どのベクターシステムを使うべきですか?各ベクターで扱える最大DNAサイズも教えてください。

実験の成否に影響を及ぼす重要な要素として、目的遺伝子を標的細胞へ導入する手段であるベクターシステムを選択があります。数々のウイルス性、非ウイルス性のベクターがありますが、実験計画に最適なベクターを選択する際にはいくつか要素を考慮に入れる必要があります。例えば次のような要素を考慮に入れてください。標的細胞への遺伝子導入は容易か困難か?宿主細胞で遺伝子を一過的に発現したいのか、それとも恒久的に発現したいのか?遺伝子発現用のプロモーターをカスタマイズしたいか?ベクターをin vitroもしくはin vivo環境で使用するか?条件的発現、誘導型遺伝子発現システムが必要か?目的遺伝子のサイズは?

実験計画に適したベクターシステムを選ぶ際には以下の表を利用してください。

標準プラスミドベクター ウイルスベクター トランスポゾンベクター
トランスフェクションを利用 ×
一過的or恒久的発現 一過的 恒久的 恒久的
パッケージングが必要 × ×
組み込み可能DNAサイズ 小~中 中~大
主な使用環境 培養細胞 培養細胞 & in vivo 培養細胞 & in vivo
プロモーターのカスタマイズ ウイルスベクターに依存
標準プラスミドベクター  View more 
メリット

簡便さ: 標準プラスミドベクターは宿主細胞への遺伝子導入にシンプルなトランスフェクション法を使用します。ウイルスのパッケージング操作などが必要なウイルスベクターと比べて、プラスミドベクターの細胞への導入は技術的に簡便です。

組み込み可能サイズが大きい: 当社の標準プラスミドベクターの組み込み可能な最大DNAサイズは~30kbです。ウイルスベクターが組み込み可能サイズに制限があることと比べて、目的遺伝子およびプロモーター、マーカー遺伝子など、様々なベクターコンポーネントを組み込むための十分な空きが確保されています。

デメリット

ベクターDNAがゲノムへ挿入されない:従来のプラスミドベクターによる遺伝子導入法はベクターのほとんどが宿主ゲノムへ挿入されずにエピソームDNAとして維持されるために、ベクターは細胞内で短い期間のみ維持されます。非常に低い頻度ですが(細胞タイプによって102-106細胞あたり1回)、ベクターの宿主ゲノムへ挿入が起こります。薬剤耐性や蛍光マーカーがプラスミドベクターに組み込まれているならば、薬剤選択やセルソーターによって挿入が起こった細胞を選別できます。

使用できる細胞タイプが限定される:細胞タイプによってベクターの導入効率は大きく異なるので、利用できる細胞タイプは限定されます。一般的に非増殖細胞は増殖細胞よりも形質転換効率は低く、プライマリ細胞は不死化細胞株よりも形質転換が困難です。神経細胞や脾臓β細胞などの形質転換は非常に難しくなります。加えて、ベクターの導入はin vitro実験に限定され、in vivo用途にはほとんど利用されません。

導入コピー数にばらつきが大きい:細胞あたりに導入されるベクターの平均コピー数は非常に高くなりますが、ばらつきが大きくなります(ある細胞は非常に高コピー数だが、別の細胞は数コピーしかない、等)。一方でウイルスによる遺伝子導入法はこのようなばらつきは小さくなる傾向があります。

ウイルスベクター View more 
メリット

従来の遺伝子導入法では困難だった細胞に適している:ウイルスベクターは従来の遺伝子導入法では難しい細胞タイプへも使用可能です。ほとんどのウイルスベクターはウイルスのエンベロープタンパク質のおかげで幅広い哺乳類動物細胞への親和性を持っています。当社のレンチウイルスシステムは非常に広範な親和性を実現するためにVSV-Gエンベロープタンパク質がウイルス表面に付加されています。その結果、一般的に利用されているすべての哺乳類動物種(いくつかの非哺乳類種も含む)に対する遺伝子導入が可能になっています。さらには、ほとんどすべての哺乳類細胞タイプ(増殖・非増殖細胞、プライマリ細胞及、接着・非接着細胞)への遺伝子導入も可能です。従来通りの遺伝子導入法では難しかった神経細胞もレンチウイルスベクターならば確実に遺伝子導入できます。

