MMLV レトロウイルス遺伝子発現ベクター

MMLVレトロウイルスベクターの概要

MMLVレトロウイルスベクターシステムは哺乳細胞へ恒久的に遺伝子を導入できる優れた方法で、特に、iPS細胞作製のための遺伝子導入によく利用されています。.

MMLVレトロウイルスベクターは、レトロウイルス科に属する、モロニーマウス白血病ウイルス(Moloney murine leukemia virus, MMLV)に由来します。野生型MMLVは、プラス鎖線状RNAゲノムを有しています.

MMLVベクターは、まず、大腸菌プラスミドとして構築し、その後、複数のヘルパープラスミドと共にパッケージング細胞へトランスフェクトします。パッケージング細胞では、2つのLong terminal repeats (LTR)間に挟まれた領域がRNAへ転写され、ヘルパープラスミドから産生されたウイルスタンパク質にパッケージングされます。生きたウイルスは上清へ放出され、この上清液は直接あるいは濃縮後、ターゲット細胞の感染に使用されます。

ターゲット細胞内に運ばれたウイルスRNAはDNAに逆転写された後、宿主ゲノムへランダムに組み込まれます。ベクター構築時に、2つのLTR間に挿入された遺伝子は、残りのウイルスゲノムとともに宿主ゲノムへ恒久的に挿入されます。

MMLVレトロウイルスベクターはウイルスパッケージングと遺伝子導入に必要な遺伝子を欠損し、代わりにこれら遺伝子はウイルスパッケージングに使用されるヘルパープラスミドに組み込まれています。このため、レンチウイルスから生成されるウイルスは、細胞に導入されても複製はされず、安全に配慮されたシステムとなっています。

本ベクターシステムの詳細については、以下の文献をご参照下さい。

文献 トピックス
Exp Hematol. 31:1007 (2003) レビュー
J Virol. 61:1639 (1987) パッケージングシグナル伸長によるMMLVベクター力価の増加
Gene Ther. 7:1063 (2000) パッケージング細胞種によるMMLVベクターの指向性
Nat Protoc. 6:346 (2011) パッケージングプラスミドによるMMLVベクターの指向性

MMLVレトロウイルスベクターの特徴

MMLVプラスミドベクターは、大腸菌で高コピー数で複製されます。高力価ウイルスパッケージングが可能で、宿主細胞へのウイルス導入効率にも優れ、トランスジーンを高レベルで発現させることができます。

MMLVレトロウイルスベクターのメリット

ベクターDNAの恒久的な組み込み: 一般的なトランスフェクションでは、ベクタープラスミドは時間の経過と共に失われるため、DNAの導入は一過性で、分裂速度の早い細胞においては特に不安定となります。しかしながら、レトロウイルスでは、宿主ゲノムへ組み込まれるため、恒久的に遺伝子を導入することができます。

広範な組織指向性: ベクタービルダーのパッケージングシステムではウイルス表面にVSV-Gエンベロープタンパク質を発現しています。VSV-Gエンベロープタンパク質は幅広い指向性を持つため、非分裂細胞を除き、一般的によく用いられる生物種(哺乳動物以外のいくつかの生物種においても)由来の細胞に効率よく導入することができます。

大きなカーゴスペース: 野生型MMLVレトロウイルスのゲノムサイズは~8kbです。ウイルスパッケージングと導入に必要なコンポーネント分~2.5kbを差し引くと、搭載スペースは~5.5kbになります。ベクタービルダーのMMLVベクターは、ORFのみを挿入するようにデザインされているため、この挿入スペースはほとんどの使用目的に十分な大きさです。

高レベル発現: 5’LTRのユビキタスかつ強力なプロモーターで、目的遺伝子を高レベルで発現させることができます。

遺伝子導入の均一性が高い: 一般的に、ウイルスによる導入は比較的バラツキが少なく、細胞間で均一にベクターを導入することができます。反対に、一般的なトランスフェクション法では、ある細胞では高コピー数、またある細胞では低コピー数あるいは全く導入されなかったりと、プラスミドベクターの導入は非常に不均一になります。

In vitroとin vivoでの使用: 主にin vitroで培養細胞の導入に使用されますが、生きた動物の細胞へ導入する場合にも使用することができます。

安全への配慮: ウイルスパッケージングと導入に必須な遺伝子を複数のヘルパープラスミドに分散、あるいはパッケージング細胞に組み込むことにより、安全性を高めています。ベクタビルダーのベクターから産生されたウイルスは、複製能を欠失させています。

MMLVレトロウイルスベクターのデメリット

5’LTRプロモーターへの依存: 目的遺伝子は5’ITRのプロモーター機能によって、ユビキタスに発現されます。レンチウイルスベクターと異なり、自由にプロモーターを選択することはできません。

中程度のウイルス力価: パッケージング細胞上清から得られるウイルス力価は、濃縮をしない場合~10^7/mlで、レンチウイルスよりも1桁程度低くなります。

非分裂細胞への導入が困難: 非分裂細胞への導入は困難です。

技術的な難しさ: MMLVウイルスベクターを形質導入に使う前に、 ウイルス産生細胞に複数のプラスミドDNAをトランスフェクトして、生きたウイルス粒子を作成させ、精製し、ウイルスのタイターを測定するなど、形質導入までにこなさなければならない様々な作業があります。これらの作業は、一般的なプラスミドのトランスフェクション法に比べ、技術的に習熟するまでの期間や、さらに実際のウイルス作製日数も長くかかります。

ベクタービルダーのMMLVレトロウイルスベクターの基本コンポーネント

MMLV 5' LTR: MMLV retrovirus 5’ long terminal repeat。5’ LTRと3‘LTRは同一の配列で、ウイルスゲノムの両端に同方向で配置されています。ウイルス導入の際、3' LTRのシークエンスは5' LTR上にコピーされます。5' LTRはウイルスゲノムの転写を駆動するプロモーター、3' LTRは転写を終結させるためのポリA付加シグナルとして機能します。

Ψ plus pack2: ウイルスRNAをウイルスにパッケージングするために必要なMMLVレトロウイルスパッケージングシグナルです。

Kozak: Kozakコンセンサス配列。真核細胞において翻訳開始を促進させるため、目的遺伝子ORFの開始コドン直前に配置します。

ORF: 目的遺伝子のOpen reading frameをここに配置します。ORFは、5’ITRのユビキタスなプロモーター機能によって発現されます。

MMLV 3' LTR: MMLV retrovirus 3’ long terminal repeat。3' LTRのポリA付加シグナルは、上流ORFの転写を終結させます。

pUC ori: pUCの複製起点であるpUC oriをコードするプラスミドは、大腸菌において高コピー数で保持されます。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。アンピシリンによってプラスミド導入大腸菌を選択します。

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