培養細胞モデル(コロナウイルス研究用)

コロナウイルスのように、異なるウイルス種が特定の異なる宿主細胞を認識して感染するような場合、遺伝子編集を施したウイルスを分離、増幅し、宿主細胞への侵入を研究するには培養細胞系は不可欠なモデルです。

ベクタービルダーでは、コロナウイルス研究用細胞株をご提供いたします。既製品細胞株は3カテゴリーあり:ウイルス分離培養用細胞(CoronaGrowTM),  ウイルスパッケージング用細胞 (CoronaPackTM)、そして アッセイ用細胞 (CoronaAssayTM) です。またご希望のコロナウイルス研究用の細胞株もカスタムで受託構築いたします。

コロナウイルス種の概要

コロナウイルスは自然界に非常に多種類が存在し、巨大なウイルス群を構成しています。事実上、全ての哺乳動物と鳥類に感染することが明らかになっています。何百ものコロナウイルス種が同定されていますが、その中でも特に、ヒト、家畜、ペット、モデル動物に感染性のある数十種、およびその近縁種が重要であると考えられています:

主要コロナウイルス種間の系統樹

主要なコロナウイルス種の詳細(表1)

ベクタービルダーでは、表1のコロナウイルス種の研究用の既製品培養細胞モデル細胞株、さらにカスタム培養細胞モデルを受託作製いたします。

培養細胞の種類

コロナウイルス研究用の細胞株は大きく分けて次の3カテゴリーでご提供しています:

(1) ウイルス分離培養用細胞 コロナグロウTM(CoronaGrow™ ): 目的ウイルスを効率よく分離培養できる培養細胞株。

(2) ウイルスパッケージング用細胞 コロナパックTM(CoronaPackTM): 組み換えベクターを生きたウイルスにパッケージングするための細胞株。

(3)アッセイ用細胞 コロナアッセイTM(CoronaAssayTM): ウイルスが宿主細胞に侵入するメカニズムの研究やウイルスの生理機能を研究するための細胞株。

ここをクリックしてウイルスアッセイ用細胞株の実験による検証を読む

これらの細胞をつかってリスクグループがまだ決定していないSARS-CoV-2、RG3(NIH guideline 2016)のSARSやMARSコロナウイルス種を扱う組み換えDNA実験を計画される場合、所属機関の組み換えDNA安全委員会の指示に従い、かつ担当省庁の組み換えDNA実験の法令を遵守していただくようお願いいたします。SARS-CoV-2に関する文部科学省管轄の場合のポジションペーパーのリンクはこちらです。その他の確認実績情報や、拡散防止措置有効性のリンクはこちらからご覧ください。

(1)コロナウイルス分離培養用の培養細胞株:コロナグロウTM(CoronaGrow™ )

特定のコロナウイルスを分離培養する目的の細胞株は、もともとコロナウイルスに感染しやすいという特長を持っています。感染した生体から得た痰や感染した組織などのバイオロジカルサンプルから生きたウイルスを分離するには、これらの生サンプルをコロナグロウTM(CoronaGrow™ )細胞に接種して培養を行います。感染が成功すると、細胞に特長的な細胞変性効果 (cytopathic effect :CPE)が観察されます。細胞変性効果とは、宿主となる細胞が、増殖するウイルスに破壊されていく過程の細胞形態変化のことで、例外があるものの、殆どのウイルス感染で観察されます。さらにウイルス種や宿主細胞種によって特長があるため、ウイルス種同定の際に使われます。宿主細胞から生合成されたウイルスは次に電顕下で形態の検証と、ゲノムシークエンスを読むことでウイルスの同定を行います。特定のコロナウイルス種の分離に使われた細胞は、その後のウイルス増殖にも使えるため、研究必要量のウイルスを産生できます。また、これらの細胞は、ウイルスの細胞侵入などのウイルスバイオロジーの研究にも利用できます。

