小さくても強力:AAVがいかにして医薬品開発の主要なウイルスベクターとなったか
キーワード: AAV, in vivo ウイルスベクター, セロタイプ指向性, 治療薬開発
遺伝子導入に広く用いられるウイルスベクターのアデノ随伴ウイルス(AAV)は、in vivo研究や医薬品開発のために最も選ばれているベクターとなっています。その理由は、非病原性で免疫原性が低いという優れた安全性プロファイルをもつことに加え、自然界に存在する多様なセロタイプによって広範な組織指向性が得られるためです。本記事では、なぜAAVが広く、特に医薬品開発で使用されるようになったのかを解説し、効率的な遺伝子導入のためにAAVの生物学特性の活用法を追いながら、ウイルスベクターとしての主要な利点と限界に焦点を当てていきます。
AAVの基礎
AAVは1960年代に、アデノウイルス精製物中の混入物として初めて同定されました。その後の研究により、この新しいパルボウイルスは“ヘルパー“ウイルスの存在なしにはヒト細胞内で効率的に複製できないことが明らかになりました。この依存性から「ディペンドウイルス」に分類され、複製に必要な因子を提供するアデノウイルスや単純ヘルペスウイルス等との共感染によってのみ、増殖が可能となります。
さらなる研究により、AAVはタンパク質のカプシドに包まれた約4.7 kbの一本鎖DNA(ssDNA)ゲノムを持つ、エンベロープを持たない小型ウイルスであることが判明しました(図1A)。AAVゲノム内の2つの主要なオープンリーディングフレーム(ORF)であるRepとCapは、複製タンパク質(Rep78、Rep68、Rep52、Rep40)と構造カプシドタンパク質(VP1、VP2、VP3)をコードします(図1B)。これらの構造タンパク質は60個のサブユニット(VP1が5個、VP2が5個、VP3が50個)に組み立てられ、正二十面体のカプシドを構成します。近年、cap遺伝子内に重複するかたちのORFが同定され、カプシドの組み立てを促進する組み立て活性化タンパク質(AAP)や、ウイルスの放出を促進する膜結合副タンパク質(MAAP)をコードしていることが明らかになりました。ゲノムの両端には、逆向き末端反復配列(ITR)が存在しています。これらは高度な構造を持ち自己アニーリングによってT字型のヘアピン構造を形成し、ウイルスの複製および新しいビリオンへのゲノムのパッケージングに不可欠な配列を含んでいます(図1B)。

図1. 野生型AAVの構造。(A) AAVのビリオン構造および (B) ゲノム構造。
AAVのライフサイクルは、ビリオンがホスト細胞表面の受容体に結合することから始まり、続いてクラスリン媒介性エンドサイトーシス経路などを介して細胞内に取り込まれます。ウイルスはエンドソーム脱出したあとに、プロテアソームで分解されるか、あるいは核へと輸送され、そこで脱殻(アンコーティング)が起こりssDNAゲノムを放出します。放出されたゲノムは、ホスト細胞の機能によって二本鎖DNA(dsDNA)に変換されます。アデノウイルスや単純ヘルペスウイルスなどのヘルパーウイルスが存在する場合、AAVは増殖(溶解)サイクルへと進みます。dsDNAは転写のテンプレートとして使用され、生成されたmRNAが細胞質へ輸送されてウイルスタンパク質へと翻訳されます。まずウイルス複製と効率的な転写に不可欠なRepタンパク質が発現し、その後にカプシドタンパク質(VP1、VP2、VP3)が生成されて核内へ輸送され、空(Empty)カプシドが形成されます。また、dsDNAはゲノムssDNAの複製用テンプレートとしても使用され、複製されたssDNAが空カプシドにパッケージングされます。新しく形成されたビリオンは核を出てホスト細胞膜へと移動し、細胞外へ放出されます。ヘルパーウイルスが存在しない場合、野生型(WT)AAVはホスト内で潜伏状態を維持し、エピソーマルな環状モノマーまたはコンカテマーとして生存し続けます。ヘルパーウイルスの共感染が発生すると、それが引き金となって、再活性化と溶解感染が起こります(図2)。

図2. 野生型AAVのライフサイクル
組換えAAV
AAVはゲノムおよびビリオン構造が比較的単純であるため、本来のssDNAゲノム配列を任意のDNA配列(長さ約4.2 kbまで)に置き換えてITR間に挿入することで、当該DNA配列を導入するように改変できます(図3)。

図3. 組換えAAVの作製
