mRNA 遺伝子デリバリーソリューションズ

ベクタービルダーはmRNA医薬(ワクチン、遺伝子編集、キメラ抗原受容体(CAR)、細胞または胚内でのタンパク質発現)の包括的な開発ソリューションを提供しています。RNA設計と生産に豊富な経験をもつ弊社チームはin vitro転写用ベクターの設計および作製、in vitro mRNA転写(IVT)、脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle, LNP)パッケージング、in vitro/in vivo機能試験のサポートを通じて、お客様のmRNAワクチンや遺伝子医薬法開発を加速させます。

サービス詳細

IVTベクターの設計と作製
  • 弊社のIVTベクターバックボーンは高効率なin vitro転写に最適化されています (図1).
  • 自社検証済みの様々な5’ UTR、3’ UTR、ポリA配列(110bp長まで)を用意しています
  • 線状化、キャッピング、ポリアデニル化に対応したカスタムIVTベクターを短い作業時間で作製します。
  • 文献やコンピューターそして実験的なアプローチによるコドン最適化サポート。

図1. 標準的なIVTベクターマップ

In vitro mRNA転写と脂質ナノ粒子 (LNP) パッケージング
  • 従来のT7 RNAポリメラーゼによる転写と自己増幅mRNAによって、10,000nt長まで、ug~数百mgスケール規模のmRNA転写に対応。
  • Cap1による5’キャッピングと110ntポリAによるmRNAの安定化と翻訳効率の上昇。
  • mRNAの転写効率や免疫回避効率を高めるためにN1-Methylpseudouridine (m1Ψ)や5-Methylcytosine (m5C)のような修飾ヌクレオチドを転写時に取り込み可能。
  • 多様なRNA精製オプション(磁石ビーズやクロマトグラフィーなど)。
  • ミリグラム規模での高品質mRNA-LNPパッケージング。
  • RNAの包括的な品質検査(インテグリティ、量、純度、LNPプロファイル)。
  • プロセス開発と大規模mRNA合成へのスケールアップ。
In vitro、in vivo mRNA遺伝子医薬試験
  • 弊社のハイスループットクローニング、合成、試験プラットフォームを活用した実験に基づいて、mRNAのUTR、コード配列そして転写法を最適化します。
  • 様々な用途(抗原提示、抗体発現、CAR発現、CRISPR)に対応した、機能検証プラットフォームを利用できます。
  • mRNA-LNPデリバリー効率やげっ歯類や非ヒト霊長類(NHPs)を使用する実験モデルの安全性を評価する臨床向けのCROサービスを提供しています。

技術情報

mRNA医薬の利点

mRNAを使用して医薬用タンパク質をヒト生体内で発現させるアプローチは過去数十年にわたって動物モデルを用いて検討されてきました。mRNAの生物学的な理解の進展とin vitro転写(IVT)、脂質ナノ粒子(LNP)技術の発展により技術的な障壁のいくつかが取り払われた結果、コロナウイルスのパンデミック発生後のSARS-CoV-2 mRNAワクチンが前例のないスピードで実現可能になりました。mRNAは他の生物製剤にはない特有の長所を持ち、製薬開発の有望な候補となります。

はじめに、組み換えタンパク質とは異なり、LNPにパッケージングされたmRNAは効率的に宿主細胞の細胞膜を通過し、迅速に医薬用タンパク質として翻訳されます。治療用タンパク質の細胞内への輸送効率は膜透過性とタンパク質の特性(電荷や分子量)に制限を受けます。ほとんどの細胞外タンパク質はエンドソームを介して細胞内に輸送されますが、ほとんどがエンドソーム内でプロテアーゼによって分解されます。標的タンパク質の細胞内への導入には、膜への透過性の改善やエンドソーム脱出のための改変が必要になります。一方、mRNAはLNPの細胞膜との融合を介して細胞質へ放出されます。標的mRNAのin vivo発現は機能性LNPと最適化されたmRNA UTRを組み合わせることで達成されます。2つ目に、ウイルスベクターは核内もしくはゲノム中に外来性DNAを恒久的に残しますが、mRNAはゲノム配列に影響を与えることなく、数日中に分解されます。ウイルスベクター型ワクチンは標的細胞ゲノムの重要な制御配列や遺伝子配列への挿入が起こった場合に、深刻な問題を引き起こすリスクがあります。3つ目に、mRNA合成はウイルスベクターと比べてコストパフォーマンスが高く、スケールアップが容易です。In vitro mRNA転写はcellフリーシステムなので、細胞由来の不純物や混入物の心配がありません。プロセス開発や大規模生産への標準化が容易です。このように、mRNA-LNPは医療現場におけるワクチン開発、タンパク質代替、ゲノム編集などの用途への将来性ある候補として注目を集めており、ベクタービルダーではmRNAの設計、合成および最適化に必要なサービスを提供しています。

mRNA合成プロセスと品質管理

図2. 主なmRNA合成およびLNPパッケージングのワークフロー

図2 にあるように、弊社の主なmRNA合成ワークフローはコドン適性、GC含有率、RNA2次構造の熱力学的な安定性を考慮したテンプレートDNAの設計と作製からはじまり、in vitro転写ベクターへのクローニングへと続きます。ベクターDNAは精製後の検証を経て線状化されて、in vitro転写反応によってRNAが生成されます。in vitro転写反応のさいにはin vivoでの翻訳効率や免疫原性を和らげるためにm1Ψやm5Cなどの修飾ヌクレオチドをRNA産物に取り込ませることもできます。転写反応中、もしくは酵素反応による高効率のキャッピング(>95%)も可能となっています。転写後のmRNAはmRNA吸着ビーズによって精製されますが、要望があればオリゴdTクロマトグラフィーによる精製にも対応しております。mRNAのインテグリティや純度検査は、下記にある品質管理検査表からカスタマイズできます。続いて、マイクロ流体ミキサーによってmRNAをLNPにパッケージングできます。パッケージング効率とナノ粒子プロファイルは下記の表にある検査法によって調査されます。

