CRISPRライブラリースクリーニングを簡単に | パート1:成功のためのセットアップ
キーワード: CRISPR screening, gRNA library design, in vitro and in vivo models, library preparation
CRISPRスクリーニングは、生物学研究で広く使用されている技術であり、特定の生物学的プロセスに関連する遺伝子を同定し、遺伝子機能を調査するための強力なアプローチとなります。研究者は、全ゲノムまたはパスウェイ特異的なgRNAライブラリーを細胞集団に導入することにより、薬物治療、競合的増殖、ウイルス感染など、様々な条件下で遺伝子摂動が細胞の挙動にどのように影響するかを大規模に調べることができます。
プール型CRISPRスクリーニング
プール型CRISPRスクリーニングでは、様々なgRNAと(必要に応じて)Cas9を搭載した多数のベクターがデザイン、クローニングされ、in vitroまたはin vivoでターゲット細胞群に導入されます。その後、ターゲット細胞群に選択圧がかけられ、目的の特性を持つ細胞がスクリーニングされます。例えば、生存率に対するポジティブまたはネガティブセレクション、あるいはマーカーを使用した選別などが挙げられます。その後、ハイスループットシーケンシングとデータ解析により、これらの特性に関与する必須遺伝子、制御パスウェイ、および分子ネットワークが特定されます。下の図は、CRISPRノックアウトスクリーニングのワークフローを示しています。CRISPRノックアウト(KO)、CRISPRa、CRISPRiなど、異なるタイプのCRISPRスクリーニングは、特定の研究目的に合わせたアプローチとアプリケーションを提供します。これら総合的に使いこなすことで、細胞プロセスの理解を深め、複雑な生物学的および疾患関連の問題を解決する新たな機会が生み出されます。

図1. CRISPRベースのノックアウトスクリーニングのワークフロー。 出典: Acta Biochim Biophys Sin 44:103-112 (2012).
CRISPRライブラリースクリーニングを成功させるためには、実験の初期段階からいくつかの重要な事項を考慮する必要があります。本ブログ記事シリーズのパート1では、適切な生物学的システムの選択や研究目的に特化したライブラリーの設計など、ライブラリースクリーニングの初期段階に焦点を当てます。このシリーズの次回では、スクリーニング戦略と読み取り(リードアウト)方法について解説します。
生物学的システム
CRISPRライブラリーデザインに関する多くの考慮事項は、ウイルスベクターを使用するか非ウイルスベクターを使用するかを含めて、ターゲット細胞に依存します。スクリーニングはin vitroとin vivoの両方で実施できます。in vivo CRISPRスクリーニングは、直接アプローチと間接アプローチに大別できます。直接in vivoスクリーニングでは、gRNAライブラリーをターゲット臓器に直接送達し、細胞間相互作用、シグナル伝達ネットワーク、および組織構造が維持されたネイティブな環境内での細胞の摂動を可能にします。このアプローチは、in vitroスクリーニングよりも高い生理学的関連性と治療的洞察を提供します。ただし、動物の特定のターゲット臓器へのライブラリーの直接送達は技術的に困難な場合があり、組織サイズが限定されるため、ライブラリーのスケールアップが特に困難になります。加えて、十分なカバレッジを維持するために、複数の生体からのサンプルをプールする必要がある場合があります。一方で、間接in vivoスクリーニングでは、in vitroでgRNAライブラリーを導入した細胞を生体内の組織に移植します。このアプローチは、直接送達の多くの制限を回避できる、強力な代替手段となります。ただし、細胞移植が実行可能な実験システムにのみ限定的に使用可能です。
in vitroスクリーニングは、その簡便さとスケーラビリティから広く選択されています。特定の研究課題に合わせた生物学的に関連性の高い細胞タイプ(プライマリー免疫細胞や神経細胞など)でも実施することが可能です。不死化がん細胞株は、堅牢で維持が容易であり、大規模スクリーニングと互換性があるため、代表的な利便性の高いモデルとして頻繁に使用されます。スクリーニングのために細胞に導入されるgRNAライブラリーは、ほとんどの細胞が単一のgRNAベクターが導入されている状況を確保するため、一般的に高い遺伝子導入効率をもつレンチウイルスを低MOIで導入されます。