ユーザーが選択した配列をAAVにパッケージングする手法には、主に「トリプルトランスフェクション法」と、大規模製造向けの「バキュロウイルスシステム」の2つがあります。いずれの場合も、組換えビリオンの製造には、複製とカプシドの組み立てに必要なウイルスタンパク質と、パッケージング対象となるユーザー選択配列の両方を供給する必要があります。
トリプルトランスフェクション法は最も一般的に用いられる手法であり、AAVの複製、パッケージング、カプシド組み立てに必要な遺伝子と調節エレメントを提供する3種類のプラスミドを同時トランスフェクションします。これらには以下のものが含まれます:(1) ユーザーが選択した標的遺伝子(GOI)を搭載するトランスファープラスミド、(2) ゲノム複製に必要な複製タンパク質(Rep)と、標的指向性を決定するセロタイプのカプシドタンパク質(Cap)を提供するRepCapパッケージングプラスミド、(3) 効率的な複製に不可欠なアデノウイルス因子(E4、E2A、VA)を供給するヘルパープラスミド(図4A)。これらのプラスミドを、ヘルパー因子E1A/E1Bを安定発現するパッケージング細胞株にトランスフェクションした後、ウイルス粒子を回収、濃縮、精製して下流工程に使用します(図4B)。


図4. (A) AAV転送プラスミドおよびパッケージングプラスミドの構成図。(B) ユーザー選択のGOIをAAVにパッケージングするためのトリプルトランスフェクション法。
AAVベクターは使用目的に応じて、特にトランスファープラスミドとRep/Capプラスミドのデザインの検討が必要です。トランスファープラスミドは、プロモーター、トランスジーン、およびベクターバックボーンのコンポーネントを最適化することで最高のパフォーマンスを発揮します(図4A)。
プロモーターの選択は、標的細胞や組織において希望するレベルでトランスジーンを発現させるために極めて重要であり、実験目的に応じてさまざまなプロモーターを利用できます。多種多様な細胞タイプで強力かつ安定した発現が必要な場合は、CMVなどの構成的プロモーターが一般的です。しかし、in vivo AAVデリバリーにおいてCMVはサイレンシング(発現抑制)を受けやすいため、CAG、EF1α、CBhなどのプロモーターが代替されます。遺伝子発現を空間的・時間的により精密に制御したい場合は、組織特異的プロモーター(脳組織特異的SYN1など)や誘導型プロモーター(テトラサイクリン誘導システムなど)を使用できます。実験目的に適した既存プロモーターが見つからない場合は、ライブラリーのプロモータースクリーニングを実施することで、特異性の向上やサイズの縮小といった優れた特性を持つ新規プロモーターを見つけ出すことも可能です。
トランスジーン自体の発現を強化する、様々な最適化方法があります。一般的なアプローチの一つはコドン最適化であり、使用頻度の低いコドンを標的生物種で頻用されるコドンに置き換えることで、翻訳効率を高め、結果としてトランスジーンの発現を向上させます。また、CpGモチーフを減らすことで、トランスジーンに対するホストの免疫応答を抑制し、発現をさらに強化できます。さらに、トランスジーンは野生型(WT)AAVと同様の一本鎖AAV(ssAAV)、またはAAVゲノムが自己折り畳みによってdsDNAを形成するように設計された自己相補型AAV(scAAV)によってデリバリーできます。scAAVはあらかじめ二本鎖であるため、ホスト細胞による二本鎖DNA合成という律速段階をバイパスすることで効率を高めることができますが、搭載可能なトランスジーンのサイズは4.2 kbから2.1 kbへと制限されます。したがって、高い効率と迅速な発現が求められる小型のトランスジーンにはscAAVが適した選択肢となります。より大きなトランスジーンの場合は、2つの独立したベクターに分割してデリバリー後に標的細胞内で再構成する「デュアルAAV(Dual AAV)」を利用することで、AAVの搭載限界を克服できます。
WPREなどの調節エレメントを導入することで、トランスジーンの発現を高めることができます。ただし、WPREはウイルス由来であるため、臨床応用においては改変されたより安全なバリアントを使用する必要があります。
poly(A)テイルの長さの最適化は、翻訳効率、ひいてはトランスジーンの発現に大きな影響を与えるため重要です。
ITRの安定性維持はパッケージングとトランスジーン発現に重要です。ITRの安定性を高めるバックボーンの最適化(MuteFree™ AAVなど)は、一貫した製造性と治療効果の確保に役立ちます。