同様に当社のAAVベクターをウイルスにパッケージングする際にはカプシドタンパク質を選択することで多様な血清型をウイルスに与えることができます。血清型を換えるウイルスは異なる組織親和性(感染の組織特異性)を獲得します。適切な血清型でウイルスを作製することによってヒト、マウス、ラットなど一般的に使用される哺乳類動物由来の幅広い細胞及び組織タイプに遺伝子を導入できます。

In vitroとin vivoで有効: 標準プラスミドベクターが主にin vitro環境での使用に制限されることに比べて、ウイルスベクターは培養細胞と生体の両方に対して効果的に使用できます。

相対的に均一なベクター導入:従来のプラスミドベクターによる遺伝子導入法は細胞に導入されるベクターのコピー数に大きなばらつきが生じますが、一般的に、ウイルスによる遺伝子導入は導入されるベクターのコピー数が相対的に均一になります。

デメリット

組み込み可能な最大DNAサイズが小~中程度に制限される: ほとんどのウイルスベクターは標準プラスミドベクターやトランスポゾンベクターと比べて、組み込み可能サイズに制限があります。ウイルスベクターを設計する際には組み込まれるDNAのサイズについて考慮に入れる必要があります。組み込み可能サイズを超過するとウイルスのパッケージングに阻害的な影響が生じます。下の表にそれぞれのウイルスベクターの組み込み可能な最大DNAサイズを記載します。

ウイルスタイプ 最大ウイルスゲノムサイズ 組み込み可能な最大DNAサイズ
レンチウイルス 9.2 kb (5’ LTR-ΔU3から3’ LTR-ΔU3) 6.4 kb
アデノウイルス 38.7 kb (5’ ITRから3’ ITR) 7.5 kb
アデノ随伴ウイルス 4.7 kb (5’ ITRから3’ ITR) 4.2 kb

技術的な複雑さ:ウイルスベクターはパッケージング細胞によるウイルス作製とタイターの正確な計測などの操作が必要になります。従来のプラスミドを使った遺伝子導入と比べてこれらは高い技術の習熟が必要となり、時間もかかります。

ウイルスベクタータイプ

生物医学研究で利用される一般的なウイルスベクターにはレンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルスなどがあり、それぞれ長所と短所があります。下の表に実験計画に応じたウイルスベクターの選択に必要な情報がまとめられています。

レンチウイルス AAV アデノウイルス
親和性 広範 ウイルス血清型に依存 特定細胞タイプに低効率
非増殖細胞への感染能

一過的 or 恒久的発現

恒久的 一過的, エピソーム 一過的, エピソーム
最大ウイルスタイター 高い 高い 非常に高い
プロモーターのカスタマイズ
主な使用環境 培養細胞 & in vivo In vivo In vivo
生体内の免疫原性 低い 非常に低い 高い

ウイルスベクターの選択方法についてはこちらから

トランスポゾンベクター View more 
メリット

恒久的なゲノムへの挿入:プラスミドベクターによって宿主細胞へ導入された遺伝子は時間経過とともに失われてしまいます。この問題は増殖速度の速い細胞では特に顕著になります。一方でトランスポゾンベクターはヘルパープラスミドと共に使用することで遺伝子を宿主細胞ゲノムに挿入するために遺伝子が恒久的に維持されます。

簡便さ:パッケージングなどが必要なウイルスによる遺伝子導入と比べて、従来のプラスミドベクターによる遺伝子導入法は簡便です。

デメリット

細胞タイプが限定される:トランスポゾンベクターの細胞への導入効率は細胞タイプに依存します。非増殖細胞は一般的に増殖細胞よりも効率が悪く、プライマリ細胞は不死化細胞株よりも効率が悪くなります。いくつかの細胞タイプ、神経細胞や膵臓β細胞への遺伝子導入は非常に困難になります。プラスミドによる遺伝子導入はin vitro用途に限定され、in vivo用途にはほとんど使用されません。これはトランスポゾンシステムにも当てはまります。