{[speechBalloon]}
期間限定・通年キャンペーン10-15%OFF
入門編:遺伝子導入に関する説明   |   2025年06月11日

遺伝子デリバリーセミナーシリーズ:iPS細胞を用いた神経変性疾患リスクのモデリング

キーワード: Gene delivery seminar series, iPSCs, neurodegenerative disease, CRISPR

アルツハイマー病(AD)をはじめとする神経変性疾患のメカニズムを解明することは極めて重要かつ喫緊の課題です。現在、世界中で3,000万人がADに罹患しており、2050年までにその数は1億人に達すると予測されています。AD症例のほとんどは発症が遅く、、遺伝的リスク因子と関連していますが、これらのリスク遺伝子が疾患発症にどのように寄与しているのかは未だ解明されていません。

VectorBuilderの遺伝子デリバリーセミナーシリーズでは、NIH Stadtman Investigatorのプリヤンカ・ナラヤン博士に、iPS細胞(人工多能性幹細胞)がADやその他の神経変性疾患の研究をいかに変えつつあるかについての知見を共有していただきました。彼女の研究室では、エンドサイトーシスや遺伝的リスク変異といった細胞内の反応がどのように作用してADの病態を進行させるかに着目し、革新的な研究を行っています。

iPS細胞の力

神経やグリア細胞といった脳細胞を直接研究することは、ヒトの脳組織の入手が限られているため困難であり、また、癌細胞培養のような一般的なモデルでは、脳特異的な細胞型の複雑な生理機能を捉えきれません。しかし、体細胞を多能性幹細胞へとリプログラミングし、その後、転写因子を用いて特定の機能細胞へと分化させる技術は、神経科学研究に革命をもたらしました。

ナラヤン博士の研究室では、iPS細胞技術を活用し、患者由来のiPS細胞からニューロン、アストロサイト、ミクログリアなどの脳細胞を作製しています。この手法により、研究者は疾患をモデル化し、制御された環境下でリスク遺伝子を研究することが可能になります。iPS細胞から特殊な細胞を作製する一般的な手法には、以下の2つがあります。:

  1. 低分子化合物による分化 – 細胞周期制御を含む発生経路を模倣する合成分子を用いる手法
  2. 転写因子を介した分化 – レンチウイルスやpiggyBacトランスポゾンシステムを用いて転写因子を長期的に発現させ、標的細胞型への分化を誘導する手法

これらの進歩により、細胞生物学や疾患の病態に関する様々な研究が促進されました。ナラヤン博士の研究室では、CRISPR技術を用いて同じ個人の細胞に突然変異を導入または修正した同系モデルを作製し、遺伝的リスク因子の研究を可能にしました。

図 1. iPS細胞からアストロサイトへの分化タイムライン(Narayan et al. 2020より改変)

エンドサイトーシスとアルツハイマー病

ナラヤン博士の研究テーマの一つは細胞外物質を細胞内に取り込むための重要なプロセスであるエンドサイトーシスです。エンドソーム輸送に関わる主要な経路であるクラスリン介在性エンドサイトーシスの機能不全が、ADに関与しているとされています。研究室のAPOE遺伝子に関する研究は、重要な知見をもたらしました。APOEはコレステロールなどの脂肪を脳へ輸送する役割を担い、バリアント4(APOE4)を保有しているとAD発症の確率が高まります。このメカニズムとして、エンドサイトーシス経路の機能不全が関与している可能性が示唆されています。

特筆すべきは、ナラヤン博士の研究室が、遅発性AD患者(APOE4保有)と健常者(APOE3保有)の両方からCRISPR編集した同系細胞株を用いてAPOEの生物学を研究した点です。これにより、遺伝的背景の違いによる変異型遺伝子型の影響を他の要因の影響を除外し、バリアント遺伝子型の影響を直接比較することが可能になりました。その結果、APOE4陽性ニューロンが初期エンドソーム抗原1(EEA1)の発現増加を示すのに対し、APOE4を発現するアストロサイトではEEA1の発現が減少し、エンドソームのサイズが小さくなり、機能が損なわれていることを発見しました。 

これらの機能不全を改善するため、ナラヤン博士は、ADにも関連するエンドサイトーシスアダプタータンパク質であるPICALMを過剰発現させることで、APOE4によって引き起こされた欠陥を回復できるかどうかを調べました。そして、レンチウイルスベクターを用いて以下のことを証明しました。:

  1. PICALMの過剰発現は、APOE4バリアントを発現するアストロサイトにおいて、エンドサイトーシス機能を回復させました。
  2. 興味深いことに、同じくPICALMを過剰発現させるとAPOE3バリアントを発現するアストロサイトでは正常なエンドサイトーシスを阻害しました。これは、遺伝子バリアント間の相互作用の複雑さをさらに浮き彫りにしました。