ベクタービルダーの コロナグロウTM(CoronaGrow™ )細胞株パネルは、多数のコロナウイルス種が効率よく分離培養できるように開発されています。

細胞株名 詳細 テスト済コロナウイルス種* カタログ番号
CoronaGrow-VeroE6 アフリカミドリサル(Chlorocebus aethiops)の成体腎臓由来のVero-E6細胞からサブクローンされた細胞株。SARS-CoV-2を含む多くのコロナウイルスが感染し、多数のコロナウイルスの分離培養の第一の選択肢となる細胞株。 SARS-CoV-2, SARS-CoV, MERS-CoV, PanCoV-GD/P2S, BatCoV-WIV16, BatCoV-Rs4231, BatCoV-WIV1, BatCoV-RsSHC014, PEDV CL0001
CoronaGrow-Huh7 ヒト肝臓がん細胞由来のHuh7細胞からサブクローンされた細胞株。HCoV-229Eを含む多くのコロナウイルスが感染する。 HCoV-229E, SARS-CoV-2, SARS-CoV, MERS-CoV CL0002
CoronaGrow-Frhk4 アカゲザル(Macaca mulatta)の胎児腎臓由来のFRhK-4細胞からサブクローンされた細胞株。SARS-CoVを含む数種類のコロナウイルスが感染する。 SARS-CoV, CivetCoV-SZ3 CL0003
CoronaGrow-MK2 アカゲザル (Macaca mulatta)の成体腎臓由来のLLC-MK2 細胞からサブクローンされた細胞株。HCoV-NL63を含む数種類のコロナウイルスが感染する。 HCoV-NL63, SARS-CoV CL0004
CoronaGrow-L2 ラット肺細胞由来のL2細胞からサブクローンされた細胞株。MHVを含む数種類のコロナウイルスが感染する。 MHV, RCoV CL0005
CoronaGrow-HRT18G ヒト大腸がん細胞由来のHRT-18G細胞からサブクローンされた細胞株。HCoV-OC43を含む数種類のコロナウイルスが感染する。 HCoV-OC43, BCoV, ECoV, CRCoV, RbCoV CL0006
CoronaGrow-Neuro2a マウス繊維芽腫由来の Neruo-2a細胞からサブクローンされた細胞株。 PHEVを含む数種類のコロナウイルスが感染する。 PHEV CL0007
CoronaGrow-ST ブタ精巣由来のST細胞からサブクローンされた細胞株。TGEVを含む数種類のコロナウイルスが感染する。 TGEV, PRCoV, PDCoV CL0008
CoronaGrow-Fcwf4 ネコ胎児のマクロファージからサブクローンされたFcwf-4 細胞株。FIPVを含む数種類のコロナウイルスが感染する。 FIPV, FCoV CL0009
CoronaGrow-A72 イヌの線維芽細胞からサブクローニングされたA-72細胞株。CCoVを含む数種類のコロナウイルスが感染する。 CCoV CL0010

*特定のコロナウイルス種の分離培養に使える既知の細胞株を示しています。テストされていないコロナウイルス種もあり、名前が挙がっていないので分離培養に使えないということではありません。

注: 赤文字で示したコロナウイルス種は、該当する細胞株を使っての分離培養に特に適したコロナウイルス種です。

(2)コロナウイルスパッケージング用細胞株:コロナパックTM(CoronaPack™)

コロナウイルスパッケージング用細胞株は、研究に必要な野生型や変異型の組み換えウイルスゲノムベクターを生きたウイルスにパッケージングする目的に使う細胞株です。

ウイルスパッケージングでは、ベクターDNAまたはin vitro転写されたRNAをパッケージング用細胞にトランスフェクトを行います。ベクターDNAやRNAがいったん細胞内に取り込まれると、これらの核酸は細胞のエンドジェナスなマシーナリーを全てハイジャックして生きたウイルスの生合成を行わせます。 コロナパックTM(CoronaPackTM)パッケージング用細胞株は、その高いトランスフェクション効率とパッケージング効率で選ばれ、一過性のコロナウイルスパッケージングに用います。ウイルスパッケージングの成功は、細胞変性効果 (cytopathic effect :CPE)を指標にします(注:細胞変性効果が観察されない例外もあります。)

コロナパック™ 細胞株でパッケージングしたコロナウイルス粒子を引き続き増殖させたい場合は、適切なコロナグロウTM 細胞株をお使いください。パッケージング用細胞株にはウイルスの侵入に必要な適切なレセプターが発現していないため、ウイルス増殖には向いていません。コロナパックTMからコロナグロウTMへのスイッチングは、まずベクターDNAやin vitro転写されたRNAをコロナパックTM細胞株にトランスフェクトし、6-24 時間後にパッケージング細胞または培養液の上澄みを適切なコロナグロウTM 細胞培養に添加します。通常トランスフェクション後 6-24 時間後には、パッケージングされた初期組み換えウイルス粒子が生合成されているため、コロナグロウTMに感染し組み換えウイルス粒子の産生を行います。

