どのウイルスベクターを使うべき?

生物医学研究で広く使われるウイルスベクターはレンチウイルス、マウス白血病ウイルス(MMLV)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)などがあり、それぞれに長所と短所があります。選択すべきウイルスベクタータイプは実験内容に依存します。考慮すべき点としては、ウイルスは使用する細胞と親和性があるか(感染可能か否か?)? 使用する細胞は分裂可能か否か?ウイルスを一過的に導入したいのか、もしくは宿主細胞ゲノムに安定して挿入させたいのか? どの程度の導入効率が欲しいか? 目的遺伝子を発現させるプロモーターにカスタマイズは必要か? ウイルスの使用環境は培養細胞、それともin vivo? ウイルスへの免疫反応は実験に影響するのか?などが挙げられます。ウイルスベクターを選択する際に下記の表をご利用ください:

レンチウイルス MMLV アデノウイルス AAV
親和性 広範 広範 いくつかの細胞には非効率 ウイルス血清型に依存
非分裂細胞への感染 ×
一過的 or 恒久的発現 ゲノム挿入による安定発現 ゲノム挿入による安定発現 一過的、エピソーマル 一過的、エピソーマル
最大タイター 高い 中程度 非常に高い 高い
プロモーターのカスタマイズ ×
主な使用対象 培養細胞、in vivo 培養細胞、in vivo In vivo In vivo
In vivoでの抗原性 低い 低い 高い 非常に低い

レンチウイルス

レトロウイルスの一種であるレンチウイルスは、細胞に感染すると自身のRNAゲノムを逆転写して宿主細胞のゲノムに挿入します。これを利用するとウイルスベクターからの遺伝子の安定発現が可能になります。レンチウイルスは高いタイター(>108 TU/ml)で生産することが可能で、好条件下で100%近い導入効率を得られます。分裂、非分裂細胞の両方に幅広い親和性を持ち、細胞毒性と免疫原性も高くありません。レンチウイルスは哺乳類の培養細胞へ非常に高効率な遺伝子導入が可能なので、最も頻繁に使われています。レンチウイルスは主に培養細胞のin vitro導入に使われますが、生体内の細胞への導入にも使用できます。

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MMLVレトロウイルス

MMLVもレンチウイルス同様にレトロウイルスです。広い親和性を持ち、宿主細胞のゲノムに安定して挿入されるために安定した遺伝子発現を達成できます。MMLVはレンチウイルスと比べて非分裂細胞への感染効率が悪く、細胞性免疫反応を引き起こしやすいです。さらに、MMLVや類似のレトロウイルスのタイターは通常、レンチウイルスの1/10程度になります。そのほかのMMLVの主な欠点として、ウイルス由来の5‘LTRによって目的遺伝子は発現されるので遺伝子の発現に使うプロモーターの変更ができません。 一方で、レンチウイルス、アデノウイルス、AAVはプロモーターの変更が可能です。これらの理由からMMLVは最近ではあまり使われていません。しかし、技術的や理由や前例のために、iPS細胞の誘導等に使用されることもあります。

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アデノウイルス

アデノウイルスのゲノムは感染細胞のゲノムに挿入されずにエピソームとして維持されます。通常、アデノウイルスベクターによる遺伝子発現は一過性で、特に分裂の速い細胞では時間経過とともにエピソームは失われます。アデノウイルスは分裂、非分裂細胞への遺伝子導入ができますが、適切な細胞表面受容体を持たない細胞株での効率は悪くなります。アデノウイルスは細胞及び生体において強い免疫反応を引き起こし、特定の実験では障害となります。アデノウイルスは非常に高いタイターで生産可能(>1010 TU/ml)ですので、感受性の高い細胞の非常に高効率な遺伝子導入が可能です。アデノウイルスは遺伝子治療やワクチン接種のようなin vivo遺伝子導入に利用されています。

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アデノ随伴ウイルス(AAV)

AAVは一過性の遺伝子発現をする、別タイプのエピソーム型ウイルスです。アデノウイルスとは違い、AAVはin vivoで非常に低い免疫原性を持ち、ほぼ完全な非病原性を持ちます。AAVはほとんどの場合バイオセーフティレベル1の施設で扱うことができ、実用的です。AAVは分裂、非分裂細胞のどちらにも感染できます。当社のAAVベクターをウイルスにパッケージングするときには、異なるカプシド蛋白質を使うことで血清型を変換することができます。ウイルスはその血清型によって組織親和性が違いますので、任意の組織に感染させたい場合は適切な血清型を選択してください。AAVウイルスの生成時に得られる高いタイターは効率的な遺伝子導入を約束します。AAVは多くの動物実験にとって理想的なウイルスベクターです。

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References Topic
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