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中級編:遺伝子導入関連の注目ニュース   |   2025年03月21日

CRISPRの最適化:効率の良い遺伝子編集のための技術とアプローチ

キーワード: CRISPR-Cas9, ゲノム編集, CRISPRベクターデザイン, 遺伝子ノックアウト, 遺伝子制御

CRISPR-Cas9 技術は、遺伝子ノックアウト、ノックイン、発現活性化、発現抑制のための効率的なツールとして、ゲノム編集に革命をもたらしました。世界中の研究室で必要不可欠なツールとなっているだけでなく、2023年12月にはCRISPR療法が初のFDA承認を受け、今後も多くのCRISPR療法が登場する予定です。CRISPRの有用性をさらに活用するための新しいコンポーネントやアプローチが絶えず開発され続けているため、時折、研究や臨床使用のために効果的なCRISPR実験を設計することが困難な場合があります。本記事では、CRISPR-Cas9システムの概要と、良い研究成果を得るためのCRISPRベクターのデザイン最適化戦略について解説します。

CRISPRシステムの基本

CRISPR-Cas9システムには複数のコンポーネントが含まれており、その使用法は実験目的、ベクターシステム、および標的細胞の種類によって異なります。しかしながら、すべてのCRISPR技術は、Cas9エンドヌクレアーゼとガイドRNA(gRNA)という2つの重要なコンポーネントを利用します。gRNAは短いRNA配列であり、標的ゲノム内の相補的なDNA配列に結合することでCas9を標的サイトへ誘導します。Cas9はRNA依存性DNAヌクレアーゼであり、標的配列がProtospacer Adjacent Motif(PAM)と呼ばれる短いDNAモチーフに隣接する場合に限り、特定のゲノムサイトで二本鎖切断(DSB)を引き起こします。標的サイトでDSBが生じると、細胞は2つの主要なDNA修復経路のいずれかを用いて損傷を修復します(図1):

a) 非相同末端結合(NHEJ):最も一般的な修復経路となります。小規模な挿入や欠失が発生することによってフレームシフト変異が生じ、タンパク質コーディング領域が破壊され、結果としてタンパク質の産生が阻害されます。NHEJは遺伝子ノックアウトを作成するのに適していますが、精度に欠け、編集された細胞の集団が不均一になるというデメリットがあります。

b) 相同組換え修復(HDR):この修復経路は、より正確な修復をするためのドナーDNAテンプレートが必要です。ドナー配列を用いることで、DSBサイトにおいて点変異や大きなフラグメントのノックイン・ノックアウトを導入することが可能になります。小さな配列(60塩基未満)のノックインには1本鎖オリゴヌクレオチド(ssODN)が、蛍光タンパク質タグなどの大きな配列(4〜5 kbまで)の挿入には2本鎖DNA(dsDNA)がテンプレートとして使用されます。

Mechanisms of CRISPR-induced DNA repair

図1. CRISPRによるDNA切断後のDNA修復機構

CRISPRの用途が多様化するにつれ、使用するCas9について検討する必要が出てきました。さまざまな生物種向けにコドン最適化されている、Streptococcus pyogenes 由来の SpCas9 は、最も一般的に使用されるCas9バリアントです。遺伝子ノックアウト以外の多様な用途に利用されるCas9バリアントもあります。以下の表に、それらの代表的なバリアントと用途をまとめます。

Cas 用途 PAM配列 考慮すべき点
SpCas9 ノックアウト、ノックイン NGG
  • DSB作出
  • 高効率性と多能性
  • 確立されたプロトコール
  • 臨床用途
SaCas9 ノックアウト、ノックイン (AAV送達で良く使用される) NNGRRT
  • 小さいサイズ (~3.3 kb)
  • 搭載スペースが限られているベクターにとって理想的 (例:AAVベクター)
Cas9(D10a)ニッケース ノックアウト (オフターゲット効果を最小限にするためのペアニッキングによる) NGG (通常)*
  • 一本鎖切断:ペアニッキングによるDSB
  • オフターゲット効果の減少
  • 2つのgRNAが必要で、デザインが複雑になる
Prime editor 正確な編集 (挿入、欠失、点変異) NGG (通常)*
  • 逆転写酵素と融合したCas9を使用して、DSBを介さずに正確な編集を導入
  • デザインが複雑
  • 大きいフラグメントでは効率が低い

Base editor(例:BE3)

点変異 (直接的な塩基変異) NGG (通常)*
  • DSBを介さずにDNA塩基を他塩基に変換することが可能
  • 特定の塩基変換にのみ制限される
dCas9/VPR 遺伝子制御 (活性化) NGG (通常)*
  • ヌクレアーゼ不活性化により、DNA切断を伴わずに遺伝子発現の制御が可能
  • 永久的な編集は不可能(例:ノックアウト、ノックイン)
dCas9/KRAB/MeCP2 遺伝子制御 (抑制化) NGG (通常)*
  • ヌクレアーゼ不活性化により、DNA切断を伴わずに遺伝子発現の制御が可能
  • 永久的な編集は不可能(例:ノックアウト、ノックイン)
Cas12a ノックイン & 複数箇所の遺伝子編集 TTTN
  • 非対称なDSB作出
  • 固有のRNA (crRNA)を使用して、 複数の遺伝子編集が可能

* Cas9ニッケース、prime editors、dCas9、Base editorでは、PAM配列はSpCas9 (NGG)由来のものとなります。

遺伝子の機能研究もしくは機能改変するリバースジェネティクスによって、用途や研究課題に応じたCRISPR-Cas9 システムが開発されています。また、大規模な遺伝子機能スクリーニングのための強力なフォワードジェネティクスツールとしてCRISPR-Cas9 システムを活用するライブラリーもあります。ゲノム内の各遺伝子や特定の遺伝子セットを標的とするgRNAを設計することで、表現型、シグナル経路または疾患に関連する遺伝子を特定するスクリーニングを実施できます。

