ベクターデザインの落とし穴:レンチウイルスベクターで、同じプロモーターを使用して2つの遺伝子を発現させる
キーワード: レンチウイルス, ベクターデザイン, 反復配列
目的遺伝子(GOI)とマーカー(抗生物質耐性や蛍光レポーター)を同時に発現させるために、レンチウイルスベクター上に2種類の遺伝子発現カセットを組み込むことは、頻繁に行われます。しかしながら、2つの発現カセットに同じプロモーターを採用することは、ベクターデザイン上の落とし穴となり、上流側の遺伝子の発現抑制の原因となり得ます。この場では、2種類の蛍光タンパク質レポーターを発現するレンチウイルスベクターを幾つか作製し、この遺伝子発現の抑制効果について調査した結果を説明します。
2種の遺伝子発現カセットの両方がCMVプロモーター(568bp)を持つケースでは、下流側のレポーター遺伝子は97%の安定トランスダクション細胞にて発現している一方で、上流側のレポーター遺伝子は12%の細胞のみで発現が確認されます(図1A)。この現象は特定のレポーター遺伝子の組み合わせのみで観察されるわけではなく、レポーター遺伝子の位置を入れ替えたケースでも、上流側のレポーターの発現は14%の細胞でのみ観察されます(図1B)。よりサイズの大きなEF1⍺プロモーター(1,179 bp)を使用したケースでは、より顕著な発現抑制がみられ、上流側のレポーターは~1%程度の細胞でのみ発現が観察されます(図1C)。一方で、2種の発現カセットそれぞれに異なるプロモーター(EF1⍺とCMV)を使用したケースでは、上流/下流のレポーターそれぞれ96%、91%の細胞で発現が観察できました(図1D)。
この遺伝子発現抑制効果は、レンチウイルスベクターの由来となるヒト免疫不全ウイルスタイプ1(HIV-1)の生活環に関連したものと思われます。HIV-1ウイルスは、宿主細胞内における逆転写反応の間に組み換えが発生する2本の一本鎖RNAゲノムを持ちます。そのため、同じプロモーターを持つレンチウイルスベクターにおいては、プロモーター配列間の組み換えの発生による上流側のORFの欠損が起こることで、上流レポーターの発現抑制につながる結果となります。
プロモーター内の相同配列の長さが組み換えに影響を及ぼすかどうかを調査するために、内部に279bpの相同配列を持つCBAとCMVプロモーターを上流と下流の遺伝子発現カセットに使用しました。このケースでは、トランスダクション細胞の~32%が上流側のレポーター遺伝子を発現する結果となります(図1E)。組み換えの発生頻度は、プロモーター内の相同配列に比例することが示唆されます。
これらの事実は、ある程度の長さの相同配列は組み換えとそれによる発現抑制効果を引き起こす可能性があることを示唆しています。例えば、EF1⍺とCMVプロモーターからレポーター遺伝子を発現するベクターのプロモーターとレポーターの間に、アミノ酸をコードしない249bpのstuffer配列を挿入した場合では、上流側レポーターの発現は19%にまで減少しました(図1F)。レンチウイルスベクターをデザインする際に反復配列を避けることで、深刻な悪影響を回避することができます。

図1 レンチウイルスベクター上の潜在的な配列組み換えによる上流側の遺伝子発現の消失。293T細胞にレンチウイルス(MOI=10)を感染させ、ピューロマイシンにて選択を行った。安定感染細胞の選択後、2種類の蛍光マーカーの発現をFACSで定量した。
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