ゲノム編集を可能にするには、gRNAとCas9タンパク質(またはCasバリアント)の両方をターゲット細胞または組織で共発現させる必要があります。直接in vivoスクリーニングの場合、Cas9ノックインマウスなど、Cas9を発現するトランスジェニックモデルが一般的に使用されます。特筆すべきは、ユビキタスなCas9発現はオフターゲット切断につながる可能性があるため、Cre依存性LSL-Cas9マウスなど、条件付きおよび/または誘導性のCas9発現がしばしば採用されることです。これらのモデルによってライブラリーにCas9を搭載する必要性がなくなった結果、実験デザインを簡素化できます。あるいは、ライブラリースクリーニングの前に、安定したゲノム組み込みと持続的な発現を可能にするトランスポゾンシステムなどのベクターシステムを通じてCas9を供給することもできます。
in vitroスクリーニングまたは間接in vivoスクリーニングの場合、様々な手法でターゲット細胞内でCas9を発現します。CRISPRスクリーニングは、上記と同様にトランスジェニックCas9安定発現細胞に対して実施できます。それ以外の場合、Cas9(またはバリアント)は、ライブラリースクリーニングの前または最中にターゲット細胞に送達される必要があります。Cas9は、レンチウイルスまたはトランスポゾンシステムによって送達、Cas9発現確認後にgRNAライブラリーの送達する、もしくはCas9をライブラリーベクターに搭載することも可能です。
ライブラリー設計
CRISPRライブラリースクリーニングを成功させるには、ライブラリーの設計が極めて重要です。研究目的、ライブラリーサイズ、ターゲットあたりのgRNA数、ベクター設計など、重要な検討事項があります。
CRISPRノックアウト(KO)ライブラリーは、その強力かつ比較的容易な表現型解析が可能なことから一般的に使用されます。得られる細胞摂動は永続的であり、バイタルな機能を阻害する可能性があります。対照的に、CRISPRiおよびCRISPRaは、プロモーター領域をターゲットとすることに限定して不活型Cas9を使用した遺伝子転写抑制または活性化し、より穏やかな細胞摂動をもたらす傾向があります。オフターゲット効果のリスクが低く、必須遺伝子や非コーディングRNAの調節にも使用できます。
ライブラリーの大きさに関して、gRNAライブラリーには主に2つのタイプがあります。1)ヒトまたはマウスゲノム全体をターゲットとするなど、生物種特異的なゲノムワイドライブラリー、および2)転写因子、代謝遺伝子のノックアウト、またはlncRNA遺伝子などの非コーディング領域をターゲットとするものなど、特定の遺伝子セットや特定の経路に焦点を当てたターゲットライブラリーです。全ゲノムライブラリーは、ゲノム全体にわたる遺伝子機能を調査するため、偏りのないスクリーニングを提供します。対照的に、より小さく焦点を絞ったライブラリーは、選択圧が特定のパスウェイや遺伝子セットにどのように影響するかに関する既存の知識や仮説に基づいて設計されます。全ゲノムライブラリーはより広範な探索手段を提供しますが、大量の細胞やウイルス粒子など、より多くの材料が必要となり、スクリーニングの実現可能性に影響を与える可能性があります。したがって、スクリーニングの範囲と利用可能なリソースとの間でバランスを取ることが重要です。例えば、直接in vivoスクリーニングが最も適切である場合、より小さく、よりターゲットを絞ったライブラリーが最良の選択となります。
CRISPRスクリーニングライブラリーを設計する際には、各遺伝子をターゲットとするgRNAの数も慎重に検討する必要があります。研究では、遺伝子あたりのgRNA数を増やすと、特定されるヒットの数が継続的に増加し、遺伝子あたり最大4つのgRNAでより顕著な増加が観察されています。高効率のデュアルgRNA CRISPRライブラリーでは、上手くヒットを同定できる可能性を高めるために、各遺伝子あたり4~6組の異なるgRNAペアを持つベクターが用意されています。
ライブラリーベクターの設計は、CRISPRスクリーニングの全体的なパフォーマンスに直接影響します。重要な点として、ターゲット細胞がCas9を発現していない場合、ベクターはCas9とgRNA(シングル or デュアル)の両方を発現するように設計されなければなりません。シングルgRNAは通常、標準的なコーディング遺伝子のノックアウトに適していますが、デュアルgRNAを使用するとロバストなノックアウトが達成でき、gRNAターゲット領域間の断片が欠失する可能性があります。CRISPRiまたはCRISPRaスクリーニングの場合、ベクターはプロモーターまたはエンハンサーをターゲットとするgRNAを設計する必要があります。
