注目のサイエンス   |   2023年04月26日

mRNA医薬の基礎

mRNA医薬はCOIVD-19ワクチンとしての利用などのために急速に注目を集めています。どうしてmRNAは優れた医薬品となり得るのかについて説明するために、まずはmRNA分子の基礎から見ていきましょう。

mRNAの構造と特徴

図1. mRNA構造の模式図

図1の左側から見ていきましょう。真核生物のmRNAは、転写後反応や酵素反応によってmRNAの5’末端に付加される7-メチルグアノシンキャップを持ちます。このキャップ構造はmRNA安定性やタンパク質への翻訳効率の制御のために必須です。この付加反応はRNAホスファターゼ、N7-メチルトランスフェラーゼ、O-リボースメチルトランスフェラーゼなどの一連の酵素によって触媒されます。この一連の複雑な反応をin vitroで再現することは困難ですが、新しいmRNA技術の開発により、この反応をワンポットで行うことができるようになりました。

次のmRNA分子の重要部分は、5’および3‘非翻訳領域(UTR)です。これらは遺伝子内に存在していますが、リボソームによって機能的なタンパク質に翻訳されることはありません。しかし、マイクロRNAなどの制御因子の標的となったり、2次構造をとることによって翻訳効率の上昇に寄与します。

mRNA分子内の実際のコーディング配列は5’-UTRと3’-UTRの間に存在し、開始コドン(AUG)で始まり、ストップコドン(UGAなど)で終わります。mRNA分子は核酸塩基のアデニン、グアニン、シトシン、ウラシルで構成されています。mRNAワクチンにとって重要な点は抗原に特異的な免疫反応を引き起こせること、非特異的な免疫副反応を最小限にすることです。自然免疫系のために、私たちの細胞は外来性mRNAを認識することで様々な免疫副反応を引き起こします。

mRNA合成反応に修飾ヌクレオチドを取り込ませると外来性mRNAに対する副反応を抑えることが出来ます。図2に示すように、RNAワクチンに用いられる最も一般的な修飾ヌクレオチドは、5-メチルシトシンとN1-メチルプソイドウラシルの2種類です。これらのヌクレオチドによって、ワトソン・クリックの塩基対を適切に維持しながら、mRNA分子を異物として認識する細胞の自然免疫系を回避できます。両ヌクレオチドはtRNAで見つかりましたが、mRNA医薬へと応用されました。

図2. mRNA医薬に利用される通常のヌクレオチドと修飾ヌクレオチドの構造

脂質ナノ粒子

mRNA分子は非常に大きくて極性があるために、細胞の脂質2重膜を透過できません。mRNAを脂質ナノ粒子でカプセル化することによって、mRNA分子の効果的な細胞質への運搬が可能になります。脂質を含むエタノール層とmRNAを含む水層を素早く混ぜ合わせることによって、mRNAがカプセル化された~100nmほどの脂質ナノ粒子(LNP)を作製できます。LNPは細胞膜と融合し、内部のmRNAを細胞質へと放出します。

LNPを用いたmRNAデリバリーの問題点のひとつはエンドソームトラップです。LNPは細胞膜へ融合したあとにエンドソーム分画へ移行してしまい、エンドソーム内のmRNAは翻訳されることなく分解されてしまいます。イオン化された脂質のpKa値と脂質分子の尾部の組成の最適化によってエンドソームトラップを抑えることが出来ます。

脂質ナノ粒子を構成する脂質の組成は様々な使用目的に応じて多様で、実験的に最適化されています。カチオン性とイオン化性の脂質はほとんどのLNPに使用されています。加えて、安定性や生体内分布を改善するためにコレステロール、リン脂質やPEGを含む脂質が利用されます。

図3. ベクタービルダーで作製した脂質ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像

結論

mRNAの設計や脂質ナノ粒子の組成など、mRNA医薬の効果を高めるファクターは数多く存在します。治療法に応じてこれらのファクターを最適化する必要があります。ウイルス感染、癌、代謝異常など多様な遺伝子疾患の予防や治療のためにmRNA医薬の治験が進んでいます。mRNA医薬と脂質ナノ粒子技術は、過去50年以上にわたって研究されてきましたが、COVID-19 mRNAワクチンの承認により、ヒト治療薬の有力な選択肢として浮上してきました。

mRNA医薬は将来有望な治療技術です。mRNA医薬プロジェクトをご計画でしたらベクタービルダーのmRNA遺伝子デリバリーソリューションズをご覧ください。

参考文献

Qin, S., Tang, X., Chen, Y. et al. mRNA-based therapeutics: powerful and versatile tools to combat diseases. Sig Transduct Target Ther 7, 166 (2022). https://doi.org/10.1038/s41392-022-01007-w

Hou, X., Zaks, T., Langer, R. et al. Lipid nanoparticles for mRNA delivery. Nat Rev Mater 6, 1078–1094 (2021). https://doi.org/10.1038/s41578-021-00358-0

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