コロナウイルスベクター

コロナウイルス研究には生きたウイルスが必須の研究試料ですが、危険なウイルス種などの場合生きたウイルスの産生および取り扱いや輸送は、研究を進める上で大きな障害となり、研究者へのリスクも高くなります。採取した生体試料(例、喀痰)から目的のウイルスを大量に得るには多くの時間と労力と資金が必要です。加えて喀痰などの生体試料は、目的のウイルス以外に様々なバクテリア、菌類、ウイルスやマイコプラズマなどがコンタミし、目的のウイルスの単離同定には、厳格な培養と検査そして全シークエンスの確認が必要です。しかし、たとえ単離同定できたとしても、様々な研究目的に応じたウイルスゲノムに改変を施すことは一本鎖RNAゲノムを持つウイルスでは困難です。ベストな方法は、逆遺伝学的アプローチを駆使して遺伝子組み換えベクターから生きたウイルスを再構築することです。VectorBuilderではコロナウイルスゲノムを使った以下の2種類の研究用ツールを受託構築いたします。

1)リニア化(linearized)した二本鎖DNA形状の組み換えコロナウイルス全ゲノム

  • ベクタービルダーの組み換えコロナウイルスベクターシステムは、野生型、変異型にかかわらずどのコロナウイルス種でも、リニア化DNAをウイルスパッケージング用細胞(コロナパックTM:CoronaPackTM)に一過的にトランスフェクトすることで、目的の組み換えウイルスを生きた状態で、大量にかつ均質に産生させることができます。得られた組み換えウイルスは、適切な細胞株(コロナグロウTM:CoronaGrowTM)に感染させることで希望の量に培養・増幅させることも可能です。
  • 天然のコロナウイルスはプラス鎖の一本鎖RNAゲノムですが、組み換えコロナウイルスベクターはリニア化した二本鎖DNAの状態になっています。この形状の組み換えコロナウイルスベクターには自律的な増殖力や伝染性はありません。そのため最小限のバイオセイフティー条件下でユーザーの研究室へ輸送が行えます。
  • リニア化(linearized)したDNAのため、誤って大腸菌に形質転換を行ってもウイルスゲノムをクローニングすることは不可能になっています。
  • 遺伝子組み換え技術を使い、目的遺伝子に塩基置換などの変異の導入、レポーター遺伝子(EGFPなど)やエピトープタグの追加、他種遺伝子とのキメラ化、など研究目的に応じたデザインに弊社にてゲノム編集を行い納品いたします。

2)コロナウイルス遺伝子をクローニングした環状プラスミドDNA(発現ベクターなど)

  • コロナウイルス遺伝子をご希望のプロモーター、マーカー(EGFPなど)とともにご希望のベクターバックボーンにクローニングします。
  • 研究対象遺伝子のみを持つプラスミドDNAからヒトや動物に感染性を持つコロナウイルスは生成されません。
  • この二本鎖DNAの組み換えベクターには自律的な増殖力や伝染性はありません。そのため最小限のバイオセイフティー条件下でユーザーの研究室に輸送が行えます。
バイオセイフティーに関してのご注意

組み換えコロナウイルスベクター(1)を使って作成した生きたウイルス粒子はヒトや動物に感染する能力を持っています。これらの組み換えウイルスを用いる研究は、所属組織内の組み換えDNA実験安全委員会の指示に従い、研究目的に相当するバイオセイフティー基準を満たし、各担当省庁のカルタヘナ法指針に基づいて拡散防止措置を取り、トレーニングを受けた研究員がPPEで保護をしたうえで、安全に十分注意して実施してください。様々なコロナウイルス種に対してのバイオセイフティーのガイドラインは、 American Biological Safety Association (ABSA)より発行されている、 Risk Group Database よりご確認ください。日本でのSARS-CoV-2に関する規制詳細は研究を実施するユーザーより担当省庁にご確認いただき、組み換えDNA実験の法令を遵守してください。SARS-CoV-2に関する文部科学省管轄の場合のポジションペーパーのリンクはこちらです。

ベクタービルダーでは、受託する組み換えコロナウイルスベクターによっては、事前に以下の項目をご確認させていただき、安全性が確認された場合、受託構築と販売を行います。

  • ユーザーの所属組織及びラボが適切なバイオセイフティー基準を満たした承認を得ている。
  • 組み換えコロナウイルスベクターから生産した生きたウイルスを扱える技術と知識がすでに備わっている。
  • VectorBuilder Incとmaterial transfer agreement (MTA) を交わしていただきます。受け入れ元では組み換えコロナウイルスベクターが機関外にドキュメントなく譲渡されないよう防止し、管理を要請いたします。
リニア化組み換えコロナウイルスベクターの基本構造
図1:リニア化組み換えコロナウイルスベクターの基本コンポーネント

