研究室でのひらめきの瞬間   |   2023年09月26日

効果的な遺伝子デリバリーのために細菌の培養条件を改善する

クローニングは殆どの遺伝子デリバリー実験の基点となりますが、しばしば困難に見舞われます。細心の注意を払って理想的なGC含量を持ち、二次構造を含まず、実験の成功に必要なすべてのコンポーネントを持つベクターを構築した後に細菌の増殖が良くないことがわかると、ちょっとイライラします。VectorBuilder は、あなたの遺伝子デリバリー実験のあらゆる面をサポートし、培養に関するトラブルシューティングを行っています。

プラスミドの導入と増殖

標的細胞に遺伝物質を導入するために、まずはプラスミドを増幅します。標準的なプロトコールでは、抗生物質耐性遺伝子を持つプラスミドで形質転換された細菌細胞を選択するために、抗生物質を含むLBプレートを用います。抗生物質によって必要な濃度は異なります(表1);例えば、アンピシリン濃度は100μg/mLが推奨されています(低コピー複製起点を持つプラスミドでは50μg /mL)。他には、プラスミド上のlacZ遺伝子とβ-gal誘導体を利用した青/白スクリーニングが挙げられます。セレクションを成功させるためには、すべての薬剤が活性を持っていること、適切な使用濃度であることが極めて重要です。さらに、適切な細胞数をプレーティングすることも重要です。細胞数が過剰だと未形質転換細胞の増殖につながります。一方で、不十分量の抗生物質や過剰な高濃度の使用は増殖の妨げになります。

抗生物質 推奨濃度 抗生物質 推奨濃度
アンピシリン 100 ug/mL テトラサイクリン 5 ug/mL
アンピシリン 50 ug/mL ストレプトマイシン 50 ug/mL
クロラムフェニコール 34 ug/mL ゲンタマイシン 10 ug/mL

形質転換後の培養条件の設定には様々なオプションがあります(ガラス器具、培地、インキュベーション時間など)。ベクタービルダーはアンピシリン耐性プラスミドで形質転換したVB UltraStableTM 細胞を用いて、網羅的な条件下で様々な検証をしています。

形質転換直後の細胞は、回復を促進するためにSOC培地で培養するのが一般的ですが(図1)、SOC培地は培養には向いていません。SOC培地で培養した菌からのプラスミド収量は、LBで培養した菌からの収量よりもはるかに低いという結果が得られています。さらに、社内の試験で培地中の抗生物質濃度を(100-150 µg/mL)を変化させても、プラスミド収量にほとんど影響を与えないことがわかりました。抗生物質、特にアンピシリンは液体培養中に分解されやすいため、常に新鮮な培地を準備してください。古くなった培地を使用すると、プラスミドを含まない細菌が増殖する原因となります。

 Typical culture process. Bacteria are incubated in SOC medium for recovery, then plated. An individual colony is then selected and grown in 1-5 mL culture before being transferred to a large flask, if needed.図1. 一般的な培養手順。細菌をSOC培地で回復させ、回収した後、プレーティングする。その後、個々のコロニーを選択し、1~5mLの培養液で増殖させた後、必要に応じて大きなフラスコに移す。

増殖の促進

培養の準備段階では、必要なプラスミドの量、複製起点が高コピーもしくは低コピーか、DNA回収カラムの結合能を考慮してください。miniプレップスケールでは1-5mLほどの終夜培養液を使用するので高コピープラスミド DNA は最大 25 ug、低コピープラスミド DNA は最大 12.5 ugほどが回収できます。より多くのプラスミド DNA 量が必要な場合は、midi または maxi プレップを検討してください。高コピープラスミドのmaxiプレップでは100-150mLの終夜培養液から500ug程のプラスミドDNAが回収でき、低コピープラスミドの場合は300-500mLの終夜培養液から200ug程度のプラスミドDNAが回収できます。プラスミドDNA精製前の培養液は長期間飽和状態のままにしないでください。なぜならば、抗生物質の分解だけでなく、細胞の死滅やプラスミドDNAの分解につながる可能性があります。すぐに抽出作業ができない場合は、細胞をペレットにして-80℃で保存し、後でプラスミドを精製してください。

