蛍光タンパク質の発光が弱い
細胞は通常、薬剤耐性を獲得するために薬剤耐性遺伝子の低から中程度の発現のみを必要とします。対照的に、蛍光タンパク質(FP)の場合、十分な蛍光シグナルを得るためには高レベルの発現が必要です。低から中程度の発現では、弱いシグナルまたは検出器の検出限界未満のシグナルしか発現されない場合があります。さらに、特定のFP(EBFPなど)は一般的なFP(EGFPなど)よりもはるかに暗く、検出が困難なことが知られています。実際、細胞培養またはin vivoで目的のFPを視覚化するために、抗FP抗体を用いた免疫蛍光法に頼らなければなりませんでした。以下に蛍光不良のよくある原因を示します:
活性の低いプロモーターを使用している
活性の低いプロモーター(UBCなど)はFPの低発現をもたらします。他のプロモーター(CMVなど)は培養細胞では機能するかもしれませんが、in vivoではサイレンシングを受けることがあります。可能な限り強力な遍在的プロモーター(EF1AやCAGなど)を使用してFPを発現させてください。組織特異的プロモーターの場合も、同様に強力なプロモーターを選択する必要があります。弱いプロモーター、またはあまり解析されていないプロモーターを使用しなければいけない場合は、FPシグナル検出に問題が生じる可能性を念頭に置いてください。シグナルが検出できないのは、FPが発現していないということではなく、単に高レベルで発現していないのかもしれません。このような場合は、RT-PCRや免疫蛍光法など、より感度の高いアッセイを使用して発現の確認を行う必要があります。
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FP遺伝子がレンチウイルスやMMLVのレトロウイルスシステムを使って導入されている
レトロウイルスベクターシステム(レンチウイルスやMMLVなど)の場合、5’LTRと3’LTRのあいだにポリアデニレーションシグナルが存在するとウイルスパッケージングを阻害します。その代わりに3’LTR内のポリアデニレーションシグナルを転写停止に利用しています。その為に上流のプロモーターからの転写反応はしばしば遺伝子の3’末端で停止せず、下流のプロモーター&遺伝子領域まで継続されます。この状況は下流の遺伝子の発現を部分的に阻害します。もし下流の遺伝子がFP遺伝子である場合、その発現量は大幅に減少します。FP遺伝子の発現量を改善するためには、
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別のベクターシステム(プラスミドベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター)を利用する。
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明るいFPバリアント(EGFPの代わりにTurbeGFPなど)を利用する。
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FP遺伝子を目的遺伝子とともにポリシストロンとして発現させる。2AリンカーをFP遺伝子と目的遺伝子の連結に使用できます。ただし、ポリシストロニック発現は遺伝子の機能に影響を与えること(蛍光強度の低下など)があり、さらにベクター作製のコストと必要時間が増加します。
FP遺伝子がポリシストロンとして発現している
FP遺伝子がポリシストロンとして発現している場合、問題は複雑で、FP遺伝子の発現がポリシストロンとして発現する他の遺伝子に影響を受けることもあります。
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FP遺伝子がIRESの下流にある
複数のIRESを含むポリシストロニック転写産物において、下流に配置された遺伝子の発現量は非常に低くなります(上流の遺伝子と比べて10-20%程度に減少)。FP遺伝子がポリシストロンの下流に配置されている場合、発現量の低下に伴って蛍光強度は弱くなります。もしFP遺伝子をポリシストロン下流に配置しなくてはいけないならば、IRESの代わりに2Aリンカー(P2A or T2A)の使用を検討してください。2Aリンカーを使用すれば、ポリシストロンの下流に配置された遺伝子でも発現量が顕著に減少することを避けることができます。しかし、2Aリンカーは遺伝子機能に影響を与える可能性があります。くわえて、2Aの自己切断効率は100%ではなく、その効率は上流/下流の遺伝子配列に影響されます。そのためにポリシストロンから翻訳されるタンパク質の一部は、自己切断失敗を原因とする融合タンパク質となり、問題を生じる可能性があります。特に、2Aリンカーの切断によって上流遺伝子のC末端側に短いペプチド鎖が、下流遺伝子のN末端側にはプロリンが付与されます。ほとんどの場合、問題になりませんが、特定の条件下でタンパク質機能に影響を及ぼします。
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FP遺伝子が融合タンパク質の一部として発現している
ほとんどの場合、融合タンパク質としてのFPは非融合タンパク質に比べて弱い蛍光強度を持ちます(例えば、EGFP/Neo融合タンパク質はEGFP単独よりも蛍光が弱くなります)。また、細胞内で不安定、異常な折り畳み構造を取る、または機能しないケースもあります。融合タンパク質化が原因で蛍光が弱くなったと考えられる場合は、次の方法を試してください:
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より活性の強いプロモーター(EF1Aなど) を融合タンパク質の発現に使う
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非融合型で蛍光タンパク質を発現させる
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より明るいFPバリアントを使う (EGFPの代わりにTurboGFPをつかう)
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目的遺伝とFP遺伝子の連結部分にリンカーを追加する、既にリンカーがある場合は別のリンカーを使用する
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FP と 目的遺伝子の順番を変える
蛍光強度の低いFPを使っている
同色ファミリーのFP遺伝子バリアントの中には蛍光強度の弱いものがあります。例えば、青色ファミリーでは、EBFPの明るさはTagBFPの約3分の1にすぎません。当社の蛍光レポーターに関するガイドに基づいて、より明るいFPバリアントを選択されることをお勧めします。
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