OD260からのDNA・RNA濃度計算
ヌクレオチドの濃度を正確に測定することは、ベクタークローニングやPCR、トランスフェクション、組換えウイルスのパッケージングなどの、分子生物学的実験に不可欠です。ベクタービルダーのOD260計算ツールを使うことで、分光光度計で測定したOD260の値からDNAやRNAの濃度が算出できます。
OD260 の基本
光学濃度 260 (OD260) は、溶液中に懸濁している分子によって、どれだけの光が吸収されるかを測定します。ヌクレオチドの塩基構造にみられる複素環構造の最大吸収波長は260nmであるため、波長260nmの放出光の吸収量から溶液中のヌクレオチドの濃度を正確に測定することができます。溶液のOD260 は、ほとんどの研究室でみられる一般的な装置である、分光光度計を用いることで測定することができます。pHや緩衝液の種類、グアニン含量、また非特異的なヌクレオチドのコンタミネーションなどは、 OD260 の測定に影響するため、濃度を測定するときに考慮する必要があります。
ランベルト・ベールの法則
ランベルト・ベールの法則は、物質の中を通過する際の光の減衰について表した式です。ここでは、A=吸光度、ε=モル吸光率、l=光路長、c=濃度とします。この法則を分光光度計に当てはめると、サンプルが特定の波長の光をどれだけ吸収するかを測定すれば、RNAやDNAの濃度が分かることになります。分光光度計は、サンプルに光ビームを照射し、反対側から出てくる光を測定します。吸光度は、サンプルを通過する前と通過した後の光強度Iの変化から得られます。
図1. ランベルト・ベールの法則に基づいた、溶液中の溶質の濃度と透過する光の減衰の式。
モル吸光率
モル吸光率は、モル消衰係数とも呼ばれ、物質が特定の波長の光をどの程度吸収するかを示す尺度で、L/(mol*cm)の単位で表されます。モル吸光率は、分光光度計により一連の既知濃度の物質の吸光度を測定し、ランベルト・ベールの法則に当てはめることで、実験的に決定されます。光路長が一定かつ分子のモル吸光率が既知であれば、吸光度から水溶液中のDNAとRNAの濃度を直接算出することができます。一本鎖DNA、二本鎖DNA、一本鎖RNAの平均モル吸光率を以下に示します。分光光度計でOD260を測定するときに、これらの係数を図1の式に当てはめることで、溶液中のヌクレオチド濃度の計算式 (図2) が得られます。
一本鎖DNAの濃度 = OD260 x 33 (μg/ml)
二本鎖DNAの濃度 = OD260 x 50 (μg/ml)
一本鎖RNAの濃度 = OD260 x 40 (μg/ml)
図2. 測定したOD260値からDNA, RNA濃度を計算する式。