ベクタービルダーのコロナパックTM(CoronaPack™ )細胞株は、基本的に全てのコロナウイルス種のパッケージングが可能になるようにデザインされた細胞株です。

細胞株名 詳細 カタログ番号
CoronaPack-BHK ベイビーハムスター腎臓に由来するBHK-21細胞からサブクローンされた細胞株。組み換えベクターを使ったコロナウイルスパッケージングによく使われている。 CL0011
CoronaPack-293T ヒト胚腎臓由来の293T細胞からサブクローンされた細胞株。組み換えベクターを使ったコロナウイルスパッケージングの際、候補細胞の一つとして選択される。 CL0012
(3)コロナウイルスアッセイ用培養細胞株 コロナアッセイTM(CoronaAssayTM)

コロナウイルスに関する最も主要な細胞レベルでの研究は、宿主細胞へのウイルス侵入メカニズムの解析です。この研究には、ウイルスのスパイクタンパク質(Spike protein: S-protein)に認識される細胞表面の受容体タンパク質を発現している細胞(例. コロナグロウTM細胞株)を使用します。他方法に、本来は受容体タンパク質を発現しない細胞株に、外来的に受容体タンパク質を安定に発現するようトランスジーンを導入し、目的の受容体タンパク質を高レベルに細胞に発現させる方法があります。この方法では、受容体タンパク質の遺伝子シークエンスに変異を導入することで、重要なドメインやアミノ酸残基の同定に威力を発揮します。

これら受容体高レベルに発現している細胞株は、自然界で単離された新規または既知のコロナウイルスや、組み換えベクターを使って人工的にウイルスパッケージングされたコロナウイルスのウイルス侵入アッセイにも使用が可能です。他方、このアッセイ系にはS-タンパク質シュードタイプの組み換えレンチウイルスを使うこともできます。シュードタイプレンチウイルスの利点は必要最小限のバイオセイフティー下で研究が実施できることです。

レンチウイルス(CoV-Sシュードタイプ)のページを見る

VectorBuilderのコロナアッセイTM(CoronaAssay™ )細胞株は、様々な既知のヒトACE2, DPP4, ANPEP受容体さらにマウスCeacam1受容体を安定に発現するトランスジーンがデザインされています。さらにヒトTMPRSS2のトランスジーンを単独、または受容体を同時に発現するようにデザインされた細胞株もご提供しています。 TMPRSS2は膜貫通型セリンプロテアーセをコードし、ACE2, DPP4, ANPEP またはsialic acidを受容体とする多くのコロナウイルス種において、宿主細胞への侵入に関与していることが知られています。コロナアッセイTM(CoronaAssay™ )パネルはHela(ヒト子宮頸がん細胞由来)または293T(ヒト胚の腎臓由来)を親細胞としてサブクローン化されています。

