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入門編:遺伝子導入に関する説明   |   2026年06月16日

CRISPRライブラリースクリーニングを簡単に | パート2:スクリーニングの実施

キーワード: CRISPRライブラリースクリーニング, in vitro and in vivoスクリーニング, 抗生物質による死滅曲線, レンチウイルスの機能タイター

CRISPRスクリーニングは、生物学的パスウェイや細胞プロセスに関与する重要な因子を同定するための強力な手法です。このCRISPRスクリーニングに関するブログシリーズのパート1では、適切な生物学的システムの選択、gRNAライブラリーの設計、およびライブラリーの調製など、ライブラリーの設計と作製における重要な考慮事項について解説しました。

パート2では、スクリーニングを成功させるための重要な考慮事項について解説するとともに、さまざまなタイプのCRISPRスクリーニングの実際の研究例を交えながら、その機能や有効性について紹介します。本記事は、スクリーニング後のデータ解析や結果の解釈をテーマとする今後の投稿への足がかりとなる内容です。

スクリーニング前の重要な考慮事項

  • 抗生物質の死滅曲線の作成

    in vitroでCRISPRスクリーニングを実施する際、形質導入に成功した細胞を選択するために、ライブラリーに抗生物質耐性マーカーを組み込むことがよくあります。しかし、抗生物質に対する本来の感受性(内在性の耐性)は細胞型によって異なります。そのため、効果的なスクリーニングを実現するには、死滅曲線アッセイ(図1)を行って抗生物質の最適な濃度をあらかじめ決定しておくことが極めて重要です。

    Workflow of CRISPR-based knockout screens employing pooled gRNA lentivirus libraries.

    図1.死滅曲線の例(疑似データ)

  • ライブラリーの機能タイターの決定

    前回のブログ記事で解説したように、gRNAライブラリーを導入するアプローチはいくつかありますが、in vitroスクリーニングにおいては、レンチウイルスが最もポピュラーな選択肢です。レンチウイルスライブラリーの作製後は、使用する標的細胞における機能タイターを評価することが重要となります。これは、トランスダクション効率が細胞型によって大きく異なる可能性があるためです。機能タイターを決定する方法はいくつか存在しますが、適切な手法を選択するためにはライブラリーの構造をしっかりと理解しておく必要があります。例えば、VectorBuilderのホールゲノムデュアルgRNAライブラリー は、蛍光タンパク質、薬剤耐性遺伝子、あるいはqPCRの利用など、複数の方法で機能タイターを測定できます。機能タイターを確定させることは、スクリーニングに適したMOIを選択する上で不可欠であり、これは必要な細胞数や試薬の量の決定に直接影響するだけでなく、さらに重要な点として、ヒット因子の同定精度を左右します。

  • 信頼性の高いスクリーニングの達成に必要な材料量の算出

    機能タイターが決定すれば、レプリケーション数、目標とするライブラリーのカバレッジ、用いるMOIなどに基づいて、in vitroスクリーニングに必要な細胞数やウイルス粒子数を算出できます。これらの要因はすべて、スクリーニング計画、スクリーニング後のデータ解析、および利用可能なリソースに依存します。例えば、細胞1個あたりに導入される変異を1つに維持することは重要ですが、MOIが低すぎると必要な細胞数とウイルス粒子数が著しく増加するため、スクリーニングの実施自体が難しくなる可能性があります。

    必要な細胞数を直接算出できるin vitroスクリーニングとは異なり、間接in vivoスクリーニングでは、有効なカバレッジが移植時の細胞生存率に強く影響されます。この生存率はモデルによって異なるため、確実なライブラリーカバレッジを達成するのに必要な動物生体数を予測するには、まず細胞の生存率を見積もる必要があります。