CMV プロモーター: ヒト サイトメガロウイルスプロモーター。パッケージング細胞で、このプロモーター下流のウイルスRNAゲノムを高レベルに発現させます。

T7 プロモーター:  T7 バクテリオファージ由来プロモーター。ファージ由来の T7 RNAポリメラーゼによって認識され、このプロモーター下流のウイルスRNAゲノムを高レベルで転写されます。in vitro転写用。

コロナウイルスゲノム配列: 完全なコロナウイルスゲノム配列(~30kb、図1は全長を省略して表示しています。)

Poly(A): 25個の連続した塩基“A”。上流のウイルスRNAゲノム転写産物にポリAが付加され、ウイルスゲノムを正しく機能させます。

HDV アンチゲノムリボザイム: 肝炎デルタウイルスのアンチゲノムリボザイム。転写産物中のポリAとリボザイムの間を自己切断し、ポリA鎖で終わる転写産物を生成させます。

T7 ターミネーター: T7 バクテリオファージ由来の転写終結シグナル。T7 RNAポリメラーゼによる転写を終結させます。

BGH pA: ウシ成長ホルモン遺伝子のポリA付加シグナル。CMVプロモーターからの転写を終結させます。

ベクタービルダーの組み換えコロナウイルスベクターには、研究目的のコロナウイルス種のゲノム配列が2種類のプロモーター(CMVとT7プロモーター)の下流に挿入されています。目的ウイルス粒子の既知条件によってウイルス粒子産生方法の使い分けが可能です。

  • 組み換えコロナウイルスプラスミドDNAをウイルスパッケージング用細胞に一過的にトランスフェクト:CMVプロモーターからウイルスゲノムの転写が開始し、転写産物のウイルスゲノム直下にPoly(A)配列が付加されます。転写はBGH pAまで続き、ポリアデニル化シグナルによって終結します。転写産物中に存在するHDVアンチゲノムリボザイム配列は、転写産物中のPoly(A)とリボザイムの間を自己切断し、天然のウイルスと同様にPoly(A)tailで終了する転写産物が生成されます。このコロナウイルスゲノム転写産物は、ウイルス粒子の構築に必要なRNAやタンパク質を合成し、結果的に目的の生きたウイルス粒子が産生されます。
  • T7 RNA ポリメラーゼを使ったin vitro 転写:T7 RNA ポリメラーゼを介したウイルスRNAゲノムの転写をベクター内の T7 プロモーターから開始させ、T7 ターミネーターで終結させます。HDVアンチゲノムリボザイムは、この方法でもPoly(A)配列の直下で転写産物を自己切断します。このようにして得られたウイルスゲノムRNAをパッケージング用細胞に一過的にトランスフェクトすれば、細胞は必要なRNAやタンパク質を生成し、目的の生きたコロナウイルスが産生されます。
提供している組み換えコロナウイルスベクターの種類 

コロナウイルスは自然界に非常に多種類が存在し、巨大なウイルス群を構成しています。事実上、全ての哺乳動物と鳥類に感染することが明らかになっています。何百ものコロナウイルス種が同定されていますが、その中でも特に、ヒト、家畜、ペット、モデル動物に感染性のある数十種、およびその近縁種が重要であると考えられています。 