効率的なCRISPRベクターデザインに関する実用的なヒント*

適切なCas9バリアントの選択、標的サイトの決定、gRNAの設計、および導入方法の選択は、 CRISPR実験の最適化および再現性の高い成功結果を得るために必要不可欠です。ここでは、当社の長年にわたる遺伝子導入の経験から得られたデザインのヒントをいくつかご紹介します。

1. Cas9の選択:酵素機能と用途が適合するCas9を選ぶことは重要で、実験目的や使用するベクターシステムに大いに依存します(上記の表を参照)。VectorBuilderでは、実験目的に沿うようにコドン最適化された様々なCas9バリアントを提供しています。
2. 標的サイトの選択:Cas9の標的サイトの選択は、実験目的によって決まります。遺伝子ノックアウトやノックインを行う場合は、通常、タンパク質コード領域(エクソン)を標的とします。遺伝子制御機構を研究する場合は、非コード領域(プロモーター、エンハンサー、イントロンなど)を標的とします。
3. gRNAの選択、シングルgRNA vs デュアルgRNA:一般的な使用ケースでは(例えばシンプルな遺伝子ノックアウト)、ひとつのgRNAと適切なCas9の組み合わせで目的とする表現型を得ることができます。特定のケースではデュアルgRNAがより適しています。例えば、(1) Cas9(D10A)ニッケースを使用する場合。DSBを作出するために、相補鎖それぞれを標的とした2つのgRNAが必要。オフターゲット効果の低減が期待できる。(2) 2つのDSBを作出するgRNAペアを設計し、DSB間のDNA領域を欠失させる場合、(3)異なる2つの遺伝子を同時に標的とする場合、が挙げられます。
4. PAM配列とgRNAの適合性: gRNAは、標的サイトで高い編集効率と特異性を持ちつつ、オフターゲット効果を低減するように設計する必要があります。重要なのは、PAM配列の近傍領域を標的とすることです。PAM配列の種類は使用するCas9バリアントによって異なります。VectorBuilderの オンラインベクターデザインスタジオ では、選択したCas9に適したPAM配列もつgRNAを自動的に設計できるため、設計プロセスを大幅に簡略化できます。また、多様なCas9のバリアントに対応した PAM配列の情報も提供しています。
5. CRISPRベクターの選択、All-in-one vs 2ベクター:CRISPRシステムによるゲノム編集を成功させるためには、標的細胞内でCas9とgRNAを同時に発現させる必要があります。そのためには、単一ベクター(All-in-one)または2ベクターを使用する2つのアプローチがあります。All-in-oneベクターは全ての必要なコンポーネントを1回のステップで導入して同時に発現できるため、作業を簡略化できます。一方、2ベクターでは、コトランスダクションが必要になるため、1種類のベクターしか導入できない細胞では難しくなります。ただし、大きなコンポーネントを導入する際(例えば、タグやマーカーが付いた修飾型Cas9)には、有利に働きます。また、Cas9を細胞もしくは動物に 安定発現(持続型または誘導型)させた場合に、後から導入するgRNA配列に対して柔軟性を持たせることができます。しかし、この方法は時間と手間がかかります。
6. レポーターシステムの選択:CRISPRベクターに選択マーカー(抗生物質耐性遺伝子など)や蛍光レポーター(GFP、RFPなど)を組み込むことで、トランスダクションやゲノム編集後の細胞の識別と分離が容易になり、実験の効率と精度が大幅に向上します。当社のCRISPRベクターには、複数のマーカー、レポーター、タグを組み込むことが可能です。適切な蛍光マーカーの選択については、詳細な情報をご確認ください。
7. 送達システムの選択:CRISPRの送達方法は、標的細胞の種類、位置、および使用用途によって異なります。ウイルスベクター(レンチウイルスやAAV)を選択すれば、高いトランスダクション効率と、一過性もしくは長期発現用途の選択肢を与えてくれます。また、トランスフェクションが困難な細胞やin vivo使用に最適です。しかし、ウイルス産生プロセスが複雑であり、また免疫原性や毒性を持つリスクが高いのがデメリットとなります。脂質ナノ粒子によるトランスフェクションもしくはエレクトロポレーションといった、非ウイルス送達法はよりシンプルに実行できますが、トランスフェクション効率が低く、ある種の細胞や組織では送達が困難です。CRISPR送達方法の詳細な情報は、こちらをご確認ください。
8. HDRシステムの選択:HDRを利用した正確なゲノム編集、例えば短いタンパク質タグや点変異導入などの短い配列(<60 bp)のノックインには、ssODNがよく使用されます。一方、蛍光タグやレポーター遺伝子などの長い配列(4~5 kbまで)のノックインには、dsDNAドナーが使用されます。VectorBuilderでは、HDR修復の正確性を高めるカスタムドナーDNAテンプレートを提供しています。

* 上記のデザインに関するヒントはCas9とそのバリアントに関するもので、Cas12aには適用しないことにご注意ください。

CRISPR実験の成功は、Cas9バリアント、gRNA、送達方法を適切に選択することに大きく依存しています。ここで紹介した多くの要素は、オンラインベクターデザインスタジオの様々なシステムに組み込まれています。また、VectorBuilderのデザインチームがCRISPR実験のあらゆるニーズにいつでも対応しています。

参考文献

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