CRISPRの最適化:効率の良い遺伝子編集のための技術とアプローチ
キーワード: CRISPR-Cas9, ゲノム編集, CRISPRベクターデザイン, 遺伝子ノックアウト, 遺伝子制御
CRISPR-Cas9 技術は、遺伝子ノックアウト、ノックイン、発現活性化、発現抑制のための効率的なツールとして、ゲノム編集に革命をもたらしました。世界中の研究室で必要不可欠なツールとなっているだけでなく、2023年12月にはCRISPR療法が初のFDA承認を受け、今後も多くのCRISPR療法が登場する予定です。CRISPRの有用性をさらに活用するための新しいコンポーネントやアプローチが絶えず開発され続けているため、時折、研究や臨床使用のために効果的なCRISPR実験を設計することが困難な場合があります。本記事では、CRISPR-Cas9システムの概要と、良い研究成果を得るためのCRISPRベクターのデザイン最適化戦略について解説します。
CRISPRシステムの基本
CRISPR-Cas9システムには複数のコンポーネントが含まれており、その使用法は実験目的、ベクターシステム、および標的細胞の種類によって異なります。しかしながら、すべてのCRISPR技術は、Cas9エンドヌクレアーゼとガイドRNA(gRNA)という2つの重要なコンポーネントを利用します。gRNAは短いRNA配列であり、標的ゲノム内の相補的なDNA配列に結合することでCas9を標的サイトへ誘導します。Cas9はRNA依存性DNAヌクレアーゼであり、標的配列がProtospacer Adjacent Motif(PAM)と呼ばれる短いDNAモチーフに隣接する場合に限り、特定のゲノムサイトで二本鎖切断(DSB)を引き起こします。標的サイトでDSBが生じると、細胞は2つの主要なDNA修復経路のいずれかを用いて損傷を修復します(図1):
a) 非相同末端結合(NHEJ):最も一般的な修復経路となります。小規模な挿入や欠失が発生することによってフレームシフト変異が生じ、タンパク質コーディング領域が破壊され、結果としてタンパク質の産生が阻害されます。NHEJは遺伝子ノックアウトを作成するのに適していますが、精度に欠け、編集された細胞の集団が不均一になるというデメリットがあります。
b) 相同組換え修復(HDR):この修復経路は、より正確な修復をするためのドナーDNAテンプレートが必要です。ドナー配列を用いることで、DSBサイトにおいて点変異や大きなフラグメントのノックイン・ノックアウトを導入することが可能になります。小さな配列(60塩基未満)のノックインには1本鎖オリゴヌクレオチド(ssODN)が、蛍光タンパク質タグなどの大きな配列(4〜5 kbまで)の挿入には2本鎖DNA(dsDNA)がテンプレートとして使用されます。

図1. CRISPRによるDNA切断後のDNA修復機構
CRISPRの用途が多様化するにつれ、使用するCas9について検討する必要が出てきました。さまざまな生物種向けにコドン最適化されている、Streptococcus pyogenes 由来の SpCas9 は、最も一般的に使用されるCas9バリアントです。遺伝子ノックアウト以外の多様な用途に利用されるCas9バリアントもあります。以下の表に、それらの代表的なバリアントと用途をまとめます。
| Cas | 用途 | PAM配列 | 考慮すべき点 |
|---|---|---|---|
| SpCas9 | ノックアウト、ノックイン | NGG |
|
| SaCas9 | ノックアウト、ノックイン (AAV送達で良く使用される) | NNGRRT |
|
| Cas9(D10a)ニッケース | ノックアウト (オフターゲット効果を最小限にするためのペアニッキングによる) | NGG (通常)* |
|
| Prime editor | 正確な編集 (挿入、欠失、点変異) | NGG (通常)* |
|
|
Base editor(例:BE3) |
点変異 (直接的な塩基変異) | NGG (通常)* |
|
| dCas9/VPR | 遺伝子制御 (活性化) | NGG (通常)* |
|
| dCas9/KRAB/MeCP2 | 遺伝子制御 (抑制化) | NGG (通常)* |
|
| Cas12a | ノックイン & 複数箇所の遺伝子編集 | TTTN |
|
* Cas9ニッケース、prime editors、dCas9、Base editorでは、PAM配列はSpCas9 (NGG)由来のものとなります。
遺伝子の機能研究もしくは機能改変するリバースジェネティクスによって、用途や研究課題に応じたCRISPR-Cas9 システムが開発されています。また、大規模な遺伝子機能スクリーニングのための強力なフォワードジェネティクスツールとしてCRISPR-Cas9 システムを活用するライブラリーもあります。ゲノム内の各遺伝子や特定の遺伝子セットを標的とするgRNAを設計することで、表現型、シグナル経路または疾患に関連する遺伝子を特定するスクリーニングを実施できます。
効率的なCRISPRベクターデザインに関する実用的なヒント*
適切なCas9バリアントの選択、標的サイトの決定、gRNAの設計、および導入方法の選択は、 CRISPR実験の最適化および再現性の高い成功結果を得るために必要不可欠です。ここでは、当社の長年にわたる遺伝子導入の経験から得られたデザインのヒントをいくつかご紹介します。
* 上記のデザインに関するヒントはCas9とそのバリアントに関するもので、Cas12aには適用しないことにご注意ください。
