細菌ゲノム編集
細菌ゲノム編集によって、生理的・代謝的形質の研究や制御に必要なゲノム改変が正確に行えるようになります。VectorBuilderでは、ゲノム編集の戦略デザインから編集後に配列を確認した細菌の納品まで、包括的なソリューションを提供しています。当社の専門家が配列欠損や挿入、変異の導入など、お客様のニーズに合わせた効率的で信頼性の高い細菌のゲノム改変をご提供します。
サービスの詳細

図1. 細菌ゲノム編集のワークフロー。
価格と作業日数 プライスマッチ
サービスの種類 | 概要 | 価格(税別、送料別) | 推定作業日数 |
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ベクターデザインとクローニング | VectorBuilderの経験豊富な担当者より、適切なプラスミドバックボーンに必須コンポーネントを組み込み、最適化されたデザインをご提案いたします。 | 77,500 円より | 2-3 週 |
細菌株の特性評価 | 対象株は、増殖条件、形質転換効率、塩基配列の検証、その他の関連する主要なパラメーターについて評価します。 | 無料 | 1 週 |
細菌株エンジニアリング* | プラスミドを標的細菌に導入し、特定の条件下で培養し、ゲノム編集を行います。その後、目的の改変が導入されたコロニーを選択し、検証します。 | 542,500円より | 2-5 週 |
* ゲノム編集細菌株はグリセロールストックで納品します。標準QC (品質検査) ではPCRとサンガーシークエンスを実施します。QC項目の追加を希望される場合は、こちらよりお問い合わせください。
技術情報
λ-Red recombinationシステム
λ-Red recombinationシステムは細菌のゲノム編集で広く用いられている手法です。λバクテリオファージ由来のこのシステムは、外来DNA断片と宿主ゲノム間での相同組換えを著しく促進します。λ-Red recombinationシステムは3つの主要なコンポーネントで構成されており、それらが協働して相同組換えを促進します(図2)。
図2. λ-Red recombinationシステムの主要コンポーネント。Exo (5’ to 3’ エキソヌクレアーゼ) はDNA二本鎖 (dsDNA) を消化する。Beta (一本鎖DNA(ssDNA) 結合タンパク質) はDNAのアニーリングを促進させる。Gam は導入した線状DNA断片が宿主細胞由来のヌクレアーゼによって分解されることを防ぐ。
λ-Red遺伝子は通常、ドナーDNAの導入前に発現させます。そのためにλ-Redシステムのコンポーネントをコードするプラスミドが用いられます。また、λ-Red遺伝子の安定発現細菌株も組換え操作に広く用いられています。目的の遺伝子改変を含むドナーDNA(鋳型)は、直鎖二本鎖DNA(dsDNA)または一本鎖DNA(ssDNA)として細菌細胞に導入します。この鋳型には、抗生物質耐性遺伝子のような選択マーカーが含まれていることが多いです。λ-Redタンパク質 ― Exo、Beta、Gam ― は、ドナーDNAと標的配列間の相同組換えを促進します。組換え後、一般的には薬剤選択とコロニーPCRを組み合わせた方法などで目的とするゲノム編集細胞を単離します。
CRISPR-Cas9
CRISPR-Cas9は、細菌を含む様々な生物で使用されている汎用性の高いゲノム編集ツールです。大腸菌など多くの細菌種では、非相同末端接合(NHEJ)修復経路の効率が低いため、CRISPRによって誘導される二本鎖切断(DSB)は細胞死を引き起こします。この特徴により、CRISPRは選択マーカーを追加することなく、強力なカウンターセレクション(逆選択法)として利用することができます。
CRISPRシステムを用いた細菌株エンジニアリングには、Cas9タンパク質、ガイドRNA(gRNA)、ドナーDNAを使用します。編集効率を高める目的で、相同組換えを促進するλ-Redシステムのコンポーネントなどを共発現させることが多いです。
細菌細胞へのCRISPRコンポーネントの導入は様々な方法で実施できます。図3は、Cas9とλ-Red タンパク質を単一のプラスミドから共発現させ、gRNAを別のプラスミドから発現させる方法を示しています。