品質検査項目 方法
mRNA配列検査 逆転写後、サンガーシークエンス
mRNAインテグリティおよび純度 変性ゲル電気泳動法, キャピラリー電気泳動
キャッピング効率 LC-MS
ポリA効率 LC-MS
残存dsRNA ELISA
残存テンプレートDNA PicoGreen staining, qPCR
残存プロテイン BCA, NanoOrange 染色
mRNAパッケージング効率 RiboGreen染色
LNP粒子サイズ, PDI, 表面電荷 動的光散乱法(DLS), TEM
エンドトキシンレベル LAL アッセイ
無菌性 バイオバーデン試験
実験による検証

弊社のIVTによるルシフェラーゼとEGFP mRNAをin vitro (図3) とin vivo (図4) でテスト。

図3. 293T細胞とHela細胞におけるルシフェラーゼとEGFP mRNAの発現。mRNAは修飾ヌクレオチド(N1-Methylpseudouridine (m1Ψ) と5-Methylcytosine (m5C))の有り/無し条件で転写された。細胞はウェルあたり1ug mRNAが導入された。(A) mRNA導入後、6、24、48時間培養された293T細胞におけるルシフェラーゼ活性。エラーバーは標準偏差を示す。mRNA導入後、24、48、72時間培養、フローサイトメトリーによってEGFP発現を測定した293T細胞(B)そしてHela細胞(C)。 平均蛍光強度は色付きの棒グラフで表され、GFPポジティブ細胞の存在率は丸、四角、三角で表示。(D) mRNA導入後72時間での293T細胞およびHela細胞におけるEGFP発現を蛍光顕微鏡(100X)によって撮影。

図4. マウスにおけるルシフェラーゼ(Luc) mRNAの発現とmRNAに対する免疫反応。(A)インジェクション後6、24、48時間経過後のルシフェラーゼ活性のイメージング像。(B)インジェクション後48時間経過後の血清における炎症性サイトカイン、IL-6とTNG-αの定量。エラーバーは標準誤差を示す。8週齢のC57BL/6Jマウス株を使用。筋肉にインジェクションした。(C) Balb/cマウスにmRNA-LNP(antigen A, antigen B, PBSコントロール)をインジェクション、脾臓細胞のIFN-γ ELISpotアッセイ結果。

関連印刷物
フライヤー(チラシ)
化学物質等安全データシート (MSDS)

FAQ

mRNAキャップとキャッピング方法の違いはなんでしょうか?

キャップ0はN7-methylguanosine (m7G)を意味し、5‘-三リン酸結合を介して真核生物mRNAの5’末端側に付加されます。この修飾は一連の酵素反応を経て転写反応と同時に起こり、真核生物翻訳開始因子(eIF4E)に認識されることによってmRNAの核輸送、転写産物の安定化、翻訳反応の増進に機能します。キャップ1はmRNAへのm7G(キャップ0)付加に続いて、最初のヌクレオチド(m7GpppNm)上の2’Oへのメチル基の付加を意味します。哺乳類では、キャップ1の構造はmRNAが自己のものとして自然免疫を回避するためのマーカーとして重要となります。キャップ1を合成mRNAに付加することで、mRNAのin vivoでの翻訳効率の上昇と免疫原性を低下させることができます。

In vitro転写mRNAのキャップはキャップアナログを使用して転写反応中に付加するか、転写反応後の酵素反応によって付加する方法があります。弊社はどちらの方法にも対応しており、キャッピング効率はLC-MS使用して詳細に検査されます。お客様の希望するキャップ方法に依存して、それぞれに対応したIVT mRNAベクターバックボーンへのクローニングを提案しています。

なぜ修飾ヌクレオチドをmRNAに取り込む必要があるのか?どの修飾ヌクレオチドを使用すべきか?

細胞は細胞質とエンドソームにRNA受容体をもち、外来性RNAを検出して免疫反応を引き起こします。修飾ヌクレオチドは内在性RNAに共通して存在しています。特定の修飾ヌクレオチドをIVT mRNAへ取り込ませることで免疫原性の低下、二次構造の変更、翻訳効率の増加、配列依存性の半減期を伸ばすことができます。弊社ではN1-Methylpseudouridine (m1Ψ)や5-Methylcytosine (m5C)を含む、様々な修飾ヌクレオチドを用意しております。N1-Methylpseudouridineや5-Methylcytosineは自然界に存在するヌクレオチドであり、初めにtRNAで見つかりましたが、タンパク質をコードするmRNAにおける機能は近年になって評価されるようになりました。これらのウリジンやシトシンのメチル化派生物は古典的なワトソンークリック塩基対形成に影響を与えることがないので、mRNA in vitro合成および翻訳反応において従来のヌクレオチドを置き換えることができます。このように、mRNA医薬はRNA免疫受容体による認識を回避して免疫反応を低減させ、mRNAの安定性と翻訳効率を高めることができる大きなアドバンテージを持っています。