CRISPR実験の成功は、Cas9バリアント、gRNA、送達方法を適切に選択することに大きく依存しています。ここで紹介した多くの要素は、オンラインベクターデザインスタジオの様々なシステムに組み込まれています。また、VectorBuilderのデザインチームがCRISPR実験のあらゆるニーズにいつでも対応しています。
参考文献
Sander JD, Joung JK. CRISPR-Cas systems for editing, regulating and targeting genomes. Nat Biotechnol. 2014 Apr;32(4):347-55. doi: 10.1038/nbt.2842. Epub 2014 Mar 2. PMID: 24584096; PMCID: PMC4022601.
Ran FA, Hsu PD, Lin CY, Gootenberg JS, Konermann S, Trevino AE, Scott DA, Inoue A, Matoba S, Zhang Y, Zhang F. Double nicking by RNA-guided CRISPR Cas9 for enhanced genome editing specificity. Cell. 2013 Sep 12;154(6):1380-9. doi: 10.1016/j.cell.2013.08.021. Epub 2013 Aug 29. Erratum in: Cell. 2013 Oct 10;155(2):479-80. PMID: 23992846; PMCID: PMC3856256.
Cong L, Ran FA, Cox D, Lin S, Barretto R, Habib N, Hsu PD, Wu X, Jiang W, Marraffini LA, Zhang F. Multiplex genome engineering using CRISPR/Cas systems. Science. 2013 Feb 15;339(6121):819-23. doi: 10.1126/science.1231143. Epub 2013 Jan 3. PMID: 23287718; PMCID: PMC3795411.
Ran FA, Cong L, Yan WX, Scott DA, Gootenberg JS, Kriz AJ, Zetsche B, Shalem O, Wu X, Makarova KS, Koonin EV, Sharp PA, Zhang F. In vivo genome editing using Staphylococcus aureus Cas9. Nature. 2015 Apr 9;520(7546):186-91. doi: 10.1038/nature14299. Epub 2015 Apr 1. PMID: 25830891; PMCID: PMC4393360.
Nan X, Campoy FJ, Bird A. MeCP2 is a transcriptional repressor with abundant binding sites in genomic chromatin. Cell. 1997 Feb 21;88(4):471-81. doi: 10.1016/s0092-8674(00)81887-5. PMID: 9038338.
Chavez A, Scheiman J, Vora S, Pruitt BW, Tuttle M, Iyer EP, Lin S, Kiani S, Guzman CD, Wiegand DJ, Ter-Ovanesyan D, Braff JL, Davidsohn N, Housden BE, Perrimon N, Weiss R, Aach J, Collins JJ, Church GM. Highly efficient Cas9-mediated transcriptional programming. Nat Methods. 2015 Apr;12(4):326-8. doi: 10.1038/nmeth.3312. Epub 2015 Mar 2. PMID: 25730490; PMCID: PMC4393883.
Komor AC, Kim YB, Packer MS, Zuris JA, Liu DR. Programmable editing of a target base in genomic DNA without double-stranded DNA cleavage. Nature. 2016 May 19;533(7603):420-4. doi: 10.1038/nature17946. Epub 2016 Apr 20. PMID: 27096365; PMCID: PMC4873371.
Mushtaq M, Ahmad Dar A, Skalicky M, Tyagi A, Bhagat N, Basu U, Bhat BA, Zaid A, Ali S, Dar TUH, et al. CRISPR-Based Genome Editing Tools: Insights into Technological Breakthroughs and Future Challenges. Genes. 2021;12(6):797. doi: 10.3390/genes12060797.