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入門編:遺伝子導入に関する説明   |   2025年02月14日

CRISPRはこちら : 送達方法の選び方

キーワード: CRISPR送達, プラスミド, ウイルス, mRNA, RNP

CRISPR/Cas9遺伝子編集システムは生物学に革命をもたらしました。培養細胞や動物モデルにおける遺伝子機能研究から農業作物の改変、ヒト遺伝子疾患の原因遺伝子の編集において、様々な遺伝的改変(遺伝子ノックアウトノックイン発現活性化及び発現抑制)が可能になりました。どのような遺伝的改変を行うためにも、標的細胞へのCRISPRコンポーネントの送達は必須となり、プラスミドRNA、リボ核酸‐タンパク質複合体、ウイルスベクターなど、様々な送達方法が利用されています(図1)。本稿では、それぞれのCRISPR送達方法のメリットとデメリットに焦点を合わせ、前臨床臨床研究への移行も含めた、多様な実験目的に応じて最適な方法を検討する時に考慮するべき事柄について紹介していきます。

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図1 CRISPR/Cas9送達方法

非ウイルス性CRISPR送達システム

プラスミド送達

最も安価でシンプルな外来性の遺伝要素の送達法は、プラスミドのトランスフェクションです。ひとつのプラスミド上にCas9エンドヌクレアーゼとgRNAを同時に搭載することも、それぞれを2つの独立したプラスミドに分割して搭載することもできます。細胞内に導入され、Cas9の転写&翻訳とgRNAの転写が発生した後にCRISPR複合体が形成されます。転写&翻訳反応が必要になることから、プラスミドによる送達はCas9エンドヌクレアーゼ活性が生じるまで最も時間がかかることになります。一方で、プラスミドは安定であることから長期間のCRISPRコンポーネント発現が可能になるので、高度なクロマチン構造のためにDNAが凝集しているなど、標的配列へのアクセスが難しいケースではメリットがあります。時間経過と細胞プロセス進行によるクロマチン構造変化によって、CRIPSR複合体の標的DNA領域へのアクセスが容易になります。しかしながら、この方法の主なデメリットとして、Cas9の持続的な発現によるオフターゲット効果が増加して非標的部位における切断が発生する可能性があること、プラスミドが細胞のゲノムへ挿入されるなどの突然変異のリスクが存在します。

オフターゲット効果を軽減するためには、プラスミドベクターのデザイン時に工夫を加える必要があります。例えば、Cas9に分解シグナルタグを付加することや切断活性を低下させる抑制ドメインを融合することが挙げられます。別の方法としては、CRISPRコンポーネント発現の為に誘導型発現システムを採用することで、光や化学物質による外部刺激によってのみCas9タンパク質が発現するようにデザインします。テトラサイクリン誘導システムはポピュラーな誘導型発現システムで、テトラサイクリンとそのアナログ(ドキシサイクリン)の存在下で活性化するテトラサイクリン応答プロモーターを利用してCas9を発現します。ひとつの細胞株に複数の遺伝子編集が必要な場合は、まずテトラサイクリン誘導型Cas9発現安定細胞株を作製しておくと、オフターゲットを最小限に抑えることができます。

プラスミドの調製は比較的シンプルで、スケールアップも容易です。しかしながら、エンドトキシンや細菌の増幅に必要なベクターコンポーネントのコンタミネーションは、免疫反応を引き起こすリスクがあるために安全性への懸念が残ります。これを克服するためには、プラスミドベクター上の細菌由来の因子のほとんどを取り除いた、最小化プラスミドバックボーン(MiniVec™)を使用することが挙げられます。

ウイルスによる送達とは異なり、非ウイルス性CRISPR送達方法には、細胞膜を通り抜けるための手段が必要です。プラスミド送達の場合は物理的手段(エレクトロポレーション、マイクロインジェクション)やキャリアー(脂質ナノ粒子(LNP))を利用できます(図2、表1)。臨床用途にはLNPが適しています。物理的手段と比べて、LNPは標的細胞への損傷を与えることはなく、送達物をカプセル化することで安定性を高めて血流内の長期間の還流を可能にします。一方で、LNPはエンドソーム経路に依存して細胞内へ侵入するために、エレクトロポレーション法やウイルス送達と比べてLNPの送達効率は、かなり低くなります。