図2.主要コロナウイルス種間の系統樹

注: 人に感染性のある種を赤文字で示しています

表1:主要なコロナウイルス種の詳細

ウイルス略称 ウイルス名称  GenBank Accession ウイルスの属 宿主となる生物種 宿主の受容体  病状
HCoV-229E Human coronavirus 229E NC_002645.1 アルファコロナウイルス ヒト (Homo sapiens) ANPEP; Cell entry aided by TMPRSS2 一般的な風邪
HCoV-NL63 Human Coronavirus NL63 NC_005831.2 アルファコロナウイルス ヒト (Homo sapiens) ACE2; Cell entry aided by TMPRSS2 一般的な風邪
PEDV Porcine epidemic diarrhea virus NC_003436.1 アルファコロナウイルス ブタ (Sus scrofa) ANPEP ブタ感染性下痢
PRCoV Porcine respiratory coronavirus DQ811787.1 アルファコロナウイルス ブタ (Sus scrofa) ANPEP ブタ呼吸器病状症候群
TGEV Transmissible gastroenteritis virus strain PUR46-MAD NC_038861.1 アルファコロナウイルス ブタ (Sus scrofa) ANPEP 感染性胃腸炎
CCoV Canine enteric coronavirus serotype II strain 1-71 JQ404409.1 アルファコロナウイルス イヌ (Canis lupus familiaris) ANPEP 胃腸炎
FCoV Feline coronavirus serotype I strain Black EU186072.1 アルファコロナウイルス ネコ (Felis catus) ANPEP ネコ感染性腹膜炎
FIPV Feline infectious peritonitis virus serotype II NC_002306.3 アルファコロナウイルス ネコ (Felis catus) ANPEP ネコ感染性腹膜炎
SARS-CoV-2 SARS-CoV-2 strain H1 NC_045512.2 ベータコロナウイルス ヒト (Homo sapiens) ACE2; Cell entry aided by TMPRSS2 COVID-19
BatCoV-RaTG13 Bat COVID-19-related coronavirus RaTG13 MN996532.1 ベータコロナウイルス キクガシラコウモリ (Rhinolophus sinicus)
SARS-CoV SARS-CoV strain Tor2 NC_004718.3 ベータコロナウイルス ヒト (Homo sapiens) ACE2; Cell entry aided by TMPRSS2 SARS
BatCoV-WIV16 Bat SARS-related coronavirus WIV16 KT444582.1 ベータコロナウイルス キクガシラコウモリt (Rhinolophus sinicus) ACE2
BatCoV-Rs4231 Bat SARS-related coronavirus Rs4231 KY417146.1 ベータコロナウイルス キクガシラコウモリ (Rhinolophus sinicus) ACE2
BatCoV-RsSHC014 Bat SARS-related coronavirus RsSHC014 KC881005.1 ベータコロナウイルス キクガシラコウモリ (Rhinolophus sinicus) ACE2
BatCoV-WIV1 Bat SARS-related coronavirus WIV1 KF367457.1 ベータコロナウイルス キクガシラコウモリ(Rhinolophus sinicus) ACE2
HCoV-OC43 Human coronavirus OC43 NC_006213.1 ベータコロナウイルス ヒト (Homo sapiens) Sialic acid; Cell entry aided by TMPRSS2 一般的な風邪
CRCoV Canine respiratory coronavirus JX860640.1 ベータコロナウイルス イヌ (Canis lupus familiaris) イヌ呼吸器疾患
BCoV Bovine Coronavirus NC_003045.1 ベータコロナウイルス ウシ (Bos taurus) Sialic acid 仔牛下痢および呼吸器感染
PHEV Porcine hemagglutinating encephalomyelitis virus DQ011855.1 ベータコロナウイルス ブタ (Sus scrofa) ブタ血球凝集性脳脊髄炎
ECoV Equine Coronavirus EF446615.1 ベータコロナウイルス ウマ (Equus caballus) 疝痛
HCoV-HKU1 Human coronavirus HKU1 NC_006577.2 ベータコロナウイルス ヒト (Homo sapiens) Sialic acid; Cell entry aided by TMPRSS2 一般的な風邪
MHV Mouse hepatitis virus strain A59 AY700211.1 ベータコロナウイルス マウス (Mus musculus) Ceacam1 マウス肝炎
RCoV Rat CoV strain Parker NC_012936.1 ベータコロナウイルス ラット (Rattus norvegicus) 呼吸器感染
MERS-CoV MERS-CoV NC_019843.3 ベータコロナウイルス ヒト (Homo sapiens) DPP4; Cell entry aided by TMPRSS2 MERS
BatCoV-HKU4 Bat MERS-related Coronavirus HKU4 NC_009019.1 ベータコロナウイルス Lesser bamboo bat (Tylonycteris pachypus)
BatCoV-HKU5 Bat MERS-related coronavirus HKU5 NC_009020.1 ベータコロナウイルス アブラコウモリ (Pipistrellus abramus)
IBV Infectious bronchitis virus NC_001451.1 ガンマコロナウイルス ニワトリ (Gallus gallus) Sialic acid トリ伝染性気管支炎
TCoV Turkey coronavirus NC_010800.1 ガンマコロナウイルス シチメンチョウ (Meleagris gallopavo) Type 2 poly-N-acetyl-lactosamines 胃腸炎
PDCoV Pocine deltacoronavirus KJ584355.1 デルタコロナウイルス ブタ (Sus scrofa) ANPEP 下痢
注: ヒトに感染性のある種を赤文字で示しています。

ベクタービルダーでは、表1に挙げたコロナウイルス種全ての組み換えウイルスベクターをご用意しています。ここにないウイルス種の受託構築サービスもご提供しています。弊社までメール (service-jp@vectorbuilder.com)にてお問合せください。

組み換えコロナウイルスベクターの注文方法は?

以下のリンクよりご依頼いただけます:

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品質保証  
  • サンガーシークエンシングにて、プラスミドDNAシークエンスの100%マッチを保証
  • 制限酵素処理パターンを確認し、プラスミドDNAのグローバルマップのマッチを保証
納品形態  

1)の場合:リニア化(linearized)DNA >50ug。環状(circular)cloneでの納品は行っておりません。SARS-CoV-2は期間限定の半額セールを行っています。

2)の場合:プラスミドDNA  1.5-2.0ugのプラスミドDNAを約10ulのTEに溶解して納品します。関連サービスからマキシプレップなどプラスミドDNA精製サービスをご利用いただけます。大腸菌に形質転換したグリセロールストックの状態では納品いたしません。別売りのベクタービルダー超安定コンピテントセルをお買い求めてお使いください。

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オンラインポータルを使って、自分でベクターデザインを行い、そのベクターの見積もりを依頼する場合。

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ベクタービルダーにベクターデザインと見積もりの両方を依頼する場合。その他のカスタム受託サービスのお見積りもここからお問い合わせください。