この研究は、異なるエンドサイトーシスアダプターや経路がどのようにクラスリン介在性エンドサイトーシスを調節し、他の既知のリスク因子とどのように相互作用するかについて、さらなる疑問を提起しています。

図 2. APOE4アストロサイトにおけるPICALM過剰発現は初期エンドサイトーシスを回復させるが、APOE3アストロサイトではエンドサイトーシスを阻害する。これは、蛍光リガンド(EGFRまたはTfR)の取り込み増加によって観察される。(Narayan et al. 2020より改変)

VectorBuilderとのパートナーシップ

ナラヤン博士の研究室は現在、これらの結果からAPOE4介在性のエンドサイトーシス障害のメカニズムを解明し、PICALMがどのようにこれらの欠陥を回復させるのかをさらに研究しています。これらの研究を推進するため、ナラヤン博士の研究室はVectorBuilderと提携し、ウイルスのベクターデザインにおける専門知識を活用することで、実験を効率化し、信頼性が高く、再現可能な結果を得ています。VectorBuilderは、最適化されたコンポーネントを使用することで、遺伝子発現の精密な制御を可能にするカスタムソリューションを提供しています。特殊な細胞型を精密に操作する技術は、神経変性疾患の理解を深めるために重要な新規メカニズムの発見というナラヤン博士の研究目標をサポートしました。

最後に

ナラヤン博士のセミナーは、アルツハイマー病(AD)のメカニズムをよりよく理解するために、CRISPR編集iPS細胞技術やその他の高度な遺伝子デリバリーツールの応用を浮き彫りにし、より効果的な治療法の開発への道筋を示しました。患者由来の細胞モデルと高度な遺伝子工学を組み合わせることで、彼女のチームは神経変性疾患のさらなる理解と治療への道を切り開いています。

ナラヤン博士のセミナーは、こちらからご視聴いただけます。遺伝子デリバリーに関するあらゆるニーズは、いつでもVectorBuilderチームがお手伝いします。

参考文献

Narayan P, Sienski G, Bonner JM, Lin YT, Seo J, Baru V, Haque A, Milo B, Akay LA, Graziosi A, Freyzon Y, Landgraf D, Hesse WR, Valastyan J, Barrasa MI, Tsai LH, Lindquist S. PICALM Rescues Endocytic Defects Caused by the Alzheimer's Disease Risk Factor APOE4. Cell Rep. 2020 Oct 6;33(1):108224. doi: 10.1016/j.celrep.2020.108224. PMID: 33027662; PMCID: PMC8190562.

Maninger JK, Nowak K, Goberdhan S, O'Donoghue R, Connor-Robson N. Cell type-specific functions of Alzheimer's disease endocytic risk genes. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2024 Apr 8;379(1899):20220378. doi: 10.1098/rstb.2022.0378. Epub 2024 Feb 19. PMID: 38368934; PMCID: PMC10874703.

Pavathuparambil Abdul Manaph N, Sivanathan KN, Nitschke J, Zhou XF, Coates PT, Drogemuller CJ. An overview on small molecule-induced differentiation of mesenchymal stem cells into beta cells for diabetic therapy. Stem Cell Res Ther. 2019 Sep 23;10(1):293. doi: 10.1186/s13287-019-1396-5. PMID: 31547868; PMCID: PMC6757413.

Rajendran L, Honsho M, Zahn TR, Keller P, Geiger KD, Verkade P, Simons K. Alzheimer's disease beta-amyloid peptides are released in association with exosomes. Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Jul 25;103(30):11172-7. doi: 10.1073/pnas.0603838103. Epub 2006 Jul 12. PMID: 16837572; PMCID: PMC1544060.

Wilson JM, de Hoop M, Zorzi N, Toh BH, Dotti CG, Parton RG. EEA1, a tethering protein of the early sorting endosome, shows a polarized distribution in hippocampal neurons, epithelial cells, and fibroblasts. Mol Biol Cell. 2000 Aug;11(8):2657-71. doi: 10.1091/mbc.11.8.2657. PMID: 10930461; PMCID: PMC14947.

World Health Organization. Dementia fact sheet. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/dementia

Wurdak H, Zhu S, Min KH, Aimone L, Lairson LL, Watson J, Chopiuk G, Demas J, Charette B, Halder R, Weerapana E, Cravatt BF, Cline HT, Peters EC, Zhang J, Walker JR, Wu C, Chang J, Tuntland T, Cho CY, Schultz PG. A small molecule accelerates neuronal differentiation in the adult rat. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Sep 21;107(38):16542-7. doi: 10.1073/pnas.1010300107. Epub 2010 Sep 7. Erratum in: Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Dec 21;107(51):22360. Halder, Rajkumar [added]. PMID: 20823227; PMCID: PMC2944756.

Please let us know what you would like to hear from us about the latest technologies or discoveries by leaving feedback or contacting us.
マイベクターをデザインする デザインサポートを依頼する