遺伝子治療による救いの場   |   2023年04月26日

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療のためのガットレスアデノウイルス(GLAd)

搭載可能DNAサイズの重要性

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は5,000人に1人の割合で起こる遺伝病です。ジストロフィン遺伝子の変異によって筋繊維が弱くなり、壊死しやすくなることによって最終的に死に至ります。既知の遺伝子の中で最大となるジストロフィン遺伝子の大きさは240万塩基にもなり、RNAポリメラーゼによる転写反応に16時間を必要とします。この大きなサイズのためにAAVやレンチウイルスベクターを使用した遺伝子デリバリーは困難です。

図1. DMD遺伝子(2.4 Mb)とβアクチン遺伝子(37 Kb)のサイズ比較

AAVを使用したDMD治療法は検討されていますが、AAVの搭載可能サイズは4.7kbまでに制限されているために、マイクロジストロフィン遺伝子をもつAAVを使用します。DMD治療法としてのマイクロジストロフィン遺伝子を持つAAVはさまざまな臨床試験の段階にあり、現在、その結果が評価されています。AAVベクターは治験における免疫反応や副反応が最小限であることから遺伝子治療に広く使われていて、完全長のジストロフィン遺伝子を使わないシステムの臨床研究が可能になるかもしれません。

CRISPR遺伝子編集技術によってジストロフィン遺伝子の変異部位を修正するDMD治療法も検討されています。CRISPRは前臨床モデルで研究されていますが、DMDは多様な遺伝的変異を原因とするために、治療法として用いるためにはそれらの多様な変異に応じて最適な遺伝子編集方法の確立が必要になります。また、現在のCRISPR/Cas9技術では救済することが出来ないDMDの原因となるジストロフィン遺伝子の変異も存在します。

ガットレスアデノウイルス

アデノウイルスは組み込み可能DNAサイズが比較的大きく、導入遺伝子をエピソーマルかつ一過的に発現できることから有用な遺伝子デリバリーシステムです。ヒトAd5やキメラAd5/F35セロタイプなどがよく用いられます。ヒトAd5は細胞表面のコクサッキーアデノウイルス受容体(CAR)を介して感染しますが、多くの臨床および実験モデルの標的細胞ではCARを発現していないケースがあります。その時はキメラAd5/F35セロタイプを使用することで問題を回避できます。キメラAd5/F35セロタイプは幅広い細胞種で発現しているCD45に結合するF35セロタイプの一部を持ちます。

ガットレスアデノウイルス(GLAd)は上記のアデノウイルスの代わりとして使用されます。GLAdはこれまでの組み換えアデノウイルス株とは異なる方法で生産されます。Creリコンビナーゼを発現する細胞にLoxPで挟まれたパッケージングシグナルを持つヘルパーウイルスとともに線状化されたプラスミドを同時トランスフェクションします。感染細胞内でヘルパーウイルスはCreリコンビナーゼによって不活性化されます。新しく生み出されたウイルスは細胞から粗精製されたのちに増幅されます。ガットレスアデノウイルスベクターはパッケージングや複製に使用されるウイルス由来の配列をほとんどすべて失っているために大きなサイズのDNAを組み込むことが出来ます。GLAdは全長のジストロフィン遺伝子mRNA(14kb)の2倍以上(!)のDNA搭載可能容量を持ちます。

図2. ベクタービルダーのガットレスアデノウイルス生産フロー

GLAdはハンチントン病やDMDを含む数多くの遺伝子疾患の治療法の開発に利用されています。他のベクターシステムと比べて搭載できるDNAサイズが非常に大きいために、遺伝子治療にとってGLAdは魅力的な選択肢となっています。AAVは最大4.4kbのDNA配列を搭載できるのに対して、ベクタービルダーが生産するGLAdは33kbのDNA配列を搭載できます。

McGill大学の研究者たちは2コピーのジストロフィン遺伝子を発現させることによって、筋ジストロフィー症のマウスモデルにおいて有意な治療効果を生み出すことを観察しています。ジストロフィン遺伝子の発現は最終的には失われますが、システムの最適化によって決定的なDMDの治療法につながるかもしれません。1

結論

遺伝病であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー症は患者の筋肉が徐々に弱っていくことで衰弱死に至ります。現在のところ効果的なDMD治療法は確立されていません。そのためにDMD遺伝子療法についての更なる研究が緊急の課題となっています。GLAdは長期にわたるエピソーマルな遺伝子発現が可能であり、免疫反応などの副反応もほとんどありません。アデノウイルスはDMD マウスモデルでジストロフィン遺伝子の組み換えをするために利用されていましたが、新たに臨床での遺伝子治療への応用が始まっています。

ベクタービルダーが提供するガットレスアデノウイルスについての詳細はこちらをご覧ください。

参考文献

1. Dudley RW, Lu Y, Gilbert R, Matecki S, Nalbantoglu J, Petrof BJ, Karpati G. Sustained improvement of muscle function one year after full-length dystrophin gene transfer into mdx mice by a gutted helper-dependent adenoviral vector. Hum Gene Ther. 2004 Feb;15(2):145-56. doi: 10.1089/104303404772679959. PMID: 14975187.

2. Ricobaraza A, Gonzalez-Aparicio M, Mora-Jimenez L, Lumbreras S, Hernandez-Alcoceba R. High-Capacity Adenoviral Vectors: Expanding the Scope of Gene Therapy. Int J Mol Sci. 2020 May 21;21(10):3643. doi: 10.3390/ijms21103643. PMID: 32455640; PMCID: PMC7279171.

3. Palmer D, Ng P. Improved system for helper-dependent adenoviral vector production. Mol Ther. 2003 Nov;8(5):846-52. doi: 10.1016/j.ymthe.2003.08.014. PMID: 14599819.

4. Elangkovan N, Dickson G. Gene Therapy for Duchenne Muscular Dystrophy. J Neuromuscul Dis. 2021;8(s2):S303-S316. doi: 10.3233/JND-210678. PMID: 34511510; PMCID: PMC8673537.

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