他の遺伝子導入実験と同様に、CRISPRスクリーニングでも、適切な選択マーカーを備えたベクターを設計することが重要です。デュアルマーカーは一般的な選択肢であり、例えば、EGFPとピューロマイシン耐性遺伝子(Puro)のカセットを使用することで、ピューロマイシンによる遺伝子導入された細胞の選択と、緑色蛍光による可視化が可能になります。図2は、プール型 ヒト ホールゲノムデュアルgRNAライブラリーのベクターマップを示しています。これは、広範囲の細胞型で効率的、安定的、かつ比較的均一なgRNA発現を実現するために、第三世代レンチウイルスベクターシステムを使用しています。特筆すべきは、2つのgRNAが異なるU6プロモーター(ヒトU6とカニクイザルU6)によって駆動され、配列は異なるが機能的には同等であるgRNAスキャフォールドとペアになっていることです。この設計は、レンチウイルスパッケージング中に2つのgRNAカセット間で起こり得る望ましくない組換え(gRNAの喪失やノックアウトの失敗につながる可能性)を最小限に抑え、且つスクリーニング中に遺伝子導入された細胞からのgRNA(いずれかまたは両方)のPCR増幅とNGSシーケンシングを可能にします。
図2. デュアルgRNAライブラリーベクターのマップ
デュアルgRNAライブラリーベクターのアノテーション付きの完全なマップと配列を見る
レンチウイルスは、ニューロンや免疫細胞、筋細胞など、多くの分化細胞を含むほとんどの場合で有効な遺伝子導入手段ですが、特定の状況では他のウイルスシステムが適していることもあります。AAVは、in vivoスクリーニング、または送達を特定の細胞タイプをターゲットにする必要がある場合に強力な選択肢となります。ターゲット細胞とアプリケーションに応じて、ライブラリーはウイルスまたは非ウイルスのバックボーンで設計できます。ターゲット領域、Casの選択、gRNAの設計など、CRISPR実験の設計に関連するその他の考慮事項については、当社のブログ記事CRISPRの最適化で説明しています。
ライブラリー構築
CRISPRライブラリー設計後、gRNAオリゴは高精度で合成・増幅され、選択されたバックボーン(例:図2に示すバックボーン)に高効率でクローニングされる必要があります。次に、構築されたライブラリー内のベクターを検証し、ライブラリーの品質を確認する必要があります。当社では、ベクターコンポーネントの正確なクローニングを確認するための初期検証として、無作為に選択されたクローンに対してサンガーシーケンシングを実施し、その後、ディープシーケンシングによってライブラリーの完全な検証を行うことを推奨します(図3)。

図3. プール型gRNAライブラリー構築と品質管理のワークフロー
CRISPRライブラリー構築中のクローニングと大腸菌の増殖がベクターの不均一な増幅につながる可能性があるため、NGS検証はCRISPRライブラリーの品質を保証するために不可欠です。ライブラリーの品質を評価するために、NGSリードはリファレンスgRNAリストを参照して、各gRNAのリードカウントが決定されます。得られたデータから、ライブラリー内のgRNA分布とその均一性が評価されます。完全に一致したリードの割合や、分布の90パーセンタイルと10パーセンタイルの比率(90/10比)などのメトリックが、ライブラリーが均一な分布を示しているかを評価するためによく使用されます。90/10比は、90パーセンタイルのリードカウント(豊富に存在するgRNAを表す)を10パーセンタイルのリードカウント(低存在度のgRNAを表す)と比較します。比率が低いほど、豊富に存在するものと低く表現されているgRNAとの間のリードカウントの差が小さいことを示し、より均一でバランスの取れたライブラリーを反映しています。高いカバレッジ(例:100%に近い)と均一な分布(例:低い90/10比)を持つgRNAライブラリーは、バイアスのない効率的な下流スクリーニングを実施するために不可欠です。
プール型CRISPRスクリーニングは、遺伝子機能と生物学的メカニズムを研究するための強力なツールです。その成功は、生物学的システムの選択、ライブラリー設計、スクリーニング戦略を含む慎重な初期計画に依存します。ライブラリーの複雑性やベクター構成などの主要な要因が、パフォーマンスとデータ品質に直接影響します。このシリーズの今後の記事では、選択戦略、読み取り方法、データ解析のアプローチなど、スクリーニングに関連するトピックについて議論します。
参考文献