より大規模な培養(例えば12mLや500mL)を計画でしたら、条件の最適化によって最終的なプラスミドDNA収量を増やせます。多様な培養液が利用できますが、それらの更なる改良も選択できます。培地中の基本的な栄養源や糖種を変更することから始めてください。ベクタービルダー独自のLBを改良した培地を用いると、プラスミド収量が平均57%増加します(図2)。

Comparison of modified LB to standard LB

図2. ベクタービルダー改良LBと標準LBの12mL(15種類のプラスミド)と500mL (55種類のプラスミド)培養におけるDNA収量比較。各培養スケールにおけるLBの平均収量を1に正規化。改変LBを使用した場合、有意に高い収量が得られた。

プラスミド精製に共通のプロセスに対する最適化は可能ですが、特定のプラスミドに対しては個別のカスタマイズが必要になります。異なる55種のプラスミドを持つ細胞の500mL培養液のうち、50のプラスミドでベクタービルダーの改良LBはより多くのプラスミド収量を実現し、4つのプラスミドでは逆に減少、1つのプラスミドでは変化がありませんでした(図3)。同等の培養条件下でも、異なるプラスミドを含むバッチの間では収量に10倍以上のばらつきが見られました。以前にプラスミド内の毒性を持つ遺伝子がウイルスタイターを低下させることについて説明させていただきましたが、同じ原因によってプラスミドの収量を低下させます。さらに複製起点、プラスミドサイズ、GC含量、二次構造などのプラスミド特性は、プラスミド収量に影響を与えます。

Plasmid yield of 500 mL cultures grown in modified LB relative to LB

図3. LB(赤点線)に対して改良LBを使用した500mL培養スケールからのプラスミド収量。各バッチは異なるプラスミドの培養結果。

細菌グリセロールストックからの培養開始について

グリセロールストックは、細菌の安定した長期保存と輸送手段として優れています。‐80℃で凍結保存したストックを氷上で解凍し、少量のサンプルを採取して適切な抗生物質を含む2~5mLのLB培養液に接種します。VectorBuilderから受け取った大腸菌液体ストックまたはスタブカルチャーから液体培養を開始すると、ごくまれに収量が低くなります。これを避けるためには、まず適切な抗生物質を含むLBプレートにストリークし、そのプレートから増殖した新鮮なコロニーを液体培養に使用することをお勧めします。幾つかのコロニーをピックアップして培養し、制限酵素処理とサンガーシースエンスによってプラスミドの確認をしてください。

どの方法を使っても十分なプラスミド収量を得られないのでしたら、最後の手段として、プラスミドDNAをグリセロールストックから精製して、新鮮なコンピテントセルに再度形質転換する方法があります。しかしながら、この方法はプラスミド収量が低く、非効率的な形質転換となるために、適切なネガティブコントロールを用意することが必要になります。再形質転換後は、培養を再開して新しいグリセロールストックを用意してください。

なぜ重要なのか

遺伝子デリバリー実験に必要なプラスミドを大量に用意することは、非常に大切です。標的細胞をトランスフェクションするにしても、組換えウイルスを作製するにしても、適切な量のプラスミドDNAが必要不可欠です。プラスミドDNAを持つ大腸菌の増殖が芳しくない場合、栄養培地の最適化、インキュベーション時間、さらにはガラス器具の選択までも最適化することで、プラスミドDNAの収量を改善できます。VectorBuilderでは、複雑なクローニングプロジェクトからプラスミド収量の増加まで、大小を問わずあらゆるステップのサポートを提供しています。

参考文献

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Tachibana S, Chiou TY, Konishi M. Machine learning modeling of the effects of media formulated with various yeast extracts on heterologous protein production in Escherichia coli. MicrobiologyOpen. 2021 June;10(3):e1214. doi: 10.1002/mbo3.1214. PMID: 34180605; PMCID: PMC8236903.

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