    CRISPRライブラリーのin vivo送達は、生体本来の環境のままで細胞に変異を導入できるというメリットがありますが、動物体内への直接的な送達は技術難易度が高くなります。さらに、送達方法や送達効率は、標的組織や細胞型に大きく依存します。主に細胞1個あたり1つの変異を導入するために低いMOIを利用できるin vitroや間接in vivoスクリーニングとは異なり、in vivoで同等レベルの制御を維持することは困難です。これとは対照的に、細胞1個あたり複数の変異が導入されることを許容すれば、必要な試薬量を削減することができます。

CRISPRスクリーニングによる生物学的因子の解明

適切な生物学的システムの選択、ライブラリーの設計と調製、そして抗生物質濃度の最適化やライブラリーの機能タイターの決定、必要な試薬量の算出といった実験セットアップの入念な最適化など、CRISPRスクリーニングの基本を理解した後に得られる、この技術の真に素晴らしい点は、様々な生物学的問題の回答を得ることができることです。過去10年間にわたり、研究者はスクリーニングを利用して、遺伝子機能、制御経路、および複雑な分子ネットワークを解明してきました。以下では、発表された論文から、実際のCRISPRスクリーニングの動向を示すいくつかのケースについて解説します。

  • In vitroスクリーニング

    CRISPRスクリーニングの有効性を示した初期の画期的な研究の1つが、2014年に Ophir Shalem ら によって報告されました。この研究は、ゲノムワイドのCRISPR–Cas9ノックアウト(GeCKO)ライブラリーが、プール型のレンチウイルスとしてがん細胞および多能性細胞の両方に送達され、ネガティブセレクションとポジティブセレクションの両方のスクリーニングにおいて柔軟に使用できることを示しました。GeCKOライブラリーは、同一のベクター内にCas9、gRNA、およびpuromycin耐性マーカーをコードしているため、あらかじめCas9安定発現細胞株を作製しておく必要がありません(図2A)。このライブラリーは構成的な5′エキソンを標的としており、1遺伝子あたり平均3〜4つのgRNAが割り当てられています。

    ネガティブセレクションスクリーニングでは、ほとんどの細胞に確実に単一の変異が導入されるよう、2種類のヒト細胞株にGeCKOライブラリーを低いMOI(0.3)で形質導入しました。形質導入された細胞を濃縮するためのpuromycin選択を行った後、細胞集団を培養して14日後にディープシーケンスにより解析しました(図2B)。その結果、必須遺伝子を標的とするgRNAが枯渇していることが判明し、gRNA解析を通じて、細胞の生存に不可欠な遺伝子を同定することができました。

    Workflow of CRISPR-based knockout screens employing pooled gRNA lentivirus libraries.

    図2. GeCKOライブラリーのゲノムワイドネガティブセレクションスクリーニングへの応用。(A) ライブラリーのベクターデザイン。(B) GeCKOライブラリーを用いたin vitroスクリーニングのワークフロー。Ophir Shalem et al., 2014, Scienceより改変。

    GeCKOライブラリーは、メラノーマ細胞におけるBRAF阻害剤Vemurafenibに対する耐性に関与する遺伝子を同定するためのポジティブセレクションスクリーニングにも使用されています。形質導入とpuromycin選択の後、細胞をVemurafenibで処理し、生存した細胞を複数の処理期間で回収しました。ディープシーケンスの結果、Vemurafenib処理後に濃縮されたgRNAが明らかになり、機能喪失によって薬剤耐性を高める遺伝子が特定されました。上位のヒット因子のうち2つは以前に報告されていたものであり、実験コンセプトの正しさが確認できた一方、その他の特定因子は、治療の成功率を高めるためのモジュレーションの潜在的な新ターゲットとなりました。

  • In vivoスクリーニング

    レンチウイルスライブラリーは、プール型ライブラリーのスケーラブルかつ確実な送達を可能にするため、in vitroでのCRISPRスクリーニングに広く使用されてきました。しかし、これをそのままin vivoに適用することは容易ではありません。これを解決するため、 Chunlong Xu ら は、PB transposonシステムを利用してゲノムワイドgRNAライブラリーをハイドロダイナミック尾静脈注射によってマウスの肝臓に送達し、gRNAライブラリーをゲノムへ安定的に組み込ませる技術を開発しました。