DNA送達の複雑さと高いオフターゲット効果のリスクがあることから、プラスミドベクターを用いた開発中のCRISPR治療法はありません。しかしながら、標的細胞におけるオフターゲット効果を検証できるならば、シンプルで費用対効果が高いプラスミド送達は研究用途に適しています。

RNA送達

CRISPRコンポーネントをRNA(Cas9 mRNAとgRNA)として送達する方法は、細胞質内の転写反応をスキップしてCas9の翻訳を即座に開始できるため、プラスミドよりも効果が高くなります。RNAはその不安定性のために細胞内での急速に分解されるために、RNA送達はCRISPRコンポーネントの一過的発現が必要な短期間の実験に適しています。これによって、オフターゲット効果のリスクを高める長期間のCas9発現を抑えることで、特異性を高めることができます。また、ゲノムへの挿入が起こらないため、DNAを用いた送達方法よりも安全であると考えられています。しかしながら、プラスミド製造と比べて、RNA製造プロセスは高コストであり複雑な技術が必要となるので、大規模製造は困難が伴います。

プラスミドと同様に、RNAもマイクロインジェクション、エレクトロポレーション、そしてLNPによる送達が可能です。ファイザー社とモデルナ社のCOVID-19ワクチンがLNPを使用しているように、RNA医薬品としてLNPの使用が適していることが証明されています。CRISPR mRNA LNP療法が将来的に有望であることは、トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTR)の治療法が第1相臨床試験中となっていることからもわかります。今のところ承認されている治療法は、時間と労力がかかり、費用が高いex vivoによる改変が必要となりますが、この治療法はin vivoで行われることが際立っています。

RNP送達

CRISPRコンポーネントをRNPによって送達することが、ウイルスを使用しない最も効率的な方法となります。転写も翻訳も必要ないため、Cas9タンパク質とgRNAは即座に核に移行して、ゲノム編集を開始します。加えて、RNA送達と同様にゲノムへの配列挿入が起こらず、一過性発現のためにオフターゲット効果を最小化できます。しかし、RNPはプロテアーゼによる分解を受けやすく、プラスミドやmRNAに比べて安定性が低くなるために、特に臨床現場での取り扱いと保管に課題が生じています。更に、RNPの製造はプラスミドやRNAよりも労力がかかり高額になります。タンパク質製造過程には、臨床用途における安全性の問題となり得る有毒物質の混入のリスクがあります。

RNP送達には、エレクトロポレーションがもっとも効率的な手段となり、ex vivo遺伝子編集やマウス胚のゲノム編集において成功を収めています。RNPをカプセル化したLNPの静脈注射によって、CRISPRコンポーネントを効果的に筋肉、脳、肺、肝臓に送達できることがわかっています。

鎌状赤血球症の治療用のCasgevyが最初のCRISPR治療薬として承認されているなど、RNPを用いたCRISPR治療法は、今のところ一番の成功を収めています。この治療薬は、RNPとしてCRISPRコンポーネントをex vivoで患者の細胞にエレクトロポレーションで送達し、編集された細胞をスクリーニングして患者の体内に戻すことで機能します。

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図2 非ウイルス性CRISPRコンポーネント送達方法

送達方法 モダリティ メリット デメリット
エレクトロポレーション DNA, mRNA or RNP 幅広い種類の細胞で高効率 細胞への損傷
マイクロインジェクション DNA, mRNA or RNP 単一細胞レベルで効率的で、大きな分子も送達可能 高い技術が必要で、細胞に損傷が生じる
LNPs DNA, mRNA or RNP FDAによる承認実績あり 細胞の種類によっては効率が低下・ばらつきが生じる