図3. CRISPR-Cas9システムを用いた点変異導入の模式図。まず、Cas9とリコンビナーゼをコードするプラスミドを細菌細胞に導入し、λ-Redタンパク質の発現を誘導する。その後、gRNAプラスミドとドナーDNAをCas9とリコンビナーゼを発現する細胞に導入する。相同組換えが完了しなかった場合は、Cas9によって引き起こされた二重鎖切断(DSB)は修復されず、細菌細胞は死滅する(右)。一方で、細菌細胞はドナーDNAと標的ゲノム配列の間で相同組換えが完了した場合のみ生存できるため、目的のゲノム編集細菌株が得られる(左)。
致死プラスミド
致死プラスミドは、目的の遺伝子改変配列を含み、耐性のある宿主内または特定の条件下でのみ複製されるようにデザインされています。逆選択が可能なマーカー(例: スクロース感受性を付与するsacB遺伝子)や条件付き複製システム(例: 温度感受性複製起点)などのメカニズムを利用します。
許容条件下で標的細菌にプラスミドを導入すると、一回目の相同組換えによってプラスミド全体が宿主ゲノムに組み込まれます。非許容条件に移行すると、ゲノムに挿入されていないプラスミドは複製できないので脱落します(図4)。2回目の相同組換えでは、プラスミドバックボーンがゲノムから取り除かれ、その後PCRによって目的の改変が生じた細胞を選択することができます。技術的には簡単ですが、致死ベクターは長い相同性アームを必要とし、偽陽性のリスクが高く、複数回のセレクションが必要となる場合が多い手法です。
図4. 温度感受性複製起点を持つ致死プラスミドを用いた遺伝子ノックインの模式図。相同組換えにより、目的遺伝子(GOI)と選択マーカーが標的遺伝子座に組み込まれる。抗生物質でコロニーを選択した後、プラスミドの複製を防ぐために非許容温度で培養する。2回目の組換えにより、安定したノックイン(バックボーンの除去)または元のゲノム配列への復帰が起こる。目的のノックインが入ったコロニーを選択後、PCRで確認する。
ケーススタディ
図5. CRISPR-Cas9による大腸菌の遺伝子編集。(A)CRISPR-Cas9システムとλ Redタンパク質の導入を用いた、大腸菌ゲノムにおける配列欠損。(B) 標的領域のPCRで、未編集細胞では予想サイズ約3900bpの増幅断片が確認されたが(レーン1)、CRISPRを用いたノックアウトにより欠失が生じた細胞では、増幅断片サイズは約1800bpとなり(レーン2)、目的の約2100bpの欠失が確認された。
ご注文方法
ユーザー提供のマテリアルについて
ユーザー様からご提供のマテリアルが必要な場合は、送付前にご提供いただくマテリアルの情報をあらかじめ"サポート" > "マテリアルサブミッションフォーム"からサブミットしてください。マテリアルをご提供の際は、輸送時のダメージや遅れを避けるため、必ずマテリアルサブミッションガイドに沿って発送してください。ご提供されたマテリアルは全てVectorBuilderに到着後、QCの実施が必須となります。マテリアルの種類や使用方法によって、QC費用(ベクター:~16,000円、細胞(細菌):~77,500円)が発生する場合があります。ご提供されたマテリアルがQCに合格するまで、生産は開始できませんのでご注意ください。
リソース
FAQ
細菌のゲノム編集の方法は、それぞれどのように違うのか?
下の表に示すように、それぞれの方法にメリットとデメリットがあります。目的のゲノム編集を達成するためにはこれらの方法を組み合わせることもよくあります。この中では、CRISPRを用いた方法が高効率で柔軟性が高いため、特に効果的とされています。
方法 | 概要 | メリット | デメリット |
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CRISPR-Cas9 | gRNA誘導性のCas9によって生じたDSBが、ドナーDNA存在下で相同組換えにより修復されることで、目的の改変を導入する。 |
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λ-Red recombinationシステム | λバクテリオファージ由来で、Exo, Beta, Gamタンパク質を利用することで高効率に組換えができる。 |
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致死プラスミド | 特定の宿主/条件でのみ複製できるようにデザインされているプラスミド。 |
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