My Favorite Building Block   |   2023年06月07日

プラスミド短期集中コース:ひとつのプラスミドに多くの宿主

プラスミドは遺伝子の過剰発現、ノックアウト、発現制御などの遺伝子デリバリー実験に欠かすことができません。時には、ひとつのプラスミドで実験が成立するので非常に多くの要素について熟考する必要があります。この場を借りて、全ての要素を考慮した実験デザインができるように、プラスミドの基礎を確認していきましょう。

プラスミドの基礎

My Favorite Building Block」の最初のブログではプラスミドの作製についての基礎から説明し、その応用例の無限の可能性を紹介しました。プラスミドには導入したい遺伝因子(遺伝子、CRISPR/Cas9のコンポーネント、small non-coding RNAなど)が組み込まれます。必要な遺伝因子がクローニングされたプラスミドを細菌宿主に導入して、至適条件下で終夜培養することでプラスミドを大量に増幅することが出来ます。

細菌宿主から大量のプラスミドDNAを精製した後、目的の遺伝子を別の宿主(例:哺乳動物、植物、酵母細胞)で発現させる実験となります。加えて中間ステップとして別の宿主を介する(例:パッケージング細胞でウイルスの生成)作業が必要になる場合もあります。遺伝子導入実験を確実に成功させるためには、各ステップで適切な宿主を選んでください。

細菌関連コンポーネント

クローニング後にプラスミドを増殖させるためには、まず細菌宿主細胞に導入する必要があります。プラスミドは培養中の細菌の増殖とともに複製されます。組み込まれた遺伝因子に加えて、プラスミドには細菌宿主との相互作用に必要な基本コンポーネントが存在します(図1)。基本的コンポーネントは次のものが含まれます:(1)細菌によって認識されるプラスミドDNA複製の開始起点(ori、しばしばpUC oriと表示される)、および(2)抗生物質耐性を与える選択マーカーです。pUC oriは高コピー数のプラスミド複製を可能にし、選択マーカーは抗生物質の使用によってプラスミドを持たない細菌を死滅させます。

図1. GOI(Gene of Interest、紫色)の増幅に必要な細菌関連コンポーネント(青色)

幾つかのプラスミドは宿主細胞ゲノムへの挿入のための特別なコンポーネントを持ちます。PiggyBac、Sleeping Beauty、Tol2トランスポゼースはGOIの両端に配置された特有の反復配列を認識します。PiggyBacとTol2は逆向きの末端反復配列(ITRs)を使用し、Sleeping Beautyは逆/直接末端反復配列(IR/DRs)を使用します。

ウイルス関連コンポーネント

プラスミドはヒートショック、浸透圧ショック、またはエレクトロポレーション法を用いて比較的容易に細菌細胞へ導入できますが、他の細胞タイプへのトランスフェクションにはしばしば困難を伴います。in vitroもしくはin vivoで細胞に効率的な遺伝子導入を行うために、ウイルスによるトランスダクションが使用されます。組み換えウイルスの製造には、トランスファーとパッケージングに必要な重要コンポーネントが3つ存在します。:

  1. 導入したいGOIなどの遺伝因子
  2. カプシドやエンベロープなどのウイルス構造コンポーネント遺伝子
    1. レンチウイルス:env、VSV-G
    2. AAV:Cap、aap遺伝子
  3. ウイルスへのパッケージングに必要な遺伝子
    1. レンチウイルス:gag、pol、rev遺伝子
    2. AAV:Rep遺伝子

ウイルスベクターには宿主ゲノムにGOIを組み込むための他コンポーネントが含まれるケースがあります。例えばレンチウイルスやレトロウイルス(MMLV、MSCV)などでは、GOIの両側に末端反復配列(LTRs)が必要であり、これによってゲノムへの挿入と転写が可能になります。一方、AAVはエピソーマル発現を促進し、一本鎖DNAゲノムをパッケージングするために紙クリップのように折りたたまれる逆向き末端反復配列を利用します(図2)。