薬剤耐性遺伝子の選択は、将来的なAAVベクターの用途に基づいて決定されるべきです。非臨床研究では一般的にアンピシリン耐性が使用されますが、臨床試験を見据えた研究ではカナマイシン選択が好まれます。
Rep/Capプラスミドについては、異なるカプシドタンパク質をコードするCap遺伝子を導入することで、それぞれ独自の組織指向性を示すAAVセロタイプが作製されます。標的組織に対する組織指向性が判明している、多様な野生型および改変型セロタイプが利用できます(表1)。例えば、AAV9などの一部の野生型セロタイプは広範な標的化能力を持ちますが、AAV-PHP.eBやAAV-PHP.Sなどの改変型セロタイプはより特異的な指向性を持ち、それぞれ中枢神経系(CNS)や末梢神経系(PNS)の細胞を標的とします。
| セロタイプ | 組織指向性 |
|---|---|
| AAV1 | 平滑筋, 骨格筋, 中枢神経系, 脳, 肺, 網膜, 内耳, 膵臓, 心臓,肝臓 |
| AAV2 | 平滑筋, 中枢神経系, 脳, 肝臓, 膵臓, 腎臓, 網膜, 内耳, 精巣 |
| AAV3 | 平滑筋, 肝臓, 肺 |
| AAV4 | 中枢神経系, 網膜, 肺, 腎臓, 心臓 |
| AAV5 | 平滑筋, 中枢神経系, 脳, 肺, 網膜, 心臓 |
| AAV6 | 平滑筋, 心臓, 肺, 膵臓, 脂肪組織, 肝臓 |
| AAV6.2 | 肺, 肝臓, 内耳 |
| AAV7 | 平滑筋, 網膜, 中枢神経系, 脳, 肝臓 |
| AAV8 | 平滑筋, 中枢神経系, 脳, 網膜, 内耳, 肝臓, 膵臓, 心臓, 腎臓, 脂肪組織 |
| AAV9 | 平滑筋, skeletal muscle, 肺, 肝臓, 心臓, 膵臓, 中枢神経系, 網膜, 内耳, 精巣, 腎臓, 脂肪組織 |
| AAV-rh10 | 平滑筋, 肺, 肝臓, 心臓, 膵臓, 中枢神経系, 網膜, 腎臓 |
| AAV-DJ | 肝臓, 心臓, 腎臓, 脾臓 |
| AAV-DJ/8 | 肝臓, 脳, 脾臓, 腎臓 |
| AAV-PHP.eB | 中枢神経系 |
| AAV-PHP.S | 末梢神経系 |
| AAV2-retro | 脊髄神経 |
| AAV2-QuadYF | 内皮細胞, 網膜 |
| AAV2.7m8 | 網膜, 内耳 |
| 組織タイプ | 推奨するAAVセロタイプ |
|---|---|
| 平滑筋 | AAV1, AAV2, AAV3, AAV5, AAV6, AAV7, AAV8, AAV9, AAV-rh10 |
| 骨格筋 | AAV1, AAV9 |
| 中枢神経系 | AAV1, AAV2, AAV4, AAV5, AAV7, AAV8, AAV9, AAV-rh10, AAV-PHP.eB |
| 末梢神経系 | AAV-PHP.S |
| 脳 | AAV1, AAV2, AAV5, AAV7, AAV8, AAV-DJ/8 |
| 網膜 | AAV1, AAV2, AAV4, AAV5, AAV7, AAV8, AAV9, AAV-rh10, AAV2-QuadYF, AAV2.7m8 |
| 内耳 | AAV1, AAV2, AAV6.2, AAV8, AAV9, AAV2.7m8 |
| 肺 | AAV1, AAV3, AAV4, AAV5, AAV6, AAV6.2, AAV9, AAV-rh10 |
| 肝臓 | AAV1, AAV2, AAV3, AAV6, AAV6.2, AAV7, AAV8, AAV9, AAV-rh10, AAV-DJ, AAV-DJ/8 |
| 膵臓 | AAV1, AAV2, AAV6, AAV8, AAV9, AAV-rh10 |
| 心臓 | AAV1,AAV4, AAV5, AAV6, AAV8, AAV9, AAV-rh10, AAV-DJ |
| 腎臓 | AAV2, AAV4, AAV8, AAV9, AAV-rh10, AAV-DJ, AAV-DJ/8 |
| 脂肪組織 | AAV6, AAV8, AAV9 |
| 精巣 | AAV2, AAV9 |
| 脾臓 | AAV-DJ, AAV-DJ/8 |
| 脊髄神経 | AAV2-retro |
| 内皮細胞 | AAV2-QuadYF |
表1. 多様な細胞および組織タイプを標的にする各種AAVセロタイプ。