ここをクリックして実験による検証を表示する

細胞株名 トランス遺伝子 用途 カタログ番号
293Tベース細胞株** CoronaAssay-293T 無し トランス遺伝子無しコントロール CL0012
CoronaAssay-293T(hTMPRSS2) Human TMPRSS2 TMPRSS2のみのコントロール CL0013
CoronaAssay-293T(hACE2) Human ACE2 Assay coronavirus that targets ACE2 receptor (e.g. SARS-CoV-2) CL0014
CoronaAssay-293T(hACE2-hTMPRSS2) Human ACE2
Human TMPRSS2
Assay coronavirus that targets ACE2 receptor (e.g. SARS-CoV-2) CL0015
CoronaAssay-293T(hACE2-hTMPRSS2-hNRP1) Human ACE2
Human TMPRSS2
Human NRP1
Assay coronavirus that targets ACE2 receptor (e.g. SARS-CoV-2) CL0016
CoronaAssay-293T(hANPEP) Human ANPEP ANPEP受容体をターゲットするコロナウイルスのアッセイ用 (例 HCoV-229E) CL0017
CoronaAssay-293T(hANPEP-hTMPRSS2) Human ANPEP
Human TMPRSS2
ANPEP受容体をターゲットするコロナウイルスのアッセイ用 (例 HCoV-229E) CL0018
Helaベース細胞株* CoronaAssay-Hela 無し トランス遺伝子無しコントロール CL0019
CoronaAssay-Hela(hTMPRSS2) Human TMPRSS2 TMPRSS2のみのコントロール CL0020
CoronaAssay-Hela(hACE2) Human ACE2 ACE2受容体をターゲットするコロナウイルスのアッセイ用 (例 SARS-CoV-2) CL0021
CoronaAssay-Hela(hACE2-hTMPRSS2) Human ACE2
Human TMPRSS2
ACE2受容体をターゲットするコロナウイルスのアッセイ用 receptor (例 SARS-CoV-2) CL0022
CoronaAssay-Hela(hACE2-hTMPRSS2-hNRP1) Human ACE2
Human TMPRSS2
Human NRP1
Assay coronavirus that targets ACE2 receptor (e.g. SARS-CoV-2) CL0023
CoronaAssay-Hela(hDPP4) Human DPP4 DPP4受容体をターゲットするコロナウイルスのアッセイ用 (例 MERS-CoV) CL0024
CoronaAssay-Hela(hDPP4-hTMPRSS2) Human DPP4
Human TMPRSS2
DPP4受容体をターゲットするコロナウイルスのアッセイ用 (例MERS-CoV) CL0025
CoronaAssay-Hela(mCeacam1) Mouse Ceacam1 Ceacam1受容体をターゲットするコロナウイルスのアッセイ用 (例 MHV) CL0026

* Helaベースの細胞株では、エンドジェナスなACE2, DPP4, CEAMCAM1そしてTMPRSS2の発現が無いことを確認しています。

** 293Tベースの細胞株では、エンドジェナスなANPEPとTMPRSS2の発現が無いことを確認しています。

技術情報
ユーザーインストラクション 

Vero-E6 Cell Line

293T-Based Cell Lines

HeLa-Based Cell Lines

実験による検証

シュードタイピングプロトコルを最適化するために、ベクタービルダーでは独自の技術を数多く開発しました。その結果、最適化されたシュードタイプウイルスは、公開されているプロトコルを使って作成した場合のシュードタイプウイルスに比べて、はるかに高い形質導入効率を示します。当社ではウイルスの広範な実験的検証を実施し、SARS-CoV-2 Sタンパク質およびD614G変異を持つシュードタイプレンチウイルスは、高レベルのヒトACE2受容体を発現している293T細胞に対して効率的に形質導入されるが、ACE2が発現しないまたは発現が低い293T細胞には形質導入できないことを、蛍光レポーター(図1)またはルシフェラーゼレポーター(図2)を使って証明しました。SARS-CoV-2 Sタンパク質でシュードタイプしたウイルスに最適化されたACE2発現細胞株です。

ここをクリックして、コロナウイルスSタンパク質シュードタイプレンチウイルスを表示する

293T cell line transduced with SARS-CoV-2 S protein

図 1. SARS-CoV-2 Sタンパク質シュードタイプレンチウイルスをヒトACE2受容体を過剰発現した293T細胞に感染させた。形質導入後72時間の細胞を撮影。

 

図 2. 異なるエンベロープタンパク質でシュードタイプ化されたレンチウイルスを使って、293T(hACE2)細胞に形質導入を行った。カラム 1: 形質導入を行わないネガティブコントロール、カラム 2: SARS-CoV-2 S タンパク質、カラム 3: SARS-CoV-2 S タンパク質D614G変異型、カラム 4: VSV-Gタンパク質.

バイオセイフティーに関してのご注意

日本でのSARS-CoV-2関連遺伝子を使った研究に関する規制詳細は研究を実施するユーザーより担当省庁にご確認いただき、組み換えDNA実験の法令を遵守してください。SARS-CoV-2に関する文部科学省管轄の場合のポジションペーパーのリンクはこちらです。参考のためてに大臣確認実績情報や、拡散防止措置有効性のリンクも示します。経産省の産業二種使用のリンクはこちらです。

細胞株の注文方法は?

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