な要因を以下に記載します。
薬剤の投与量が細胞株にとって高すぎる
薬剤への感受性は細胞株ごとに異なります。新しい薬剤を細胞株に投与する場合には、その薬剤に対する生存曲線(用量反応曲線)を調べ、非形質転換細胞を効果的に死滅させる最小濃度の使用を推奨しています。不必要な用量の使用は薬剤耐性を獲得している細胞にダメージを与え、もしくは死滅させることにつながります。特定の薬剤に対する感受性が非常に高い細胞も存在しており、そのような場合は別の薬剤選択マーカーを使用することを考慮に入れてください。
一般的に使用される薬剤の推奨濃度と選択期間の解説はこちらから
薬剤選択マーカーを発現させるプロモーターの活性が低い
活性の低いプロモーター(UBCなど)は薬剤選択マーカーの発現量の低さの原因となります。より活性の高いプロモーター(例えばEF1A)の使用を検討してください。
レンチウイルスやMMLVの使用
レンチウイルスやMMLVのようなレトロウイルスシステムでは、ウイルスパッケージングを阻害するため5’LTRと3’LTRのあいだにポリアデニレーションシグナルを配置出来ません。その代わりに3’LTR内のポリアデニレーションシグナルを転写停止に利用しています。その為に上流のプロモーターからの転写反応はしばしば遺伝子の3’末端で停止せず、下流のプロモーター&遺伝子領域まで継続されます。この状況は下流の遺伝子の発現を部分的に阻害します。もし下流の遺伝子が薬剤選択マーカーである場合、その発現量は大幅に減少します。マーカーの発現量を改善するためには、
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別のベクターシステム(プラスミドベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター)を利用する。
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薬剤耐性マーカー遺伝子を目的遺伝子とともにポリシストロンとして発現させる。2Aリンカーを薬剤耐性マーカー遺伝子と目的遺伝子の連結に使用できます。ただし、ポリシストロニック発現は遺伝子の機能に影響を与えること(薬剤耐性能の弱化など)があり、さらにベクター作製のコストと必要時間が増加します。
薬剤選択マーカーがIRESの下流に配置されている。
複数のIRESを含むポリシストロニック転写産物において、下流に配置された遺伝子の発現量は非常に低くなります(上流の遺伝子と比べて~10-20%に減少する)。薬剤選択マーカーがポリシストロンの下流に配置されている場合、発現量の低下に伴って薬剤耐性は弱くなります。もし薬剤選択マーカーをポリシストロン下流に配置しなくてはいけないならば、IRESの代わりに2Aリンカー(P2A or T2A)の使用を検討してください。2Aリンカーを使用すれば、ポリシストロンの下流に配置された遺伝子でも発現量が顕著に減少することを避けることができます。しかし、2Aリンカーが遺伝子機能に影響を与える可能性があります。特に、2Aリンカーの切断によって上流遺伝子のC末端側に短いペプチド鎖が、下流遺伝子のN末端側にはプロリンが付与されます。ほとんどの場合、問題になりませんが、特定の条件下でタンパク質機能に影響を及ぼします。
ポリシストロニック発現カセットでのIRES対2Aの解説はこちらから