研究室でのひらめきの瞬間   |   2024年02月23日

複数の遺伝子を持つベクターを最適化するには?

遺伝子導入システムは、1つの遺伝子だけでなく、多くの場合、プロモーターオープンリーディングフレーム(ORF)、マーカーを含む複数のコンポーネントを効率的に導入することができます。これらのシステムは、複数のORF、複数の融合または連結したレポーター、さらには完全な発現カセットを持つベクターを作成することにより、個々の実験ニーズに合わせてカスタマイズすることもできます。これらのベクターを効率的に導入するには、特にレンチウイルスベクターを使用する場合、多くの点を注意深く考慮する必要があります。VectorBuilderは、複数のORFを持つベクターの設計と最適化に関する重要な要素についてご案内します。

異なる遺伝子、異なるドライバー

複数の遺伝子を導入するための一つの選択肢は、別々の発現カセッ トを挿入することです。特に、異なるプロモーターを利用する場合、 またはpiggyBacのような運搬可能サイズが大きなシステムを利用する場合です。この例では、個々のプロモーター、ORF、polyAテールが、目的の遺伝子ごとに挿入され、別々の転写事象を確実にします。これは、(1)TREプロモーターによって駆動される目的遺伝子と、(2)1つ以上のプロモーターによって駆動されるTet調節因子タンパク質を含む、オールインワン誘導性遺伝子発現ベクターを設計する場合によくあります。

重要なことは、複数の発現カセットを設計することはほとんどのベクター系で可能ですが、レンチウイルスでは適さないということです。レンチウイルスのロングターミナルリピート(LTR)は、ゲノムへの挿入を促進し、組換えウイルスゲノムの転写の開始と停止点をマーキングします。3'LTRはポリアデニル化シグナルとして働くため、レンチウイルスベクターに内部polyAを含めると、転写が早期に終了してしまいます。したがって、3' LTRは転写されず、ウイルス力価の低下につながります。

再スタートまたはスキップする

レンチウイルスの場合、そして一般的にベクターシステムの場合、複数のORFを導入するための一般的なオプションは、ポリシストロンまたはマルチシストロンを作成することです。すべてのORFは一つのmRNA鎖として一緒に転写され、リンカーが別々のタンパク質の翻訳を促進します。最もよく使われるリンカーはIRESと2Aペプチド(P2A、T2A、E2A、F2A)です。この2種類を下の表で比較します。

リンカーの種類 メカニズム メリット デメリット
IRES リボソームの結合サイトを追加し、mRNAの内部で翻訳開始を可能にする
  • リンカーの上流、下流の配列に変化を及ぼさない
  • 下流のORFの翻訳効率を減少させる
  • サイズが大きい (>500 bp)
  • 2A ペプチド リンカー内のペプチド結合合成をリボソームに「スキップ」させる自己切断ペプチド
  • 下流のORFの翻訳効率が比較的高い
  • ORFの上流と下流に余分なペプチドが付加される
  • 一部、切断されなかった場合に融合タンパク質として発現する
  • これらの因子を勘案して2つ以上のORFを使用する場合、あるいはORFの発現レベルがほぼ同等であることが要求される場合は、2Aペプチドを選択することを推奨します。注意点として、2つ以上のORFを発現させる場合、組換えを避けるために異なるリンカーを使用すべきです(例えば、P2AとT2A)。2Aペプチドファミリーの中では、切断効率が最も高いP2Aか、P2Aより効率がやや低いT2Aを推奨します。IRESの使用は、第二のORFの発現レベルが低くても実験結果に影響がない場合、例えば第二のORFが薬剤選択マーカーである場合などに推奨されます。

    シャッフルする

    選択したORFをどのように分離するかを決定した後、さらにいくつかの検討事項、特にORFを配置する順序が最適化の一助となります。ポリシストロン発現を最適化する際、興味深いがあまり研究されていない疑問が残っています:相対的な位置関係が発現プロファイルに及ぼす影響とは?

    複数の蛍光タンパク質を用いたこれまでの研究で、各遺伝子の発現レベルはポリシストロン転写産物内のそれぞれの位置に依存することが示されてきました。異なる配列が発現プロファイルに及ぼす影響を、より生理学的に関連した状況下で調べるために、我々は3つのヒト内在性遺伝子の発現を比較しました。3つの遺伝子の組み合わせを全て網羅する6種類のポリシストロン型レンチウイルスベクターから発現させました。それぞれ第1リンカーと第2リンカーにP2AとT2Aを介在させました(図1A)。

    特定の遺伝子の発現レベルを異なる位置で比較すると(図1Bと1C)、ORFがプロモーターに最も近い位置にあるとき、主に最も高い発現レベルを示すことが観察されました。最も低い発現は、ORFが3番目の位置に置かれたときに一貫して観察され、1番目の位置に比べて少なくとも80%減少しました。

    興味深いことに、個々の遺伝子の相対発現レベルは、それ自身の位置だけでなく、他の2つの遺伝子の順序によっても影響を受けました(図1B)。例えば、遺伝子Bの発現レベルは、最初の位置に置かれたときに最も高かった(ベクター3および4)が、遺伝子Bの発現は、遺伝子Cが2番目の位置に置かれたときに、遺伝子Aと比較して5倍増加しました(ベクター3とベクター4を参照)。いずれのベクターにおいても、2番目の遺伝子の発現レベルも劇的に変化しました。

    特定のORFの発現は、その位置がコンストラクトの下流に向かうにつれて劇的に低下することがありますが、発現はポリシストロニックコンストラクト内の他のORFの配置によっても影響を受けます。選択した遺伝子の位置を最適化することで、実験特異的な発現目標を達成することができます。
    Comparison of position-dependent gene expression levels in 2A linked polycistronic vectors.

    図 1. 2Aペプチドによって繋げたポリシストロニックベクターにおける遺伝子の位置依存性の比較 (A)3つの遺伝子をP2AとT2Aペプチドによって繋げ、シストロニックに持つレンチウイルスベクターをレンチウイルスにパッケージングした。哺乳類細胞へ感染・導入し、全ての6種類の組み合わせについて各遺伝子の発現量をフローサイトメトリー法にて解析した。(B)6種類の組み合わせは、A-B-C, A-C-B, B-C-A, B-A-C, C-B-AおよびC-A-Bである。分かりやすく比較するために、A-B-Cの順序での発現レベルに対して、任意の配置内での各遺伝子の発現レベルを正規化した。(C)トリシストロニックベクター内の特定の位置におけるタンパク質発現レベルを比較した。異なる位置における各遺伝子の発現レベルを、最初の位置における発現レベルに対して正規化した。

    まとめ

    細胞種、ベクターシステム、必要なプロモーターの数、異なる遺伝子の特異的発現要件などによって、様々な方法によって複数の遺伝子を標的細胞で発現させることができます。レンチウイルスベクターを使用する場合、一つのベクターで別々の発現カセットを使用することができないため、顕著な制限があります。しかし、リンカーを注意深く検討し、目的の遺伝子の順序を検証することで、発現レベルを実験に合わせて最適化することができます。VectorBuilderのテクニカルサポートは、複雑なベクターのクローニングやパッケージングにおける数十年の経験を生かし、この最適化をいつでもお手伝いします。

    文献

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