概要
レンチウイルス条件的遺伝子ノックアウトベクター(Floxed)は、VectorBuilderの高効率第三世代レンチウイルスベクターシステムとCreを介した条件的遺伝子ノックアウトシステムを組み合わせることによって、宿主細胞ゲノムにCreを介して遺伝子発現の恒久的な不活性化を引き起こすことができます。Floxedシステムは、LoxP組換え配列を目的遺伝子の両側に配置して、Cre依存性にコード配列を欠失させて遺伝子発現を不活化させます。Creリコンビナーゼ非存在下では目的遺伝子は発現しますが、本ベクターが導入された細胞へ、さらにCreを導入すると目的遺伝子を切除し、恒久的に欠失させることができます。
レンチウイルスベクターシステムは哺乳類細胞へ恒久的に遺伝子を導入できる優れた方法です。レンチウイルス条件的遺伝子ノックアウトベクターは、目的のLoxP-目的遺伝子-LoxPカセットは、2つのLTR(long terminal repeats)のあいだにクローニングし、まず大腸菌プラスミドとして構築します。その後、複数のヘルパープラスミドと共にパッケージング細胞へトランスフェクトします。パッケージング用のウイルス産生細胞では、5’側と3’側の両方にLong Terminal Repeats (LTR)に挟まれたDNA領域がRNAに転写されます。このウイルスゲノムは、ヘルパープラスミドによって生成されたウイルスタンパク質にパッケージングされウイルス粒子となります。レンチウイルスはウイルス産生細胞から細胞培養液上清へ放出されますが、この上清液は直接あるいは濃縮後、目的の研究用に準備したターゲット細胞の感染に使用されます。
ウイルス粒子をターゲット細胞に感染させるとウイルスRNAゲノムは細胞内に取り込まれ、DNAに逆転写された後に宿主ゲノムへ挿入されます。2つのLTRに挟まれたLoxP遺伝子配列は他のウイルスゲノムと共に宿主ゲノムへ挿入され、恒久的に維持されます。そして、目的遺伝子の発現はCreリコンビナーゼ存在下で遺伝子を欠失させ、不活化できるようになります。
当社のレンチウイルスベクターはウイルスのパッケージングや感染に必要になる遺伝子群が取り除かれています。これらの遺伝子はヘルパープラスミドから提供されます。レンチウイルスベクターによって生産されるウイルスは複製不能(細胞に感染はできるが複製はできない)なので安全です。本ベクターのみでは、2つのLoxP配列間で組換えを起こすことはできません。Creとの共発現が必須であり、Cre発現ベクターまたはCre mRNAのどちらかを要しますのでご注意ください。
当ベクターシステムおよびCreを介した組換えに関する詳細な情報については、下記の文献を参照してください。
特長
当ベクターは、哺乳類細胞と生体でのCreを利用した条件的遺伝子ノックアウトを可能にします。初期状態では目的の遺伝子が発現しますが、Creリコンビナーゼの共発現によって恒久的に発現停止させることができます。当ベクターは第三世代レンチウイルスベクターを基に開発されています。E.coliでの高コピー数複製、高タイターのウイルス作製、広範囲な細胞タイプへの高効率なウイルスの感染、宿主ゲノムへの遺伝子挿入および高レベル発現を実現します。
メリット
安定した遺伝子不活性化: Cre組換え反応は目的遺伝子をコードする配列を恒久的に除去して、その転写を防止します。
ベクターDNAの恒久的な組み込み: 従来の方法で宿主細胞へ導入されたベクターDNAはほとんどが時間経過とともに失われます。この問題は増殖が速い細胞では特に顕著になります。一方でレンチウイルスベクターは宿主ゲノムへのベクターDNA挿入による恒久的な目的遺伝子の導入が可能です。
高いウイルスタイター: 当社のレンチウイルスベクターは非常に高いタイターのウイルスを作製できます。当社のウイルス作製サービスを利用すれば>10⁹ TU/mlが可能です。このレベルのタイターならば適量のウイルス上清を使うことで100%近い遺伝子導入効率が得られます。
非常に広範な指向性: 当社のウイルスパッケージングシステムはVSV-Gエンベロープタンパク質をウイルス表面に追加してあるので幅広い指向性を実現しています。その結果、すべての一般的な哺乳類細胞といくつかの非哺乳類細胞への遺伝子導入が可能です。さらに、ほとんどの哺乳類細胞タイプ(増殖・非増殖細胞、プライマリー細胞、確立された細胞株、幹細胞、分化細胞、接着・非接着細胞など)に遺伝子を導入することも可能です。従来の遺伝子導入法では難しかった神経細胞も当社のレンチウイルスベクターならば確実に遺伝子導入できます。当社のシステムを用いて作製されたレンチウイルスベクターはアデノウイルスベクター(いくつかの細胞タイプへの形質転換効率が低い)やMMLVレトロウイルスベクター(非増殖細胞の形質転換が困難)よりも広範な指向性を持ちます。
遺伝子導入の相対的均一性: 従来のプラスミドベクターによる遺伝子導入法は導入ベクターコピー数が細胞ごとに大きなばらつきが生じますが、一般的にウイルスによる遺伝子導入は導入ベクターコピー数が比較的に均一になります。
in vitroおよびin vivoでの有効性: レンチウイルスベクターは培養細胞と生体の両方に対して効果的です。特にCreによる条件的遺伝子ノックアウトが導入されたトランスジェニック動物の作製に適しています。