図2. 末端反復配列は効率的なウイルスゲノムのエントリーと宿主ゲノムへの挿入に必要

ウイルスの遺伝子の発現には、RNAポリメラーゼに認識されるプロモーターが必要です。ウイルス由来のプロモーターとしてラウス肉腫ウイルス(Rous sarcoma virus)やサイトメガロウイルス(CMV)のプロモーターが該当し、しばしばウイルスゲノムの転写に使用されます。CMVプロモーターは非常に強力で、哺乳類および非哺乳類でのリコンビナント遺伝子発現によく使用される恒常的なプロモーターです。

ウイルスの構成コンポーネントは安全性を高めるために独立したプラスミドに分割されており、組み換えウイルスを製造するためにはすべてのプラスミドが必要です。例えば、遺伝子発現のための組み換えAAVの製造にはプラスミドが3つ必要です。ITRで挟まれた遺伝子を搭載したもの、AAVカプシドとパッケージング遺伝子を持つもの、ウイルスの複製を助けるアデノウイルスのヘルパー遺伝子を持つものの3つとなります(図3)。加えて、それぞれのプラスミドには宿主細菌での複製と選択のためのコンポーネントが必要となります。

Plasmids necessary for production of recombinant AAV, consisting of bacterial components

図3. 組み換えAAV製造に必要な3つのプラスミド。細菌関連コンポーネント(青色)、ウイルス関連コンポーネント(緑色)、GOI(紫)で表す

その他コンポーネント

標的細胞への遺伝子導入実験をするために必要なプラスミドのクローニング、細菌を使った増幅、および組み換えウイルスの製造は手間のかかる日常業務となります。もしこれらに何かしらの問題が生じているようでしたら、弊社のウイルスパッケージングサービスをご覧ください。

遺伝子発現、CRISPR遺伝子編集、エンハンサー機能テストなどの目的にかかわらず、プラスミドは標的細胞内で適切に機能するようにデザインする必要があります。CMVのような普遍的なプロモーターは、複数の細胞タイプでプラスミドが使用できるようになります。しかしながら、あらかじめ使用する標的細胞(哺乳類、魚類、鳥類由来)でプロモーターが想定通りに機能することを予備実験で確認することは必要です。

プロモーターの下流には、遺伝子発現量の増強するためや複数遺伝子の同時発現を可能にするための制御配列やシグナル配列を挿入することが出来ます。T2Aなどのリンカー配列はひとつのmRNA分子から複数遺伝子を発現させるためにORFの間に配置されます。他には安定した遺伝子発現に必要なポリAシグナルや遺伝子発現量を高めるウッドチャック肝炎ウイルス(WPRE)の転写後制御エレメントWPREなども挙げられます(図4)。

図4. 遺伝子(ORF)の発現に必要なAAVプラスミドで、細菌関連コンポーネント(青色)、ウイルス関連コンポーネント(緑色)、遺伝子発現コンポーネント(紫色)で構成されている。

ベクタービルダーが提供しているベクターシステムの数からもわかるように、宿主細胞での増殖、複製、選択、パッケージング、発現を可能にする多くのコンポーネントが存在します。ベクターのデザインはひとつずつ段階を踏みながら行います。まず使用目的を明確にし、遺伝子導入のためのコンポーネントを追加、そして各宿主での増殖と活性が保証されていることを確認しながら設計していきます。

プラスミドのマップは複雑になることもあり、理解しにくいこともあるかもしれません。ですが、各コンポーネントを宿主と遺伝子導入の関連ステップに分解していくことで、それぞれのコンポーネントの必要性を理解しながら、デザインしたプラスミドが宿主細菌と実験に用いる宿主細胞で問題なく機能するために必要なコンポーネントをすべて持っていることを確認することができます。私たちのベクターデザインスタジオベクターガイドで様々なベクターシステムやコンポーネントに触れてください。私たちはいつでもベクターのデザインからウイルスへのパッケージングまでの手助けをしています。

参考文献

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