表1  非ウイルス性CRISPRコンポーネント送達方法の比較

ウイルス送達

ウイルスベクターは細胞へのCRISPRコンポーネント送達が容易になるため、頻繁に利用されます。トランスフェクションが困難な分化細胞に対しては、特に有効となります。ウイルスのタイプによってはin vivoトランスダクションにも利用されます。ウイルスベクターの製造には、CRISPRコンポーネントをトランスファーベクターにクローニングした後に、ウイルス粒子へのパッケージングする、追加の作業が必要となります。ウイルスパッケージング作業のために、非ウイルス性ベクターの製造と比べて、ウイルスベクター製造のスケールアップがさらに難しくなります。レンチウイルス、AAV、アデノウイルスは最もポピュラーなCRISPR遺伝子編集用ウイルスベクターであり、それぞれのウイルスはメリットとデメリットがあり、実験目的に応じて適/不適があります(表2)。

送達方法 効率 安定性 臨床上の安全性 推奨用途
レンチウイルス
(-80℃、6ヶ月間保管)

(ゲノムへの挿入変異)
In vitro、ex vivo
AAV
(-80℃、1年間保管)
In vivo
アデノウイルス
(-80℃、1年間保管)

(高い免疫原性)
In vivo

表2 CRISPRウイルス送達法の比較。主要なメリットは緑色、デメリットは赤色で強調表示。

レンチウイルス送達

レンチウイルスは、エレクトロポレーションと同様に高い遺伝子送達効率を持つので、大規模スクリーニング用のCRISPRライブラリー等のCRISPRコンポーネント送達手段として非常に頻繁に利用されます。このベクターシステムは、ウイルスゲノムが宿主ゲノムに挿入されて長期間発現するため、多くの過剰発現実験に有益である点も魅力的です。しかし、挿入変異誘発のリスクがあるために安全性の懸念があるために、in vivoでの臨床使用は限定的となっています。その代わりにレンチウイルスベクターは主に研究用途や細胞のex vivo改変に使用されています。その結果、レンチウイルスを用いたがん治療用のCAR-Tやベータサラセミア治療用のZyntegloがFDAに認証されるなどの成功を収めています。レンチウイルスによるCRISPRコンポーネントの送達の際には、永続的なCas9の発現に起因するオフターゲット効果が問題となる可能性があります。これについては、誘導型発現システムや、ゲノムへの挿入効率が~500倍低下しているインテグラーゼ欠損レンチウイルス(IDLV)を使用することで改善することができます。一般的にIDLVは通常のレンチウイルスと比較して低いトランスダクション効率を持ちますが、有糸分裂後ニューロンでは、in vitroおよびin vivoの両方で同等の効率を示します。このことは、将来的にIDLVが中枢神経系を標的とする臨床応用に有用があることを示唆しています。

AAV送達

CRISPRを用いたAAV療法は、免疫原性が低く、挿入突然変異誘発のリスクが低いため、in vivoアプリケーションにおいて特に大きな期待が寄せられています。事実、CRISPRコンポーネントを送達するAAV9の静脈内投与によって、マウスモデルと霊長類モデルの両方でHIVの治療に成功しています。

遺伝子導入ベクターとしてのAAVの主なデメリットは、非常に限られた搭載可能なDNA量(~4.7 kb)と、レンチウイルスと比較して低いトランスダクション効率です。搭載可能なDNA容量不足を補うために、黄色ブドウ球菌由来の小さいCas9(SaCas9)を使用するか、Cas9とgRNAを別々のベクターで送達することになります。別の方法としては、SpCas9を2つのベクターに分割し、トランスダクション後に完全なCas9タンパク質が組み立てられるように設計することもできます。

明確なデメリットもありますが、AAVは多様なセロタイプを使用して特定の組織をターゲティングできることから非常に有用なツールとなります。AAVカプシド進化によって全く新しい変異カプシドを作り出すことさえ可能です。変異カプシドのin vitroまたはin vivoスクリーニングによってターゲティング能の向上や治療特性を改善できます。

