My Favorite Building Block   |   2023年04月26日

My Favorite Cloning Castle

私たちの世界について学べば学ぶほど、日々の生活をより良いものにできるリソースが見つかります。プラスミドから始まりCRISPRまで、自然界から多くの発見があり、それらがさらなる発見と活用法へとつながっていきます。“My Favorite Building Block”シリーズでは、私たちが分子生物学を活用して築き上げてきた”Cloning Castle”の各技術を取り上げて紹介していきます。

それらを深掘りする前に、ちょっと立ち止まってクローニング技術とプラスミドについてまとめてみましょう。

プラスミド

遺伝子の導入や改変をするためには、大抵はプラスミドを使います。このバクテリア由来のDNAは1960年代にバクテリア細胞のあいだで遺伝子を移動させる手段として発見されました。1970年代になると生物学者たちは遺伝子をプラスミドに組み込むようになります。科学者たちはそのような組み換えプラスミドを活用してバクテリア細胞に遺伝子を導入したり、遺伝子発現を操作できるようになりました。

Figure 1. A brief history of major events in cloning

組み換えプラスミドの作製

DNAをプラスミドに組み込むために必要な技術は個別の発見が組み合わさった結果として生まれ、分子生物学に大きな転換をもたらしました。1960年代にウイルスDNAを分解するバクテリアの研究から制限酵素の発見と単離がされました。これらのタンパク質は生物種を問わず特定のDNA配列を認識・結合して切断します。2つのDNA断片をひとつにするためには、結合またはライゲーションが必要です。この反応は、1960年代に見つかったリガーゼと呼ばれるタンパク質によって触媒されます。現在の科学者や学生たちにとって当たり前となった、これらのブレイクスルーはDNA構造の発見からわずか10-15年のうちに起こりました。

Figure 2. Digestion and ligation to insert a gene into a plasmid

組み換えプラスミドができたならば、次はバクテリア細胞の増殖とともに複製されるように細胞へ導入する技術が必要です。細胞は脂質二重層に囲まれた構造をしていますので、プラスミドのような大きな分子はそのままでは細胞内に入りません。その為に、熱や電気による刺激によってバクテリア細胞を一過的に透過的にしたコンピテントセルを作成する形質転換技術が開発されました。

DNAの増幅

現在の分子生物学では、遺伝子をプラスミドに組み込むためには制限酵素のみでは不十分なケースがあります。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を活用することで、数百万コピーのDNA断片を作り出し、改変することが可能です。PCRでは任意のDNA領域の末端配列に相補的な短い一本鎖DNA(プライマー)をデザインします。プライマーは相補的な配列に結合して、DNAポリメラーゼによる複製反応を開始します。新しく複製されたDNA鎖が次の反応の鋳型となって、さらなる複製反応が起こります。この過程が何度も繰り返されることによって大量の目的DNA 断片が作り出されます。PCR増幅されたDNA断片はすくさまプラスミドに組み込むことが出来、組み換えプラスミドに無限の可能性を生み出します。

Figure 3. Steps in polymerase chain reaction (PCR)

遺伝子導入技術の革命

上記の分子生物学技術によって任意の遺伝子配列をプラスミドにクローニングすることが出来ますが、大腸菌以外の生物種において遺伝子の機能解析をするためには、これだけでは不十分です。形質転換によってバクテリア細胞にプラスミドを導入できますが、バクテリア細胞自体は植物や動物の細胞に感染してプラスミドを移すことはできません。遺伝子機能の研究には遺伝子を様々な生物に導入する技術が必要になります。

いくつかのトランスフェクション技術によってプラスミドを細胞内に直接導入することが出来ます。電気ショックによって細胞膜に穴をあけてプラスミドを導入するエレクトロポレーションや細胞膜と融合する脂質二重層にプラスミドを封入するリポフェクションが例として挙げられます。しかし、トランスフェクションはin vitro用途や発生モデルに限定されてしまい、分化細胞やへ非増殖細胞への使用はできません。

ウイルスを活用して細胞へ遺伝子を導入するトランスダクション技術は多くのウイルスシステムがあり、それぞれのウイルスシステムは利点/欠点があります。トランスダクション用の組み換えウイルスの生成するためには、目的遺伝子が組み込まれたプラスミドとウイルスゲノムが組み込まれた複数のヘルパープラスミドをパッケージング細胞(HEK293細胞など)にトランスフェクションします。トランスフェクション後、細胞のメカニズムを利用してウイルスゲノムから目的遺伝子を持つ組み換えウイルスが生成されます。単離・精製された組み換えウイルスはin vitro, in vivoで標的細胞のトランスダクションに使用されます。

レンチウイルス、アデノウイルス、AAV、レトロウイルスなど、ウイルスベクターには多くのタイプがあります。それぞれのウイルスは固有の性質、長所と短所がありますので、それらを考慮に入れて使用する必要があります。ウイルスには固有の組み込み可能DNAサイズ上限(AAVは4.7kb、ワクシニアウイルスは30kb)があります。また、感染指向性(Tropism)は細胞タイプ(増殖細胞/非増殖細胞、分化細胞/幹細胞、初代培養細胞/培養細胞)に応じて異なります。ウイルスのいくつかは組み込まれた遺伝物質をエピソームとして維持する一方、宿主細胞ゲノムに挿入するウイルスも存在します。最後に、ウイルスは宿主の生体に様々に影響を与えます。病原性を持ち、生体にダメージを与えるウイルスや生体に免疫反応を引き起こすウイルスがいます。これらのウイルスを使用する場合は、適切な比較対象を用意しないと実験結果の解釈が難しくなります。

“My Favorite Building Block”シリーズでは、本稿で触れた各技術(PCR、遺伝子発現制御、実験デザインなど)についてより深く掘り下げていく予定です。私たちのCloning Catsleの隅々までを案内していきますのでご期待ください。

Sources

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