安全性: 当ベクターの安全性はふたつの点から保証されます。ひとつめはウイルスのパッケージングと感染に必要な遺伝子群がヘルパープラスミドに移されていること、ふたつめは5' LTR-ΔU3はプロモーター活性をもたないので感染時にウイルスRNAが転写されません。そのために、複製可能なウイルスが発生する可能性はなく、当社のベクターを使用することによる健康へのリスクは最小限になります。
デメリット
限定的な搭載容量: 野生株のレンチウイルスゲノムはおよそ9.2kbです。当社のベクター上でウイルスのパッケージング、感染に必要なコンポーネントに2.9kbが割り当てられ、およそ6.3kbを実験目的に利用できます。このサイズ上限を超えた場合、ウイルスタイターは劇的に減少します。通常、当社のベクターには目的遺伝子の他にもプロモーター、薬剤耐性マーカー等が組み込まれます。もし長大な遺伝子を組み込むなどの理由で総サイズが6.3kbを超えるならばウイルス生産に支障をきたすこともあります。
技術的複雑性: レンチウイルスベクターはパッケージング細胞によるウイルス生産とタイターの計測などの操作が必要になります。従来のプラスミドを使った遺伝子導入と比べてこれらは高い技術の習熟が必要となり、時間もかかります。
基本コンポーネント
CMV promoter: ヒトサイトメガロウイルス初期イミディエイトエンハンサー/プロモーター。パッケージング細胞におけるウイルスRNAの転写を駆動します。このRNAはその後、生ウイルスにパッケージングされます。
5' LTR-ΔU3: HIV-1の5‘LTR(long terminal repeat)に欠失を起こしたもの。レンチウイルス野生株の5‘LTRと3' LTRは相同配列です。これらはウイルスゲノムの両端に位置し、同じ方向を向いています。ウイルスの組み込み時に、3' LTRの配列が5' LTRにコピーされます。LTRはプロモーターとポリアデニル化シグナルの両方の機能があり、野生株では5‘LTRはウイルスゲノムを転写するプロモーターとして、3‘LTRは転写を終結させるためのポリアデニル化シグナルとして機能しています。当社のベクターでは、5' LTR-ΔU3はウイルスの転写因子TatがLTRのプロモーターを活性化するために必要な配列が欠損しています。しかしながら、5' LTR-ΔU3 上流のCMVプロモーターが代わりにプロモーターとして機能するため、この欠損はパッケージング時のウイルスRNAの産生に影響を受けません。
Ψ: ウイルスRNAのパッケージングに必要なHIV-1パッケージングシグナル。
RRE: HIV-1 ウイルス発現調節因子感受性配列(Rev response element)。ウイルスRNAのパッケージング時のRevタンパク質によるウイルスRNAの核外輸送に必要です。/p>
cPPT: HIV-1 中央ポリプリン配列(Central polypurine tract)。細胞感染中にウイルスゲノムの核内輸送を促進させるためのDNAフラップを形成します。ベクターの宿主ゲノムへの挿入効率が上昇され、形質転換効率を高めます。
Promoter: 目的遺伝子の発現用プロモーター。
LoxP: Creリコンビナーゼの組換え配列。Creが存在すると、2つのLoxPサイトに挟まれた領域が切り出されます。
Kozak: Kozakコンセンサス配列。真核生物における翻訳開始を促進すると考えられているため、目的のORFの開始コドンの直前に配置されます。
ORF: 発現させたい目的遺伝子。
WPRE: ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子。3' LTRでのウイルスRNAの転写終結を助けることでパッケージング細胞内の機能的なウイルスRNAの量を増加させ、高ウイルスタイターを実現します。また、目的遺伝子の転写終結を助けることで発現レベルを高める役割も持ちます。
mPGK promoter: マウスホスホグリセリン酸キナーゼ1プロモーター。下流のマーカー遺伝子を普遍的に発現させます。
Marker: 薬剤選択用遺伝子(ネオマイシン耐性など)や視覚化用遺伝子(EGFPなど)、もしくはデュアルレポーター遺伝子(EGFP/Neoなど)。ベクターが導入された細胞の薬剤選択や可視化が可能になります。
3' LTR-ΔU3: HIV-1の3‘LTRのU3領域に欠損を起こしたもの。ウイルスベクター挿入過程で3' LTRが5' LTRを上書きするために、プロモーター不活性型の5' LTR-ΔU3が宿主ゲノムへ挿入されます。3’LTR-ΔU3 のポリアデニル化シグナルはウイルスパッケージング中と宿主ゲノムに挿入後のすべての転写反応を終結させます。
SV40 early pA: シミアンウイルス40初期ポリアデニル化シグナル。パッケージングにおいて、3’LTR以降のRNA転写を終結させます。パッケージング細胞でウイルスRNAの機能レベルが上昇し、ウイルスタイターが向上します。
Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。 アンピシリンによってプラスミド導入大腸菌を選択します。
pUC ori: pUC複製起点。大腸菌においてプラスミドを高コピー数で保持できます。