今のところ、FDA承認がされたCRISPRを用いたAAV療法はありませんが、脊髄性筋萎縮症の治療に使用されるゾルゲンスマなど、遺伝子の過剰発現を利用したいくつかのAAVベースの薬がすでに使用されています。

アデノウイルス送達

アデノウイルスは、一般的にレンチウイルスよりも安全であると考えられており、多数の臨床試験で説得力のある安全性記録が残されているうえに、ゲノム挿入が発生するリスクがありません。アデノウイルスベクターは、レンチウイルスやAAVに比べて搭載可能DNA量が大きいですが、免疫原性が高いため、遺伝子編集の効率が低下する可能性があります。最も一般的に使用されるセロタイプであるヒトアデノウイルス5(Ad5)は、感染指向性が限定的であり、コクサッキーおよびアデノウイルス受容体(CAR)を発現する細胞にのみ効率的なトランスダクションが可能です。この問題への対処として、Ad5/F35などの改良Ad5が開発されており、Ad5/F35キメラアデノウイルスはCAR受容体を発現しない細胞への感染を可能にしています。高い免疫原性を抑制するために、ウイルスパッケージングに必須のウイルス由来配列以外を取り除いたガットレスアデノウイルスも開発されていて、追加のメリットとして搭載可能DNA量が33kbに拡大されています。

遺伝性疾患やがんなど、様々な疾患を標的とする多くのアデノウイルスを用いたCRISPR療法の臨床利用は有望視されています。マウスを用いた研究では、アデノウイルスのin vivo治療への適合性が証明されており、現在進行中の第1/2a相臨床試験では、HIV治療薬としてEBT-101を静脈内投与する試験が行われています。FDAはアデノウイルス遺伝子治療薬を承認していますが、FDA承認を得たアデノウイルスのCRISPR治療薬はまだありません。

最後に

非ウイルスからウイルスまで利用可能なシステムの選択肢が広いため、CRISPRコンポーネントや他の遺伝物質の送達に最適なシステムを選択することは難しい問題です。実験目標によって最適な選択は異なるため、さまざまな要因(恒常性/一過性発現、in vitro/in vivo、臨床移行する予定あり/なし、など)を慎重に検討する必要があります(表3)。CRISPR送達ベクターの設計と製造は、デザインが難しく、時間と費用がかかる場合もあります。

VectorBuilderは、様々な非ウイルス/ウイルスベクターシステムの取り扱いに豊富な経験を持っており、初期実験デザインから臨床までサポートできます。近年の臨床試験と最初のCRISPR薬のライセンス供与は、非常に効果的なCRISPRベースの薬を開発し、利用して幅広い疾患を治療できる可能性を示しています。

モダリティ 効率 送達手段 安定性 製造 コスト 臨床安全性 FDA承認のCRISPR薬 適した用途
プラスミド エレクトロポレーション
マイクロインジェクション
LNPs
シンプルでスケールアップも容易 安価
(コンタミネーションとオフターゲット効果)
× 長期間のin vitro遺伝子編集
mRNA エレクトロポレーション
マイクロインジェクション
LNPs

(RNaseによる分解)
中程度のスケールアップ難度
(一過性発現により、オフターゲット効果を低減)
× in vitro / in vivoでの迅速かつ簡便な遺伝子編集
RNP エレクトロポレーション
マイクロインジェクション
LNPs

(プロテアーゼによる分解)
スケールアップが難しい 高額
(一過性発現により、オフターゲット効果を低減)
Casgevy 迅速かつ簡便な遺伝子編集とex vivo臨床用途
ウイルス
(使用ウイルスベクターに依存)
Direct viral transduction
(使用ウイルスベクターに依存)
スケールアップが難しく、手間がかかる 非常に高額 ウイルスタイプに依存
(免疫原性とオフターゲット効果のリスク)
× トランスフェクションが困難な細胞や臨床用途

表3  CRISPRコンポーネント送達に関するモダリティの比較。主要なメリットは緑色、主要なデメリットは赤色で強調表示。

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