既存のセロタイプが実験目的に不十分な場合、カプシド進化(capsid evolution)を通じて新規AAVセロタイプを作り出すことが可能です。カプシドバリアントの大規模なライブラリーを作製・スクリーニングし、標的指向性とデリバリー効率が向上したものを同定します。このアプローチは、中枢神経系(CNS)や網膜といったデリバリーが困難な部位への標的化能の向上や、形質転換効率を低下や副作用の原因となる既存セロタイプへのホスト免疫の回避など、AAVベースの治療薬における主要な課題を解決します。
AAVのアプリケーション
AAVは多様な細胞タイプに感染可能であり、過剰発現、 shRNAノックダウン、CRISPR、ライブラリースクリーニングなど、一過性発現が求められる幅広いin vitroアプリケーションに使用されています。AAVは非分裂細胞において長期間の発現を維持できますが、分裂細胞での長期発現には通常、レンチウイルスのような組み込み型ウイルスが使用されます。ただし、これらは挿入変異誘発のリスクを伴い、非標的遺伝子を破壊する可能性があります(表2)。
一般的に、in vivoデリバリーおよび医薬品開発において、AAVは他のウイルスベクターシステムと比較して優れた安全性プロファイルを持つため、第一選択のベクターとなっています(表2)。レンチウイルスとは異なり、AAVゲノムはエピソーマルに複製され、ホストゲノムに挿入されないため、がんの原因となる挿入変異誘発のリスクを大幅に低減できます。同じく非挿入型であるアデノウイルスと比較しても、AAVはin vivoでの免疫原性と病原性が極めて低くなっています。総じて、AAVベクターは他のウイルスベクターよりも副作用や毒性のリスクが低く、免疫回避能力や組織標的化能を高めた新規バリアントを構築できる可能性と相まって、新しい細胞・遺伝子治療の開発に向けた有望なベクターとなっています。
いくつかの遺伝性失明、脊髄性筋萎縮症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、血友病などの疾患を治療するAAVベースの遺伝子治療薬がFDA(米国食品医薬品局)に承認されています。これは、AAVの安全性と有効性に関する確かな実績を示すものであり、規制対応や製造プロセスがすでに確立されていることを意味します。そのため、臨床への移行がよりスムーズに行われます。
| AAV | アデノウイルス | レンチウイルス | MMLV | |
|---|---|---|---|---|
| 安定発現または一過性発現 | 一過性発現 | 一過性発現 | 安定した長期発現 | 安定した長期発現 |
| 指向性 | セロタイプに依存 | より限定的 | 広範 | 広範 |
| 搭載容量 | ~4.7 kb (4.2 kb) | ~36 kb (7.5-33 kb) | ~9.2 kb (6.4 kb) | ~8 kb (5.5 kb) |
| 主な用途 | 前臨床および臨床![]() |
In vivo![]() |
in vitroおよびex vivo![]() |
In vitro![]() |
表2. AAVと他のウイルスデリバリーシステムの比較
最後に
AAVは、他のウイルスベクターと比較して優れた安全性プロファイルを持ち、多くのセロタイプの存在により細胞や組織の標的化を柔軟に行えるため、治療用途における第一選択のベクターとなりました。入念なベクターデザインによって、AAVは幅広いアプリケーションに対応する極めて効率的な遺伝子導入ツールとして活用でき、将来の医薬品開発における大きな可能性を提供します。カプシド進化などのアプローチを利用することで、優れた特性を持つ新規セロタイプを構築し、脳や網膜といったデリバリーが極めて困難な部位へとAAVの治療範囲を広げることが可能です。AAVの限定的な搭載容量という課題については、プロモータースクリーニングなどの戦略によってベクターコンポーネントのサイズを縮小し、トランスジーンのためのスペースを確保することで、潜在的な治療用標的遺伝子の範囲を拡大することができます。
VectorBuilderでは、標的指向性と発現効率を高めた高タイター・高品質なウイルスの製造を可能にするため、AAVベクターの研究開発に多大な時間とリソースを投資してきました。当社は、ベクターデザインからGMP製造、臨床試験に至るまで、お客様をサポートする幅広いAAVソリューションを提供しており、デザインチームが常にお客様のあらゆるニーズにお応えします。
参考文献
FDA U.S. Food and Drug Administration. Approved Cellular and Gene Therapy Products.