    複数コピーのコンストラクトをゲノムへ効率的に挿入するために、著者らはライブラリーバックボーンを最小限のgRNA発現カセットを含むように最適化しました。送達効率の評価は、EGFPを発現するPB transposonベクターを同時に注射することで行われました。ハイドロダイナミック注射の後、肝臓全体で強力なEGFP蛍光が観察され、効率的に送達できることが実証されました。

    システムの構築後、研究チームはゲノムワイドCRISPR gRNAライブラリーを、トランスポサーゼを発現するベクター、および腫瘍形成を可視化する追加のベクターと共に注射しました(図3)。注射の45日後に肝腫瘍が発生し、各腫瘍内に存在するgRNAを増幅してディープシーケンスにより解析しました。濃縮されたgRNAの一部は、よく知られているがん抑制遺伝子を標的としていましたが、他にはCdkn2bなど、これまでマウスの肝がんでの関与が指摘されていなかった遺伝子も含まれていました。さらなる検証実験により、Cdkn2bの機能喪失が肝臓での腫瘍形成を強力に促進することが実証されました。

    Types of in vivo CRISPR screens based on different read-outs

    図3. PB トランスポゾンシステムを用いたin vivo CRISPRスクリーニング。(A) マウス肝臓へのPB-CRISPRライブラリーの送達。(B) スクリーニングから得られた代表的な肝腫瘍。Chunlong Xu et al., 2016, PNASより改変。

    本研究は、CRISPRスクリーニングの対象を培養細胞から動物生体へと拡張し、遺伝子機能をin vivoで直接解析できることを実証しました。本来の生理学的な病態環境において、疾患に関連する遺伝子を解き明かすin vivo CRISPRスクリーニングの有効性を浮き彫りにしています。

培養細胞でのプール型スクリーニングから、動物における大規模な遺伝子セットへの直接的な変異導入に至るまで、CRISPRスクリーニングは、多種多様な細胞プロセスに関与する遺伝子を体系的に解き明かすことを可能にします。このアプローチが極めて有用であることは証明されていますが、信頼性と再現性のあるデータを収集するためには細心の注意を払う必要があります。慎重に設計されたライブラリー、最適化された送達方法、信頼性の高い検出系、そして最適化された実験セットアップを組み合わせることで、CRISPRスクリーニングはバイアスを生じることなく生物学的機能を解析し、新たなターゲットを特定するための技術となります。。本シリーズの次回の投稿では、スクリーニングデータの解釈方法と、CRISPRスクリーニングから得られる知見を最大限に高める方法について解説します。

参考文献

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Kuhn, M., Santinha, A. J., & Platt, R. J. (2021). Moving from in vitro to in vivo CRISPR screens. Gene and Genome Editing, 2, 100008.

Uijttewaal, E. C., Lee, J., Sell, A. C., Botay, N., Vainorius, G., Novatchkova, M., ... & Elling, U. (2025). CRISPR-StAR enables high-resolution genetic screening in complex in vivo models. Nature Biotechnology, 43(11), 1848-1860.

Santinha, A. J., Strano, A., & Platt, R. J. (2025). Methods and applications of in vivo CRISPR screening. Nature Reviews Genetics, 26(10), 702-718.

Shalem, O., Sanjana, N. E., Hartenian, E., Shi, X., Scott, D. A., Mikkelsen, T. S., ... & Zhang, F. (2014). Genome-scale CRISPR-Cas9 knockout screening in human cells. Science, 343(6166), 84-87.

Xu, C., Qi, X., Du, X., Zou, H., Gao, F., Feng, T., ... & Wu, S. (2017). Proceedings of the National Academy of Sciences, 114(4), 722-727.

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